第一章:葬送の野、あるいは執着の炎
あれは村長が、まだ血気盛んな若者であった頃の、信じがたい述懐である。
村長の育った村には、死者を焼くための設えられた火葬場などはなく、村外れの湿った原っぱが、古くからその役を担っていた。そこは一本の細い野道が尽きた先にある、およそ生者の通わぬ荒れ地で、周囲を鬱蒼とした藪に囲まれた、陽の光さえ忌むような寂寥の地であった。
ある秋の暮れ、村長の叔母が、長い患いの末に息を引き取った。
村の習いに従い、亡骸は村人たちの手でその原っぱへと運ばれた。薪を高く積み上げ、死装束を纏った叔母をその上に横たえると、夕闇の中で火が放たれた。赤黒い炎が、湿った薪の爆ぜる音と共に、しがみつくように遺体を舐め始める。村人たちは、煙の中に死者の魂を見送ると、夜の闇に追われるように、足早に村へと引き揚げていった。
村長も一度は自宅へ戻ったものの、囲炉裏の傍に座していても、心が騒いで仕方がなかった。
(もしも、火が弱まり、叔母さんの身体が無惨に焼け残ってしまったら……。明日、様子を見にきた村人たちに、その無惨な姿を怖がられたり、忌み嫌われたりしては、叔母さんがあまりに不憫ではないか)
そう思うと居ても立ってもいられず、村長は夜が更けるのを待ち、ただ一人、再びあの原っぱへと足を向けたのである。
提灯の灯を頼りに、闇を切り裂くようにして野道を辿ると、遠くにゆらゆらと、地獄の業火を思わせる炎が見えてきた。
到着した原っぱでは、なおも火が衰えることなく燃え続けていた。村長は少し離れた場所にある苔むした石に腰を下ろし、ぼんやりと炎を見つめ始めた。時折、長い竹竿を手に取っては、骨が均一に焼けるよう、炎をかき回し、肉を突く。そのたびに、火の粉が夜空へ舞い上がり、叔母の形を成していたものが、次第に灰へと帰ってゆく。
夜風が冷たく吹き抜ける頃、村長は「もう、これで充分であろう」と立ち上がった。
一仕事を終えた安堵感と共に、一本の野道へと踏み出したのである。
風になびくススキの穂が、まるで死者の手が招いているように白く揺れていた。自宅までは、歩いて一刻もかからぬ道のりである。村長は住み慣れた土地を、ゆっくりと歩み始めた。
ところが。
ふと顔を上げると、視界の先に、先程見たばかりの赤い炎が揺れているではないか。
村長は呆然とした。
(おかしい。今しがた、野道に出たはずではないか。なぜ、またあの石の前に立っているのだ)
何かの間違いだと思い、再び踵を返して道へと踏み出す。提灯を振りかざし、一歩一歩、確かに村の方角へ歩いているはずであった。しかし、気がつくと足は勝手にあの原っぱへ向かい、目の前には、依然として叔母を焼く炎が嘲うように燃え盛っているのである。
その後も、三度、四度と同じことを繰り返した。
狐に化かされているのか、あるいは地面が歪んでいるのか。何十年も住み慣れた村で、一本道の帰り道を見失うはずなどない。だが、どう足掻いても、この呪われた原っぱから抜け出すことができなくなってしまったのである。




