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お留守番に秘められた思惑の中に眠る真相。思い出はオスカルの心の中に!

ついに明かされるお留守番の真相。

ジョゼフィーヌの違和感とは?

二歳児のお留守番物語ついにフィナーレ!

 チュイルリー宮殿に帰り着いた馬車から、凄まじい殺気を放ちながら降りてきたジョゼフィーヌ。

「ナポレオンッ!!」

 第一執政の執務室の扉を蹴破る勢いで開け放ち、ジョゼフィーヌはナポレオンの目の前にドカンと仁王立ちした。

「ひっ……!?なんだ突然……フォルチュネどうしたんだ、その見事な水墨画のような模様は……」

 ナポレオンが引きつった顔で尋ねる。彼の視線の先には、最高級の黒インクで全身に奇怪な幾何学模様を施され、完全に虚無の境地に至ったフォルチュネが力なく座り込んでいた。

「ナポレオン、静かに聞いてちょうだい。」

 ジョゼフィーヌの声は、怒りを通り越して冷徹なまでの響きを帯びていた。

「お茶会の最後、デジレさんから面白い話を聞いたわ。

 数日前、お義兄様のジョゼフが仕事でローマに旅立つ前のパーティーでね、デジレはお義母様に会って、オスカルちゃんが化粧品をぶちまけようとしたり、宝石箱やジュリーのティアラを叩き壊そうとしたことを話したんですって。その時、お義母様はお腹を抱えて大笑いしていたそうよ。」

 ナポレオンの目が点になる。

「……つまり、お義母様は最初から知っていたのよ。オスカルちゃんが、白粉の箱をぶちまけて粘土にするわ、宝石箱を床に叩きつけるわ、挙句ティアラを打楽器にする『天才的な破壊神』だということをね!」

 ジョゼフィーヌは一歩、ナポレオンに詰め寄った。

「私がここ数日抱いていた『違和感』の正体はこれだったのよ。他所の子だろうと二歳児だろうと、あの質素堅実でコルシカ仕込みの厳格なお義母様が、オスカルちゃんがどんな悪さをしても『すごいねえ~』とか『感受性豊かな子だね』なんて言って、()()()()()()()()()()なんて、明らかにおかしいでしょう!?」

「あ、ああ……。確かに、私が子供の頃は、少しでも悪さをすれば母上に物差しで叩かれたものだが……」

 ナポレオンがガタガタと震えながら記憶をたどる。

「そうよ!今回、お義母様がデジレさんのご実家を気遣うフリをして、強引にオスカルちゃんを我が家で預かった本当の目的……それはね、宮殿でオスカルちゃんに思いきり好きなことをさせて、『嫁の私を徹底的に困らせてやろう』という、お義母様の壮大な策略だったのよ!!!」

「な、なんだってえええええーーーッッ!!!」

 ナポレオンの叫びが執務室にこだました。

 なんというコルシカ式の恐るべき執念。贅沢な調度品を買い漁る嫁への、義母からの「二歳児(生物兵器)」を使った無言の経済的・精神的制裁。それがこの二ヶ月に及ぶ大騒動の、真の裏事情だったのだ。

「デジレさんの人柄に免じて、ベルナドット家には一フランも請求しないわ。でもねナポレオン、よく聞きなさい。」

「はっ・・・はい・・・」

「次にまた、お義母様が何かの理由をつけてオスカルちゃんを我が家に預かろうとしたら……政治生命、自分の命、そして全身全霊のすべてをかけて、地獄の底に落ちようとも絶対に阻止しなさい!!わかったわねナポレオン!!!」

 ジョゼフィーヌの怒号に宮殿全体がミシミシ、ビリビリと揺れ動いた。

「ぎ、ギャアアアアアッ!? 承知いたしましたぁぁぁーーっ!!!」

 チュイルリー宮殿を揺るがす悲鳴。

 数々の戦場をくぐり抜けてきた英雄ナポレオンは、激怒する妻と、真っ黒になった愛犬の前で、涙目でガタガタと震えながらビシッと敬礼するしかなかったのだった。


 ナポレオンの部屋を出たジョゼフィーヌは宮廷の侍女たちを総動員し、フォルチュネに何度もシャンプーを施した。

 当時は石鹸技術を応用した洗髪剤が使われていたが、オスカルが使用した最高級の黒インクは、執念深くパグの黄金色の毛に絡みついていた。何度洗っても、インクはわずかに薄くなるだけで、フォルチュネの体には依然として奇怪な黒い幾何学模様が刻まれたままだった。

 たまりかねて呼び出された獣医は、疲れ切った顔でジョゼフィーヌに告げた。

「マダム・・・これ以上シャンプーを繰り返すのは危険です。皮膚のバリア機能を損ない、健康を害する恐れがあります。インクは毛の根元まで染み込んでおりますので、完全に消すには換毛期まで待つしかありません。」

 パグには年に二回、春と秋に被毛が大量に生え変わる「換毛期」がある。短毛種であるパグは毛周期のサイクルが比較的早いが、それでも新しい毛に生え変わるまでには相応の月日が必要となる。

「換毛期までですって!? あと数ヶ月も、私のフォルチュネをこの『呪われたブチ犬』のままにしておけと言うの!?」

 ジョゼフィーヌは豪華な扇子を握りしめ、心の中で(あるいは半分口に出して)絶叫した。

「あんのクソガキャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 一方、当のフォルチュネはといえば。

 かつて投獄されたジョゼフィーヌの秘密の伝令を届けたという逸話を持つ、賢くも勇敢な彼は、怒り心頭の主人の足元で、オスカルが施したお化粧を鏡に映し、親友との楽しい日々を思い出すのであった。


 成長と引き換えにオスカルの中にあるお留守番の思い出は消え去っていくが、何気ない日常もまた歴史の一部である。

 天使がチュイルリー宮殿に残したお留守番と置き土産の思い出は、オスカルが大人になっても朧げな光景として彼の心を包むのだ。

 後年、ナポレオンはそんな歴史があるかと叫んだそうだが、それはまた別の話。


(おしまい)

ナポレオンの母、レティツィアによる壮大かつ綿密な策略!この親にしてこの子あり!

ナポレオンの母、レティツィアもコルシカ独立戦争で銃を持って戦いました。もしかしたらナポレオンの才能はこの母親から受け継いだのかもしれません。

これにてお留守番物語!完結です!ありがとうございました!

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