表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
前世日本の高校教師は、異世界で本物の教育者になる。  作者: 七四
第3章 ブランシュタイナー侯爵の野望
20/56

裏切りと出会い

日が落ちたころ。


グルンは殺気を感じていた。


先ほどからルペルペの周りが慌ただしい。


此処は木賃宿なので、あまり治安はよろしくない。

それでも、最低限度のルールがある。

今はそのルールさえ無視した慌ただしさがあった。


「あれはワグルか?」

物陰に潜みながらグルンは小さな格子状の窓から外を確認して呟く。


「やはり、裏切るか。狙い通りとはいえ悲しいものだな」

グルンは部屋を音もなく出て、外に出る。

その瞬間、宿から火が出る。


宿の外ではワグルがニヤニヤと宿を見ていた。


「銀貨の数が少しばかり足りなかったなぁ?オルカよ」

ワグルが呟くように言った。


「アレキサンドからの依頼か?情報屋が手を出したら御終いだなぁ、ワグルよ」

ワグルの後ろから声がした。

それはグルンだった。


「オルカ!宿の中に居るという情報が!!」


「お前の仲間は別の部屋でも見たんじゃないのか?まあ、俺がそう仕向けたんだがな。俺が平和ボケしてそんな初歩的な策略をしないとでも?」


「ぬかった!者ども!こいつを殺せ!殺した奴には金貨をやるぞ!」

ワグルがそう叫ぶと路地裏からゾロゾロと屈強な男たちが出てきた。

その数は10人を超えていた。


「…致し方ない」

グルンは背中から剣を抜いた。それは柳葉刀りゅうようとうだった。

颯爽とグルンが動く。


円を描くように切り付けるその姿は、まるで演武を見ているようだった。

一太刀で屈強な男の首が飛ぶ。


首からは盛大に血が噴き出した。


「殺せ!殺せーー!」

その姿に恐怖したワグルが叫ぶ。


男どもが慌てながらも、個別にグルンに襲い掛かる。

しかし、グルンは涼しい顔をして演武を続けた。

グルンが舞うたびに男どもの腕や足や首が飛んだ。


15分ほどで屈強な男どもは阿鼻叫喚の叫び声をあげて、ある者は絶命し、ある者は倒れ痙攣し、ある者はその場から逃げた。


そして、ワグルとグルンが正面に対峙する。


「さすがは『青竜』ブランシュタイナー侯爵が欲しいとまで言わしめた男」


「そこまで評価されてるとは思ってもみなかった。まあ、興味は無い」


「俺を殺すか?戦友よ!」


「戦友?俺はお前に利用されたことはあっても、共に戦ったことは無かったが?」


「!!」


「まあ、あの世でしっかり情報を溜めこんどくんだな。気が向いたら買いに行ってやるよ」


そういうとグルンは一気に間を詰め、首を刎ねた。


グルンはヒュッと柳葉刀りゅうようとうから血を薙ぐと鞘に納める。

そして、ワグルの腰から革袋1つもぎ取った。それは、グルンがワグルに渡した革袋だった。


「これはブルト領の領民が汗水たらして作った金だから返してもらうぞ。残りはあの世に持っていくがいい」

グルンはそう呟くと足早にその場を去った。


『しかし、ここまで来たが成果無しか…アレキサンドリアまで来れば噂ぐらいは流れてると思ったが…アレキサンドも隙が無いな』

グルンが思考を巡らせながら酒場で軽く酒を飲む。


どう見ても手詰まりだったが、グルンは諦めきれなかった。


「あら~?いい男。私にも一杯奢ってくださらない?」

一人の女がグルンに近づく。


胸まで伸びる青い髪。それは少しウェーブがかかり、流れるように伸びていた。歳は20代前半ぐらいで胸が大きく、ウエストは細かった。服装はパツパツのドレスを身にまとい、一見して娼婦の様な雰囲気を漂わせていた。

