95.最終回
「はー…緊張したー…」
『立派だったよ、乃木さん』
『あんなにたくさん来るとは思わなかったね。でも綺麗な子たくさんいたなぁ…』
『昔より女の子増えてたな』
始祖がいると公表すると言ってさらに二か月が過ぎた。
ディティ本山はアーキルさんやオヴェールさんのおかげで前と同じぐらいの復興を遂げ、つい先ほど私たちは信者や観光客の前に姿を現した。
地面が揺れるほどの熱狂と雄叫びに圧倒されたけど、ニコラウスさんと三ヶ部さんたちのおかげで私は一切言葉を発することなく始祖であることを公表できた。
最初に話し合ったとおり、三ヶ部さんたちは始祖像がある部屋の近くに棺を移動してもらい、いつでも誰でも眠っている三人を拝むことができる。
名前も公表され、彼らの調子がいいときには幽霊となって姿を現すことがあるという言葉にたくさんの人がディティ本山を訪れるようになった。
もちろん、私も注目されたけど三人とニコラウスさんが「彼女に近づくな」と何度も何度も言ってくれたおかげで誰も近づいて来ない。
噂はされるけど顔は誰にも見られてないから普段は問題なく過ごすことができる。
細かい問題はあるものの害はない。これで本当にようやく全てが終わった。
「三ヶ部さん、ジョンさん、ダニエルさん。色々とありがとうございました」
『気にしないでくれ。俺がしたくてやってるんだ。それに同じ日本人だろ』
『君には穏やかに過ごしてほしいからね』
『ま、あいつのせいで不老になったのはご愁傷様だっけ? それしか言えないけど』
「あの人に言っても無駄ですし、開き直って楽しいことします。それに不老みたいな三人がいるから安心です」
『うん、いつでも遊びに来て』
公表を終えた私たちはこのまま東大陸に戻ることになっている。
ニコラウスさんはここに残ってほしいみたいだけど、私は王国…王都に戻りたい。
なんだかんだ長くいた国だし、レグとセトさんの故郷でもあるからね。セティさんにも早く会いたい!
最後の別れじゃないけど三人と別れるのは少し寂しい。目頭が熱くなるのを誤魔化し、頭を下げる。
「本当に本当にありがとうございました。また絶対に遊びに来ます!」
『無理はしないでいいからね。俺らにはたくさん時間があるし』
『そうそう。どうせなら今度は子供が産まれたらおいで! きっとトワコの子供なら可愛いんだろうなぁ』
『まぁ身体を一番にな。楽しみにしてる』
「はいっ! みなさんもお気をつけて!」
『『『もう死んでるから大丈夫』』』
笑顔の三人に私も笑って別れをし、私の番が待つ部屋へと向かう。
本当にたくさんお世話になった。色んな話も聞かせてもらった。
子供が産まれたら…うん、絶対に見せに来たい!
年齢は近いけど優しい彼らにほのかな父性や兄性を感じるから離れるのが名残惜しい。
「お待たせしました!」
「トワコー!」
「お帰りなさいませ、トワコ嬢」
「遠くから見てましたが、と、と、とても綺麗でした…!」
「あいつら全員消したくなったがな」
それでもこの四人の傍が一番落ち着く。
私の正体を隠しているのだから、彼らの正体も隠さないといけないので四人には隠れてもらっていた。彼らの存在がバレたらそれ経由で私を特定されちゃうからね。
部屋に入るとすぐにシャルルさんが抱き着いてきてキスをする。
「クソガキ、いい加減に離れろ」
「やだよ。これからまた王様が独占するから今のうちに触っておきてぇの」
「トワコ嬢、着替えの準備はできてます」
「着替えたらすぐ出発できます!」
「了解です、すぐ着替えてきますね」
この二か月の間にアーキルさんとオヴェールさんは先に国に戻った。噂を広げるためだ。
二人にもたくさんお世話になったし、また改めてお礼したいなぁ。
セトさんに渡された服を持って別室に向かい、新しい服に着替える。
これからまた王都に戻るため、たくさん歩かないといけない。大変だけど四人がいれば安心だし、きっと楽しい帰り道になるはず。
王都に戻れば私たちの家が建ってるのも楽しみだ。
「着替えました」
「だからすぐ力が押さえつけようとすんなっての!」
「お前がくだらない提案をするからだろうが」
「……」
「気にしないで下さい。いつものじゃれ合いです」
「シャルル、レグルス。トワコさん着替え終わったし早く出ようぜ」
「ねぇトワコー! 先にこいつと番解消してから帰ろうよぉ! 横暴なんだよこの王様!」
「トワコ、馬鹿な番はさっさと解消しろ。お前には不要だ」
「バカじゃねぇし。日本語だってすぐマスターできたし!」
「俺のほうが早かった」
