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73.ハイオットニー国②

「お腹いっぱいだぁ…」


プールで遊びつくした私たちは部屋に運ばれた豪華な夕食をペロリとたいらげ、夜の街を見下ろしながら身体を休めていた。

海が近いから海鮮料理が多く、見たことのない魚ばかりで最初はビックリしたけどどれも美味しかった。

あとはお風呂に入って寝るだけだったが、レグが一枚の便箋を見せてきたので首を傾げて内容を聞くと、


「今ルルヴァがゼメルに向かってると連絡がきた」

「……そう、ですか…」

「気にしてるようだから一応伝えておくぞ」

「ありがとうございます。…アルファさん、デーバさんたち大丈夫ですよね?」

「もっ問題ないです。あいつらは俺より強いし、シャチ族のメスも協力してるから絶対に捕まえます」


手紙にはルルヴァと連絡がつき、ゼメルの街にやって来ると書かれていた。

あとはデーバさんたちと協力してルルヴァを捕まえればレグたちは安心する。

そして最終目的地であるディティ本山に行ける…。

誰もケガしてほしくない。何事もなく捕まえてほしい…!


「接触後にまた連絡がくる。それまでここで休め」

「…うん、そうさせてもらいますね」

「明日は買い物でもいかかですか? まだ見てないお店がありますからきっと楽しめますよ」

「はい。みんなの服も選びたいしゆっくり観光しましょう」


始祖の能力を使えばきっと安全にルルヴァを捕まえることができるけど、みんなは許してくれない。

なら力も弱く、戦うことに慣れてない私にできることはない。

自分にそう言い聞かせてセトさんの提案に「はい」と答える。


「明日は早く起きたいし、疲れたんでお風呂入ってきますね。一人で」

「ダメだよトワコ。危ないよ」

「ホテルだから大丈夫ですよ。オヴェールさんも安全は保障するって言ってくれたし」

「そうだけど、いい加減俺もトワコと一緒に入って洗ってあげたいし…」

「お風呂ぐらい自分でしますから…」

「俺ってそんな信用ない? 頼りにならない?」


今日は珍しくグイグイくるな…。

野宿中は私も一人だと怖いからアルファさんに見張ってもらってるけど、宿屋になると必ずこのやり取りをする。

いつもならすぐ諦めて扉の前で見張ってくれるのに、今日はしょんぼりした顔で見つめてくる。

確かに歓楽街では一人になった瞬間誘拐されたけど…。

信用してないわけじゃない。頼りにもしてる。でもこれとそれとは話が別なわけであって…。

そう伝えても食い下がってくる。


「トワコー…」

「…う、あ…じゃあ…。ディティ本山に行って用事が終わったら…。それまでは一人で入らせて」

「ほんと!?」

「う、うん…まぁ…。約束します」


前に用事が終わったら交尾すると言ったらしいし、ディティ本山を区切りに先の関係に進んでもいいと思う。

それまでには心の準備が整うと思う…。

子供のように喜んで抱きしめられ、されるがままに色んな箇所にキスされる。

ひぃ、嫌じゃないけどみんなが見てる前でキスされるのはやっぱり苦手だ!

