第二十話「許しませんよ?」
ま、間に合った……。
しかし、結構急いで書いたので書き直すかもしれません。
「な、何を言ってるんだ?」
小さな女の子とは思えない威圧感に押されつつも、竜夜は演技を続ける。
しかし、頭では理解している。
彼女にはこんな演技などもう意味がないと。
「何と言われても、聞かれたことを答えているだけですが?」
「俺は、君が言っていることが理解できない。俺は、君に初めて会ったんだ。それに、君が言う人を傷つけたなんて」
「木山陽樹」
リィリアの口から発せられた名前に、竜夜は口が塞がる。
「わかりますよね? だって、あなたの幼馴染、なんですから」
「……」
竜夜は思考する。
まさか陽樹が湊を取られた腹いせに? と。
(いや、だがそんな素振りは見せなかった。むしろ、受け入れていたじゃねぇか)
しかし、ふと湊の姿を思い出す。
偶然にも遭遇した時、湊は魂が抜けたかのようにおかしかった。そして、その時に見知らぬ少女の後ろ姿を見た。
(そうだ。あの時のガキは、こいつだった。てことは、陽樹の奴がまず腹いせに湊を……ちっ。まさかガキを使うとはな。だが、この雰囲気。ただのガキじゃねぇのは確かだな)
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない。それで、俺を探してたってことは、陽樹に頼まれて報復でもしに来たってか?」
もう演技をする必要はない、と竜夜はリィリアに対して敵意を見せつつ、警戒心を高める。
「まあ、そういう風に考えてもいいです」
「そうかよ……たくっ、陽樹の奴。情けねぇな、マジで」
「どういうことですか?」
「わかんねぇのか? 俺に報復してぇなら、自分でやれってことだよ。湊が取られたのは自分の鈍感さが招いたことだってのに。しかも、こんなガキに頼むなんて……マジで情けねぇ男だ」
刹那。
ずっと感じていた威圧感が、更に重く感じるようになった。
周囲の音が……止んだのだ。
「情けないのは、あなたの方じゃないですか?」
「は、はあ? なに言ってんだ? 俺のどこが情けないってんだよ」
リィリアの気迫に押されながらも、竜夜は言い返す。しかし、体は震えていた。
ありえない。
こんな幼い女の子に怯えるなんて、と唇を噛む。
「情けない。あまりにも情けないです。だって、あなたは湊さんのことが好きだと言うのに……告白を一度もしていないではないですか」
「……」
言い返せなかった。
何故なら事実だからだ。だが、どうしてそのことを知っているのか? このことを知っているのは自分自身だけ。
それを、ほとんど初対面の子が知っている。
いくら現代の情報化社会が凄いと言っても、まったく開示していないものだ。このことは、己の心の中に隠している真実。
「あなたは、ずっと湊さんに好意を向けていた。そして、湊さんが陽樹お兄ちゃんのことを好きだと言うことも理解していた。あなたは、諦めていたのではないですか?」
「ろっ」
淡々と語るリィリアに、竜夜は俯く。
「どうせ告白しても、湊さんは陽樹お兄ちゃんが好きだから断られると」
「やめろ……」
語られる言葉が、突き刺さる。
何故なら全て真実だから。
「だから、あなたはチャンスだと思った。最初に告白して失敗し、それから何時まで経っても告白しない彼女を見て」
「黙れぇ!!」
爆発した。
竜夜は、怒りのままに拳を振るう。
「哀れですね……」
呟きと共に、リィリアの深紅の瞳が輝く。
「ぐあっ……!?」
すると、竜夜は急に立ち眩み、地面に倒れる。
「な、んだ……これ」
体に力が入らない。まるで、貧血にでもなったかのように、視界が霞んでいる。
「あなたに良いことを教えてあげます」
「いい、こと?」
散々人の心を抉っておいてなんだ?
未だに体が動かない竜夜の耳元でリィリアは呟く。
「湊さん。もう立ち直りましたよ」
「……はっ?」
貧血のせいで、耳までおかしくなったのか? と、聞き返すが。
「それも、陽樹お兄ちゃんのおかげで、です」
追い討ちをかけるかのように強烈な一撃が襲う。
それは、竜夜にとって改心の一撃になるものだった。もっとも、あってはならない展開。
だからこそ竜夜は。
「信じ、ねぇ……そんな嘘……!」
リィリアの言葉を否定する。
そんなことがあるはずないと。そんなことがあっては、今まで自分がしてきたことは何だったのか?
全てが……台無しになる。
だから、己の目で見て、耳で聞くまでは信じない。
「では、証拠写真をお見せします。はい」
視界がはっきりとする。
その後、目の前に映ったのは……湊とその母、薫子。そして、陽樹が仲良く笑顔で肩を組み合っている写真だった。
「あなたがわたしに対して復讐心を燃やしている中、陽樹お兄ちゃんは湊さんと向き合い、共にやり直そうと、彼女の犯した行いを受け入れたんです。今では、元気に学校に通っているんですよ?」
「馬鹿な……湊は、俺の」
「湊さんは、あなたのものではありません。気づいていないでしょうが、彼女があなたに従ったのは悪魔の力があったからこそです」
スマートフォンを下げ、リィリアは竜夜を見下ろす。
「そして、あなたにあったのは愛情ではありません。あなたが湊さんに向けていたのは……ただの独占欲」
「違う……俺は、本当に」
「本当の意味で愛していた、と言い切れますか? だとしたら、彼女の気持ちを利用するなんて卑劣な行為をするはずがないと思いますが?」
何も言い返せないまま竜夜は、拳を握り締める。
「どうやら、すでに悪魔は去ったみたいですが。あなたにはまだ力が染み付いています。かなり濃く染み付いていますね……これは取り祓った場合、あなたはしばらくの間意識を失いますね」
「さっきから、何を言って」
理解できない。もう、何も理解できない。目の前に居るのは、本当に同じ人間なのか?
女の子なのか? 竜夜の精神は、もはやぐちゃくちゃだ。
これ以上は、精神が壊れる恐れがある。
「悪魔さん? もし、わたしの声が聞こえているのなら覚えておいてください。もし、これ以上は陽樹お兄ちゃんを苦しめるようなら……許しませんよ?」
それを最後に、リィリアは何もない虚空を払う。
「あっ……」
まるで、糸が切れたかのように竜夜は気を失う。
「さて、これで悩みの種がまたひとつなくなったけど、まだまだかな。元凶が残ってるからね。わたし、頑張るよ……陽樹お兄ちゃん」
夜空を見上げ、くすりと微笑むリィリア。
その想いは、ただ陽樹のために。
はい。またもや、小さな女の子とは思えない言動でしたね。
なんだかヤンデレっぽくなってしまいましたが。自分は嫌いではないです!