「はぁ? すぐそうやって嘘つくじゃん。どう考えても俺のほうが早かった!」
「あの…」
「トワコ嬢、行きましょう。付き合うだけ無駄です」
「こういうの日本語でなんて言うんでしたっけ…。えっと…けんえんのなか?」
「多分合ってます。シャルルさん、レグ。先に行きますよ」
「待って待って! ねぇ俺のほうが早かったよね?」
「黙れ」
「どっちも同じぐらいでしたよ」
二か月の間でスマホの操作と日本語を教えたけど、優秀な四人らしくあっという間にマスターした。
とは言っても日本語はまだまだだけど。それでも天才的な速さで習得した。
シャルルさんは地頭がいいし、レグとセトさんは記憶力がいいのと軍で暗号やら他言語やらをマスターしたから苦もなくどんどん吸収していく。アルファさんが三人の中で一番遅かったけど、一般的に比べたらとんでもない速さで習得していった。
彼ら専用に渡したスマホも一度教えたら理解し、応用までできた。私より断然スマホの扱いに長けてる…。
でも小さいから扱い辛そうなんだよね…。王都についたら神様とまた会うつもりだからその時に大きい端末を用意してもらおうかな。それとも映画鑑賞できるものがいい? どうせなら音楽も大音量で聞きたいよねぇ。
あの神様にいいように扱われるんだ。こうなったらどんどん娯楽を用意してもらおう! そうじゃないと暇すぎて発狂しちゃうかもしれないし。
「あ、そうだトワコ。決めてくれた?」
「何をですか?」
「交尾の順番だよ」
協会の裏口からこっそり抜け出し、港へと向かう中、シャルルさんがとんでもない発言をしてきて思わず転びそうになった。
すぐにセトさんが支えてシャルルさんを睨みつけるけど、ニコニコと笑顔を浮かべたまま私の返事を待つ。
交尾ができる。私もすると言った。だから家を建てた…。
約束は守るし、彼らとするのは嫌じゃない。でも街中で話す内容じゃないよ…!
交尾をすると言ってから日に日に彼らのスキンシップは増えていって、最近ではキスをされながら耳や首、腰を触られると力が抜けていく気がする。
そして気づいた…。彼らは下準備をしていたのだと…! 気づきたくなかった! でも気づいてしまった!
「あ、もしかしてまだ決めてないの? 王都に戻るまでたくさん時間はあるけど、そろそろ決めてほしいなぁ」
「……決めてます…」
「ほんと? 誰が最初?」
ずっと前から最初は決めていた。
「…シャルルさん…」
賑やかな大通りの中、最初の人の名前を小声で呼ぶ。
彼と出会わなければこんな素敵な毎日を送れなかったってのもあるけど、一番は体格差を考えて。
交尾はするけどやっぱり最初は負担が少なそうな人がいい!
そう思ったら必然と四人の中で一番小柄なシャルルさんになった。と言っても私より断然身長高いんだけどね。
それでも少しでも…! 少しでも負担が少ないのがいい!
あとはまぁ…。セトさんとアルファさんは暴走しそうだし、レグは一番身体が大きいから無理。怖い。
「……」
「シャルルさん?」
「あー……マジか…」
いくら回りがうるさくてもきっと聞こえていた。
なのに予想していた反応もしないから恐る恐る彼を見上げると、私より真っ赤に染まったシャルルさんがそっぽを向いていた。おまけに素の口調。
「イヤだった?」
「違うッ。いや、違うよ。俺なんかを最初に選んでくれるとは思ってなかったから…」
自信満々に溢れてるように見えて、たまにこうやって自分を卑下する。
シャルルさんが変異種だろうが私にはどうでもいいのに、根付いたその自己肯定感の低さにずっと囚われてる。
「優しくしてくださいね」
「それはもう」
「で、次は誰なんだ」
「え…全部言わないとダメなの…?」
「お前の心の準備もあるだろうが、こっちにも準備が必要な奴が二人もいるだろう」
「…そうですね。次はセトさんでその次はアルファさんです。レグは最後。自分もそれでいいって前に言ったんですから文句言わないでくださいね」
「解ってる。俺は別にそれでいい」
「セトさんもアルファさんもそれでいいですか?」
「はい、問題ありません」
「っひ、っひ…」
「アルファさん?」
「だ、大丈夫ですぅ! おれっ、俺…トワコさんを傷つけないよう頑張りますッ!」
「そ、そうしてくれると助かります…。だからもうこの話終わらせていいですか? 道端で話す内容じゃないですよ…」
「ごめんねトワコ。あとはゆっくり船の中で聞くよ」
「それも勘弁してください…」
色んなことがあったディティ本山。
もう日本に帰れないけど、三ヶ部さんたちにも会えたし十分だ。
これからは自分の幸せを考え、大好きな番と楽しい日々を送ろう!
