魔族を怒らせてはいけない
魔王の娘であるルアティナの幼なじみは宰相バアルの息子だ。
バアルは青い髪に赤目だが、息子のジャスパーは違った。
冷ややかな美貌の父とは真逆の華やかな容貌であり明るい金髪に魔族お馴染みの赤目。
バアルは常に表情が冷ややかだがジャスパーはよく笑っている。
はずだった。
現在のジャスパーは真顔で魔法石に写る三人の男女を見ていた。
一人は男で正直言うと不細工、もう一人は男にしなだれかかる不愉快な女。
そんな二人に対しもう一人の女は
口元を押さえて震えていた。
その女は二人とは比べ物にならないほど美しい。
震えているのはジャスパーの幼なじみであるルアティナだ。
口元をひくつかせてジャスパーは魔法石をにぎりしめる。
「貴様を家ごと国外追放する!その穢れた姿を二度と私の前に見せるな!」
「その通りだわ!」
「・・・もう許さない」
そこには普段の穏やかな青年はいなかった。
幼なじみに吐かれた言葉を聞いた瞬間パリンッと音をたてて魔法石がくだけ散った。
魔法石を握り潰したジャスパーは立ち上がると魔王の執務室へ走り去った。
執務室を開けたジャスパーは父を見つけると叫んだ。
「親父!もうぶっ殺す!」
「私をか?!」
「あいつだ!」
「だから誰だ!」
ドスのきいた声で語る息子にバアルはあわてて聞き返した。
執務室では魔王と軍団長が殺気を放ちながら今にも飛び出していきそうな勢いだ。
「もう許さん!ブレス三発程撃ってくる」
「俺はバズーカ撃ちますぜ!十発!」
「八つ裂きにしてからなぶり殺しだ」
「落ち着けよ!!」
今にもドラゴン化してブレスを撃ちそうな魔王に、極大なバズーカを持つ軍団長、そして自分と顔が似ているのに
恐ろしい息子。
皆、口が笑っているのに目が笑っていない。瞳孔がガン開き状態だ。
そんな三人を必死にバアルはなだめた。
三人をなだめながらバアルは生き残った魔法石で現状を見ていた。
婚約破棄から次の日、国王に呼ばれたルアティナを見ていると謝っている国王に被せて王妃が何かを言っているのにバアルは気が付いた。
「あれはルアティナ嬢が魔族だったから嫌だったと思うの」
バアルは青筋を立てながらその言葉を聞いていた。青筋を立てたバアルにお構い無しに言葉は続く。
「魔族は野蛮で悪い人たちばかりでしょう?それに貴方は悪役令嬢で」
バキッと派手な音をたてて最後の魔法石が叩き潰された。
「もう許さねぇ・・・」
王妃の言葉はバアルの逆鱗に触れた。バアルの瞳孔がガン開きになるのは時間の問題である。
魔国で一番怒らせてはいけないのは宰相のバアルであることは暗黙の了解だった。
怒らせてはいけないバアルを止めるものはもうここにはいない。




