第十九話 幼馴染の選択
夜の森に一人出かけるレリース。なぜ?
暗い森の二本杉の下でレリースは座っていました。ランプの灯りに集まる虫が目の前を舞いますが、気にせず灯りを眺めています。
村から近いとはいえ、野犬や毒蛇などの危険がともなう夜の森。膝を抱え、表情はうつろでした。
「遅かったな」
ふいに暗闇から男の声がしましたが、彼女は慌てる事もなく、声の先にちらりと視線を向け返事をしました。
「ごめんなさい、妹たちがなかなか寝なくて」
「まあいい。話を聞こうか」
「いつもと同じでいいのね」
レリースが口にした内容は、アガルタ親子に関する事柄でした。最近起きた事を主に、自分が見聞きした事を語りつづけています。その声にも抑揚は無く、淡々と事務的に口を動かしていました。
暗闇の中の男は黙ってそれを聞いています。
「これだけよ……」
二人に関する事を伝え終わり口を閉じると、次は男からの質問が始まりました。
「明後日、旅立つんだな。それにしても足癖の悪い娘だな」
「そんな言い方はしないで」
「目的地はどこだ」
「最初はカンネの町。そして冒険者学院へ向かうわ」
「本当だな?」
「しつこいよ、私が嘘をついてどうなるの」
「ふっ、それもそうか。分ったこれが今回の報酬だ」
その声と共に大きなずた袋が彼女の足元に投げ込まれ、その袋の口からこぼれたのは小麦。山間の村においてそれは平地でしか育たない貴重品です。
彼女は袋を一気に引き寄せると、地面にこぼれた麦の粒を丁寧に一つ残らず拾っています。
「ねえ、ひとつ聞いていいかしら」
「なんだ」
「次はあるの?」
「どういうことだ」
「二人が村から居なくなったら、もう終わり?」
「そういう事か。お前に用が無くなるのではと恐れたのか」
「そうよ。いけないかしら。もう夏も終わり、あっという間に山は寒くなるの。秋の少ない収穫だって半分は領主様にとられちゃう。今年の冬を越す為には蓄えないといけないから……」
レリースの表情は無表情から固くなり、深刻な訴えだと判ります。
「食い扶持を減らせばいい事だろうに。そうだな、程よく育ってきたお前なら、どこかに世話をしてやっても構わんがな、クッククッ」
「やめて、変な目で私を見ないで下さい。弟や妹達と一緒に暮らして飢えさせたくないの、ただそれだけ」
彼女は男の方を見ずに、唇を噛みしめて目の前の灯りを凝視しています。
ランプに集る羽虫はその数を増し、灯りの火に焼かれて、ひとつまた一つと堕ちていきます。
―――私も同じだ。
レリースはそう思いました。
「心配するな。……クククッ、悪いようにはしない」
男の薄ら笑いと腰ベルトの金具からカチャカチャと音がもれ、小枝を踏み折りながらレリースに近づく気配。
それを察した彼女は黙って目を閉じ、地面に横たわり顔を背けました。
その肩は震え、指先を唇で噛むと両の目からは涙がこぼれはじめています。
そしてやってきた男の固い手のひら。
ワンピースをはだけさせられ、むき出しにされた柔らかく白い太腿が、ランプの薄明かりに浮かんでいます。
そこを執拗にさすられる感触。
―――わたしの馬鹿……うぅ、嫌だよ。
次回、少女の戦い
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