ああ、ついでに神様のお願いもたまに聞いてあげるようかな。誘拐犯ではあるけど、神様のおかげでみんなと出会えたからね。
✿
「わぁ、動いた! レグ、わかった?」
「ああ。元気なのはいいがトワコを蹴ったのは許せないな」
「赤ちゃんに無茶ぶりしないでよ」
大きくなった自分のお腹がぽこんと動く。
この中にレグとの子供がいるなんて今だ信じられない。
ディティ本山で始祖だと公表してから三年が過ぎ、王都に家を構え四人の番と愛し愛される穏やかな生活を送っていた。
私も二十歳を過ぎたし、彼らとの子供が欲しいと相談した。
マリッジリングのおかげですぐに妊娠したのはよかったけど、思っていた以上に大変だった。
つわりはしんどいし、うまく動けないし、今まで以上に超絶過保護になるし、妊娠のせいなのか感情に振り回された。
でもそれも四か月、五か月過ぎていくと次第に落ち着き、今はのんびりお腹の中の赤ちゃんを愛でる毎日。
お腹の赤ちゃんの父親であるレグはずっと私に付きっ切りで、シャルルさんやセトさん、アルファさんは家のことをしてくれたり、仕事をしたりと忙しい毎日を送っている。
私とレグだけのんびりしてて申し訳ないけど、彼らも妊娠した私を過保護に扱う。
自分の子供じゃないのに。って前に言ったら、それでも私の身体が心配だからと気遣ってくれる。
こういう言葉を聞いたり、態度を見たりすると本当に彼らと番になってよかったと感謝する毎日。
年数が経てば落ち着くかと思ったのに日々彼らへの愛しさが溢れてくる
「そう言えば名前考えた?」
「ああ」
「どんな名前?」
「シリウス」
「おー…星の名前だ。レグルスと一緒だね」
「スマホのおかげでな」
「さすが私より使いこなしてる。響きも似てるしいいね。それにしよう」
「いいのか? トワコが決めてもいいんだぞ」
「私は結局決めれなかったから…。もし女の子だったら?」
「そう簡単に女は産まれないし、女でも問題はない」
「んー…そうだね。シリウスくんでもシリウスちゃんでも綺麗だ。産まれるの楽しみだね!」
「―――トワコ、客人だ」
「え?」
みんなと一緒になって名前を考えたけど、どうもしっくりこなかった。
でもレグのおかげでようやく男の子でも女の子でも似合う名前が決まって、あとは産まれるまで穏やかに過ごすつもりだったのにレグの表情が強張る。
この家は王都から少し離れた場所にぽつんと建っている。
近くにデーバさんたちがいる傭兵団の寄宿舎があるし、レグとセトさんの手回しで誰も近づいて来ないようになっている。
王都に住む住民なら誰でも知ってる暗黙のルールだ。それなのに…?
「セティさん?」
「あいつなら遠慮なく入って来る。そこにいろ。絶対に動くなよ」
「わかった」
玄関に向かうレグを見送り、そっと扉に近づいて聞き耳を立てる。
気のせいか、女性の声がする…?
「トワコ、お前に客人だ」
「私に?」
レグの声はまだ少し警戒しているけど、行ってよさそうな雰囲気?
あのレグが客人を招き入れ、追い返すこともなく私を呼ぶなんて…。
ゆっくりと扉を開けて玄関に近づくと、
「……日本人…?」
「あー! やっと会えたよー! 初めまして、永遠子ちゃん。私、荒神千秋って言います」
私より少し年上の黒髪黒目の女性が立っていた。
王都では絶対に見ない顔付きに一目で同郷の人だとわかった。
「ちょっと王様、俺らに断りもなく知らない奴らを入れないでよ」
「さすがに不用心すぎです」
「トワコさん、大丈夫ですか!?」
どう声をかけていいのか、何を話せばいいのか固まっているうちに異変を感じた三人も戻って来て僅かな殺気を彼女の後ろにいた男性たちに向けて飛ばす。
「いきなり来てゴメンねー? あ、こっちは私の番だよ。鯱族のハデス。熊族のカムイ。んで、蛇族のヤトと虎族のリジア」
「…は、初めまして…。荒神さん。乃木永遠子です…」
「え、ちょ、妊娠してたの!? ごめんねそんなときに来ちゃって!」
「だから言っただろうチアキ。まずは手紙を書くべきだと」
「チアキちゃんは行動力の化身だからしょうがないねー。俺ちゃんはそういうチアキちゃんが好きだけどね」
「姫さんに間違いなんてあらへん。ほんま黙っとれ」
「……」
平穏な日々を送っていた。
これからは子供が増えてさらに新しい思い出が作れると思っていたのに…!
「ちょ、ちょっと待ってください…。あの、まず最初に聞きたいんですけど、いいですか?」
「うん、なんでも聞いてよ」
「この世界に来たのはいつですか?」
「四年ぐらい前かな?」
あの…っ…! クソ神め!
「私の他にも連れて来た人がいるなんて聞いてなーい! 言われたかもしれないけど覚えてなーい!」
また慌ただしい日々が始まるのかと思うと喜べない。
でも生きた日本人に会えて嬉しい気持ちと、やっぱりあの神様が嫌いだってことを再確認して思わず叫んでしまうとお腹の中の赤ちゃん、シリウスにぽこんと蹴られてしまった。
中途半端に感じるかもしれませんが、これにて完結です。
R描写はここでは書けないのでいつか別の場所で書けたらなぁと思いつつ、妄想だけに留めておきます。
拙い文章ながらも最後までお付き合いして下さった方々、ありがとうございました。
もしそれなりに楽しめたよ。って方がいましたら、評価☆かリアクションをぽちっとしていただけると嬉しいです!