振り解いて急いでお風呂場に向かった。


「すっかり警戒心失くして可愛いなぁ。まぁそれだけ俺に心許してくれたってことだよな」

「だからと言って優しさに付け込んで無理やり迫るのはどうかと思うが」

「だったらセトもお願いすればいいじゃん。そこの王様なんか子供産んでくれって言ってんだぜ」

「は?」

「アルファなんか見張りとか言っときながら発情して襲いかかってるし」

「……やっぱりバレてたか…」

「トワコの発情した匂いでバレバレだっつーの。つかキスマークつけといてバレねぇほうがおかしいだろ。セトは匂いに鈍感だから気づかなかったみたいだけど」

「アルファ…!」

「す、すまないと思ってる! 触れた瞬間理性が飛んで…。で、でも舐めただけでそれ以上はしてない!」

「当たり前だッ。私だって舐めたことないのに!」

「でたー、興奮するとムッツリ全開になるやつー」

「聞いてたなら話が早い。一番最初の交尾はお前らに譲る。その代わり俺の子を一番に孕んでもらう」

「じゃあ俺一番な! 最初のつがいだし、この中で一番トワコに負担なくできるのは間違いなく俺だろ」

「それはお前が決めることではないだろう」

「俺は別にいつでも…。最後につがいになったし、多分また暴走するから当分無理だ…」

「じゃあセトか俺じゃん。トワコの最初がムッツリ相手だとそのあと大変そうだから譲れよ」

「大変そうとはなんだ。タカ族の交尾はいたって普通だ」

「タカ族はそうでもお前はそうじゃねぇだろ。色々したい願望混じりすぎてトワコに引かれてもいいのか?」

「そ、それは…」

「何よりお前の長いじゃん。トワコは全部が小さいだろ? 怖くなって交尾なんてしたくないって言われたら俺らも困んの!」

「あー…確かに長いよな」

「ほらな。じゃあ一番は俺しかいねぇじゃん」

「お前はつがいの中で全部が小さいからな」

「お前らに比べてってだけでいたって普通だわ! 黙ってろクソライオン! つかお前が一番トワコと交尾無理だろ。絶対ぇ入んねぇじゃん」

「経験がない分、知識でカバーはできる。あぁ、本もまともに読めないクソガキには無理な話か」

「はぁあああ!? 本なんかよりトワコの反応が大事だろ!」

「まぁまぁ落ち着けって。それに一番を決めるのはトワコさんだし俺らで話し合ったって無駄だって。それより今日も勝負しようぜ」


「あーあ、早くあのクソサル捕まえてくんねぇかなぁ」

「そこは待つしかないな。王国にも要請してるんだろ?」

「ああ、捕まえて殺せと言っている」

「その前にトワコ嬢のことをどこまで、誰に話したかを吐かせてからですよ」

「当たり前だ。トワコが始祖だってことは俺達だけが知ってればいい。あの能力も絶対にバレるわけにはいかない」

「ま、デーバたちなら大丈夫っしょ。捕まえたらようやくだ…。うわー、すっげぇ嬉しー!」

「シャルル、暴れると手札見えるぞ」

「いやでもさぁ、トワコってゼメルぐらいからずーっと発情してるじゃん? キスするだけであんな可愛い顔するしさぁ。触ってほしいって顔に書いてあるのに恥ずかしがって言えないし、用事が終わってからって自分に言い聞かせて耐えてるのも……すっげぇ興奮する」

「始祖は他のメスみたいに発情期がない分、毎日が発情期って本当だったんだな…」

「まぁそのせいで毎月くる生理はしんどそうだよな。よっしゃ、アルファのとこにババいった」

「くそ…。前に生理前と最中はいつもの自分じゃなくなるって言ってたし、いいことばかりじゃないよな」

「時たま痛みで辛そうなのも見るに耐えかねる。レグルス、アルファからババとってます?」

「いや。発情してるからって襲い掛かるような野良みたいな行動するなよ。あいつは変に真面目で頑固だからきちんとやることやってからにしろ」

「一番キスする回数多い奴が言う台詞じゃねぇし」

「シャルルもだ。……最近そのせいかうまくなってしまって…」

「俺のおかげじゃん。感謝しろよ、ムッツリ」

「俺が教えたからだ。妄想もたいがいにしろ」

「セ、セトもそんなキスしてんのか…?」

「ま、まぁ…。二人よりは少ないですが、アルファよりは…」

「セトはベロチューより他の場所にキスするほうが多いよな。で、アルファはどこまで大丈夫になったんだ?」

「おおおお俺はまだそんな…! とりあえず慣れるために抱きしめたり、触らせてもらったり…。あ、頬へのキスはなんとか我慢できた!」

「触るって…どこ触ってんだよ。返答次第じゃ王様に殺されるぞ」

「えっと…手だったり、二の腕だったり腰だったり…」

「いや二の腕って…。お前も結構ムッツリだな」

「柔らかいから慣れておこうと思って…。抱きしめたときだけだから!」

「他はどこ触ってんの? 胸じゃねぇだろうな」

「むむむ無理だ! 胸じゃなくてお尻を「そっちもアウトじゃねぇか!」

「……レグルス、トランプを握りしめるのは止めて下さい」

つがいを解消させるか」

「ち、違うんだ! 抱きしめたときにちょうどいいところにあるからっ…! それに抱きしめると苦しそうにするだろ!? そこの加減はできないからお尻に手を置いて我慢してる!」

「俺だってまだ触ったことないのに!」

「トワコ嬢は困ってませんか?」

「最初は驚いてたけどあとは…」

「トワコはそうやってすぐ甘やかすから…」

「その優しさに便乗してやりたい放題してるのはシャルルだろう。さっきのこと忘れたのか」

「流されやすいからねぇ。最初のころなんて今よりゆるゆるのふわふわでそのせいで王様とムッツリが寄り付いてきてさぁ…。まぁ今はそんなことないけど」

「色々あったし他のオスに警戒しているのはいいことだよな?」

「ええ、まぁ。今日の買い物も私を壁にして隠れて愛らしかった…。もっと頼ってもらいたい。なのに店員相手になると気が緩むのは何故だろうか…」

「そこは俺もわかんねー。宿屋に来ると警戒心ゆるゆるになるのも謎。よっぽど元の世界が安全だったんだろな」

「あとあれもちょっと控えてほしいよな…」

「あれとは?」

「他のオスに迫られたら驚いたり、怖がったり…その、ビクビクされると余計相手が興奮するだろ? よく謝ったりお礼言ったり…。あれ勘違いするから止めてほしいよな。よし、あと一枚だ」