しかし、その燃えるような意志を持つ瞳は、美しく。顔立ちも整っており、なんとなく領民では醸し出せないような雰囲気を持っていた。


そのような女性がグルンの隣の席に座る。


グルンは警戒した。

警戒しつつも断る理由もないので、一杯の酒を奢る。


「あら!嬉しい。いただきま~す」

彼女が酒を豪快に飲み、一往復で全てを飲み干した。


グルンはその豪胆さに驚きながらも喋りかける。


「まだ飲むか?」


「いや~ん、酔わされちゃう~♪マスター!!同じの!」

彼女は大げさにぶりっ子の様な動きをして、注文した。


グルンはその姿を怪訝な顔で見ていた。


『美人局ではなさそうだし、娼婦とも違う。何が目的だ?』


アレキサンドリアでは美人局も非常に多い。

グルンもここに来る途中、屈強な男に身包みを剥され、裸のまま逃げる男を何人も見た。


「な~に?私の顔に何かついてる?グルン・オーガント・ヘルムントさん」


グルンはその言葉で、ゆっくりと静かに武器に手をかけた。


「君が私の名前を知っているのに、私は君の名前を知らない。自己紹介をしてくれないか?かわいいお嬢さん」

軽い口調でグルンは言うが、目は鋭く、有無を言わせない雰囲気を醸し出していた。


「こわ~い♪私の名前はミリム・リリーナ。この近辺で流しの歌手をしているわ」

ミリムは軽い口調で言う。


「で?その歌手が俺に何の用だ?」

グルンはいつでも剣を抜ける準備をしていた。

そして、最短の脱出経路を確認する。


「私をブルト領に連れ出してほしいの。お礼は、貴方の欲しがっているも・の♪」

ミリムはそういうと酒を一口飲む。


「なぜブルト領に来たいのだ?ブルト領は知っての通り、貧しい領地だ。酒場も無ければ、歌手として歌う場所もない。退屈なだけだと思うが?」


「私は貴方の様な重要なポストで働きたいの。そしてゆくゆくは貴族として、ワルミド領を取り返すわ」

ミリムは鋭い目つきでグルンに語る。

グルンはその一言で思い出した。


ワルミド男爵には女児が一人だけ居た。


歳はルミナとあまり違わなかったはずだ。

エレナの婚礼の付き添いをしたとき一度見たが、恥ずかしがり屋で、ワルミド男爵の後ろでこちらを見ていた。

見たのはそれっきりで、その時は可憐な少女だったのを覚えている。


その時の少女と横にいる女性が同じとは、時の悪戯にもほどがある。


グルンは驚き武器から手を離した。


「昔の名前はヴェルナ・ヒルト・ワルミド。でもワルミド領が無くなって、その名前は捨てたわ。ミリムと呼んで」

ミリムは残りの酒を一気に飲み干す。


「ホーカー様や、ほかのご兄弟は?」

たしか、ワルミド男爵は男子が3人いたはずだ。

グルンは行方が気になった。


「両親を含めて、全員首を刎ねられ殺されたわ。私の目の前で…」

ミリムは寂しそうに言った。


「エレナ様は?」


「その前に…私を連れて行ってくれるの?くれないの?契約が先よ」

ミリムはニヤリと笑い、グルンに迫る。


『これが俺の欲しかったものか…確かに真相に迫る情報だ』

グルンは少し考えたがミリムの条件をのんだ。


「わかった。連れて行こう。そして、家の再興の為、仕官の道もルミナ様に進言しよう」


「ふふ♪ありがと♪」

ミリムはグルンの頬に軽くキスをする。


『あの時の少女がこうも妖艶になるとは…時間の流れは恐ろしいものだ』

グルンは頬を擦りながら思う。


「エレナ様は囚われたわ。あの男に」


「アレキサンドにか?」


「そう。せっかく産まれた子供も殺されて、可哀想だったわ」

ミリムは周囲を警戒しながら静かに話す。

その眼には薄らと涙を浮かべていた。


「アレキサンドは狂人だ」

グルンは吐き捨てるように言い、酒を一気に飲み干す。


「奴には強大な悪魔がついているわ。それは…」

ミリムは話を続けようとしたが、グルンがそれを『しー』というジェスチャーで制止した。


「その話の続きはブルト領で聞こう。すぐ発てるか?」


「着替えればすぐに発てるわ。15フルぐらい待ってくれれば…」

ミリムはそこで、周りに殺気があることに気が付いた。


「どうも、急がないとまずいな。準備でき次第、城門外の森に集合でいいか?」


「ええ。10フルもあればいけるわ。待ってて♪」

ミリムはまた、グルンの頬にキスをする。


「妻帯者だからブルト領ではその言動は控えてくれよ。勘違いされる」

グルンは頬を擦りながら困ったように言った。


「あら?私はグルンさんは好きよ。なんなら2番目、3番目でも構わないわ♪」

ミリムは妖艶に語る。


この世界でもある一定の富裕層は妻を多く娶る。

それは、子孫繁栄の為、ごく一般的な行動だった。


「それは、遠慮する。ミリムには良い人が現れるさ。では、行くぞ!」


「りょーかい。ふふふ♪」

グルンとミリムは足早に酒場を出る。


酒場を出た途端、闇に隠れて個別に移動した。

その速さは常人では追跡困難だった。


「くそ!!!逃げられた!!!」

酒場から数人の男が飛び出し、悔しそうに嘆く。


「しかし、グルンの隣にいた女は誰だ?」


「いい女だったが…知らねぇな。とりあえず仲間じゃねえな」

男たちは口々に勝手な事を言いながら酒場を後にした。


『仲間じゃないか…あの話も信憑性があるな』

グルンは酒場近くの物陰から出てくる。


逃げたと見せかけて、相手の動向を見るためだ。

歴戦の傭兵であったグルンは簡単には相手を信用しない。

それは味方のような人物であってもだ。


特にここはアレキサンドリア。

欲望の街。

裏切りや謀略が渦巻いている街なのだ。


グルンも、過去仲間に裏切られ死にかけている。

そのおかげでブルト領に来られたのだから、今では良い教訓としてグルンの心に深く刻み込まれていた。


グルンは周囲を確認し、闇夜に紛れ、集合地点へと向かった。


※11/11少し改稿

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