「あーね。そのせいで相手が調子乗ってガンガン寄ってくるから止めてほしいんだけど、まぁそれもトワコの魅力ってことで…。正直そんなトワコが可愛いくて仕方ない! よっしゃ、今回も俺がいっちばん!」

「加虐性が増すから止めろとは前に忠告したがあれはもう無理だな。練習させたが慣れないせいで余計興奮した。あがりだ」

「いつの間にそんなことをしてたのですか…。アルファ、これで勝負が決まります」

「明日はトワコさんと買い物なんだ…! セトは今日一緒に買い物したんだから譲れよ」

「無理だ。早くしろ」

「……こっちだ! っあー、負けたー!」

「んじゃ、明日は俺と王様がメインでセトがそのお手伝いな。まぁでもよかったんじゃね。アルファ暑いの苦手だろ」

「そうだけど…。レグルスも苦手だろ…」

「お前よりマシだ」

「北出身のアルファにはかなり酷だろう。部屋で休んでおいてもいいぞ」

「そんなこと言うなよセトー…! 俺だって一緒に買い物行きたい…」


「気持ちよかったー」


「お帰りトワコ。髪の毛拭いてあげるよ」

「ありがとうございます。トランプしてたんですか?」

「こいつらと特に会話する内容もないからね」


いくらホテルだと言えど一人になる時間はできるだけ短くする。

ゼメルのときみたいに誘拐されるかもしれないと思うと自然と洗う時間は短くなって、みんながいる部屋へと戻る。

男四人がテーブルを囲って何かしていると思ったらトランプ。

私がいないときどんな話をしてるんだろう…。さすがに無言でトランプはしないよね…?

思っている以上に仲良しなのかなと思ったけど、仲良くトランプしている姿も想像できない。


「そう言えばベッドは四つしかありませんよね? 私、ソファで寝ましょうか?」

「は!? なんで!?」

「え…だってみんなもゆっくり休みたいですよね? ここのソファ、背もたれ倒せばベッドになりますし…」

「俺と寝るに決まってるだろ」

「ここは安全ですから一緒に寝なくても…。というか暑いから一緒に寝たくない…」


バルコニーがある部屋にベッドが二つ。別室にもベッドが二つある。

ソファもベッド近くにあるし一緒に寝なくもいいはずなのに四人はそれぞれ思うところがあるようで様々な表情を見せる。


「俺だってたまにはトワコと寝たいのに!」

「ここはホテルです。警戒すべきではありますがレグルスである必要はありません」

「俺に勝ってから言え」

「マジむかつくー!」

「いや、私は一人で寝たいんですけど…」

「駄目に決まってるだろ」

「いくら冷風機がついてるとは言え、みんな体温は高いじゃないですか。寝てるとき熱中症になったらどうするんですか。あと最近レグは覆いかぶさってくるから苦しい」

「………」

「あ、ちょっと! 温度下げないでください!」


脂肪がなく筋肉質な彼らはかなりあったかい。新陳代謝もいいんだと思う。

今までは寒かったからいいけど、ここは暑い。

冷風機はついてるけど、最近のレグは自分の中に私を取り込むんじゃないかってぐらい覆い被さってくるので絶対に暑い。

若干の苦情と熱中症のリスクも考えて別々を提案するもレグは無言で温度を下げた。


「あー…俺、これぐらいがちょうどいいかも…」

「まぁ少し寒いぐらいですかね」

「もう少し下げてもいいかも」

「嘘でしょう!? こ、こんなの寒すぎますよ…! レグ、風邪引いちゃうから温度上げてください」

「寒いなら一緒に寝るしかないよな?」

「こ、このっ…!」


温度をあげるには冷風機本体を触らないといけないのに、私の身長じゃ届かない場所にある…。

どうやっても私と寝るつもりのレグを睨みつけるが、どこ吹く風。

諦めろと言わんばかりに両腕を広げたので諦めて近づく。


「あったかい…! でも本当に風邪引くからもうちょっとあげてほしい」

「解った」

「ちぇー、また王様とか。じゃあ俺その横のベッドなー」

「トワコ嬢、ホットワインはいかがですか? この街の名産品なので美味しいですよ」


レグの膝に乗るとシーツで身体を包んで抱きしめる。

シーツ越しにじんわり伝わる体温だけではまだ寒くブルリと震えるとセトさんがワインをお勧めしてきた。

ワインかー…。お酒飲んだことないけど舌が肥えたセトさんが美味しいって言うなら飲んでみたいなぁ…。


「私まだ十八なので…」

「十八なのがどうかした?」

「二十歳じゃないと飲んじゃいけないんです」

「でもそれはトワコの世界の話だよね? この世界じゃ問題ないよ」

「そ、そうだけど…。色々影響あるかもしれないし遠慮しておきます」

「ではアルコールがない飲み物を持ってきますね」

「ありがとうございます」


お風呂上りでポカポカだったのにレグのせいで…。

でも冷房がガンガンきいた部屋で暖かい飲み物を飲むってのもいいよねぇ…。寒い日にこたつでアイスも最高。


「アルファさんもシャルルさんもこれぐらいがちょうどいいんですか?」

「俺はちょっと肌寒いかなってぐらい」

「お、俺はちょうどいいですね。北はもっと寒かったですし」

「レグは?」

「普通だな」

「じゃあさっきまで暑かったんですね。私、服着こみましょうか?」

「いいよ、そんなことしなくて。それにこんな露出してるトワコ初めてだからそっちのほうが嬉しい」

「…明日他にも服買いますけど、あまり露出の多い服は遠慮しますね」

「えー、なんで?」

「肌が焼けちゃうから嫌なんです」

「やっ、焼けるってどういうことですか!?」

「別の国に行くか?」

「あ、そこまでじゃないんで…」


日焼けの概念を伝えると「なるほど」と納得してくれた。

彼らもセトさんと同じく肌は赤くなるだけで焼けないらしい。

そんなことを話しているとセトさんが人数分のワインと透明なジュースを持って来てくれた。


「ワインなんて久しぶりだな。アルファは?」

「北にいたころは酒ばっか飲んでたから…うん、俺も久しぶりだ」

「へー…アルファさんお酒飲むんだ…」

「寒いからお酒飲んで身体の中から温めるんです。あ、俺酔ったことないんでご迷惑はおかけしません!」

「俺も大丈夫だから安心してね」

「ふふっ、なら安心です。セトさん、私のはなんのジュースですか?」

「白ブドウで造られた飲み物です。甘さ控えめですがサッパリして飲みやすいですよ」

「へー…」

「うっわ、マジで名産って言われるだけあってうめぇ!」

「だな。今まで飲んでた酒がマズく感じる」

「あ、おいしい。おいしいです、セトさん」

「よかったです」


お風呂からあがったら寝ようと思ったのにワイン(とジュース)片手にトランプを始めた。

いつも負けてばかりの私だけど今回はレグが味方!

勝負内容はポーカー。

相談しながら続けるもなかなか勝てない。

レグに謝るけど「気にするな」と言って好きなようにさせてくれる。

結局日付が変わるまで遊び続け、次第に眠気に襲われ頭が回らなくなっていく。

なんだろう。前にも感じたことある…あのフワフワ感が続いて気持ちいい。でも眠い。


「トワコ、寝るか?」

「んー…」

「昼間かなりはしゃいでましたからね。そろそろ寝ましょうか」

「そぉですねぇ…。じゃあちゅーして寝ます…」

「え、チューしてくれんの?」

「今日してなかったし……」

「……なぁ、トワコさんおかしくないか?」

「ちょっと黙ってろ。じゃあさトワコ。今度から寝る前はみんなにキスするって約束してよ」

「…えっへへ、わかったぁ!」

「…。セト、これアルコール入ってるだろ」

「子供向けのジュースなはずですが…。始祖には十分なアルコール要素になるんですかね…」

「酔っぱらってるってほどじゃないが、眠気と少量のアルコールでああなってるな」

「セトさぁん、ちゅーしよー!」

「あ、はいっ。是非お願いします」

「暑くてバテてたからできなかったけどラッキー。セト、ナイス」

「アルファさんもちゅー」

「はぁもう嫌だ…何であんなに可愛いんだ…! あ、あんなに気持ちいいなんて…死んじゃいそう…っ」

「ちゅーも気持ちいいねぇ…。うー…」

「おい」

「レグはベッドでちゅーしてあげるねぇ」

「お前は本当に生殺しが好きだな」

「王様、俺隣のベッドで寝てるからな」

「ねむいぃ…。ねるー…」

「アルファ、私達は交代で警戒するぞ」

「せ、セトは先に休んでてくれ…!」

「おいトワコ。お前…寝るなっ」

「んー…」

「アハハハハ! ざまーみろクソライオン! お前だけキスしてもらえなかったな!」

「レグルス、寝てるトワコ嬢には手出し禁止ですよ」

「……明日覚えてろよ」


そんな声が聞こえた気がしたけど、すぐに忘れて深い眠りについた。

しかし翌日、苛立ったレグルスにしつこいぐらいキスをされ、酸欠に陥って買い物に出るのが少し遅れてしまったのだった。

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