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71.リーデル国②

「遅い」

「すみません…」

「これぐらい普通だろ。トワコは謝らなくていいからね」

「レグルス、メスの買い物に時間がかかることは知ってるでしょう」


下着を購入したあとは食料とブラシを大量に買い込み、レグの元へと急いで戻る。

首都を出るときも兵士に声をかけられ出るのに時間がかかってしまったけど、セトさんとシャルルさんの対処によって逃げるように出れた。

息を切らしながら「お待たせしました」と謝るけど、朝よりもっと機嫌を悪くしたレグが仁王立ちで私たちの帰りを待っていた。

留守番させたのは悪かったけどそんな怒らなくてもいいじゃないか…。

シャルルさんとセトさんはレグが怒っても気にしない様子で荷物を馬車に積み、野宿の準備を始める。

私も手伝おうとしたけどレグに腕を掴まれ、そのまま抱きしめられた。


「遅い」

「ご、ごめんなさい」


また同じ言葉を吐いて抱きしめる力を込める。

これは…怒ってるんじゃなくて寂しがってる? 拗ねてる?

どちらか解らないけど脇腹を軽く叩いて再度謝ると、ようやく力を緩めてくれた。さっきに比べて幾分機嫌がよくなっている。


「で、駄犬はどうした」

「……ちょっと…」

「ちょっと?」

「アルファは一人でいいことしてるよ。トワコ、先に水浴びしてくる?」

「は?」

「盛りがついた狼は長いですからね。トワコ嬢、夕食は野菜多めと肉多め、どちらがよかったですか?」

「ああ、なるほど」

「アルファさんが戻ってきたら行きます」

「止めてあげなよ、トワコ。また興奮しちゃうだろ」

「あ…。そ、そうですよね…。あー…じゃあセ「俺が行く」…絶対いやです」

「せっかくだし買ったばっかの下着つけてきてよ」

「レグルス、ここは外ですからね」

「ちょ、レ、レグっ…!」

「駄犬と一緒にするな」


有無を言わさず私を担ぎ、森の奥へと進んで行く。

あんなことがあったしアルファさんに頼むのはさすがに悪いと思って、セトさんにお願いしようと思ったのに…!

レグは理性が強いほうだけど、それでも無遠慮に手を出してくるから怖いんだよ…。

レグ相手だと強く言っても無駄だし、言うこと聞いてくれないし…。いつでも能力使えるよう身構えておこう。


「……レグ、いますか?」

「ああ、ここにいる」


と思っていたのに、レグはちゃんと大人しく私を見ないよう周囲を警戒してくれていた。

視線も感じないし、近くも遠くもない距離にいる。

まぁ何もしないならレグの傍が一番安全だ。

急いで戻って来たから汗でベタベタになった身体を洗い流し、さっさと川からあがる。

南に行くにつれ温かくなってるからまだいいけど、いくら沸騰石があっても外で裸になるのは厳しいな…。

風邪を引く前に急いでタオルで身体を拭いて、シャルルさんが選んでくれた下着に着替える。

肌触りいいし、デザインも可愛いと嬉しくなるね。

たくさん買ってくれたしこれなら当分もつ。あとでまたお礼言っておこう。


「着替えたか?」

「着替えました」


着替え終わったタイミングで声をかけてきたのでレグに近づくと、持っていたマントをかけてくれた。

すぐにみんなの元に戻るかと思えばその場に座って自分の膝を叩き、座るよう見つめてくる。


「どうしたんですか?」

「トワコ、聞いておきたいことがある」


真剣な声にドキッと心臓が飛び跳ねる。

ま、まさかアルファさんとのことがバレた…!?


「ルルヴァを捕まえ、ディティ本山も安全であればそこに連れて行く」

「あ、はい」

「そこでなんの用事を済ませるんだ」


アルファさんのことじゃないことがわかり、あからさまに胸を撫でおろすと軽く頬を触って眉間にしわを寄せる。

お、落ち着け…。バレないようにしないと…。


「あまり深く言えないんですけど…。確認…? ですかね」

「何を確認する」

「それは言えないです。聖書にそう書かれてあったのでそれを確認したいんです」

「……それは…元の世界に帰れるかの確認か?」

「………」

「お前はもう元の世界に戻れない。そう言ったよな」

「…はい。戻れません」


あまり考え込まないよう頭の片隅に追いやっていた事実を口にすると胸が苦しくなる。

彼らがいてくれるから気を紛らわすことができるし、寂しい思いもしていない…。

でもやっぱり元の世界が恋しい。

そんな感情が顔に出ていたのか、軽く抱き締めて首に顔を埋めるレグ。


「俺がいる」

「…みんながいてくれるから寂しくはないです。まだちょっと割り切れなくて…」

「これからもずっとそんな思いさせない」

「はい…。うん、大丈夫…です」

「死ぬまで守る」

「心強いです」

「確認が終わったらお前が住みたい場所に屋敷を構えろ」

「……うん…」

「…っ俺から離れようなんて考えるなよ」

「うん…」


帰れない。この世界に来た同じ日本人がそう言うんだからきっとそうなんだろう。

それでも僅かな望みにかけていることがレグにバレてしまった。

必死にこの世界に繋ぎ止めようと私を説得してくるレグに返事しかできない。

「大丈夫だよ、ずっと一緒にいるよ」

そんな言葉を待ち望んでいるのが手に取るようにわかるのに…。


「レグ、苦しいよ」

「ああ、すまない。……トワコ、全てが終わったら俺の子供を産んでくれ」

「……へ…?」

「最初の交尾は他の奴らに譲る。お前の負担になると散々本で読んだからな」

「…読んでた本、全部そういうのだったの?」

「ああ。だから俺の子を一番に産んでほしい」

「…そ、そこまでは考えてなかったなぁ…!」

「お前はもう成人して発情期も迎えているだろ」

「そ、そうだけど私の世界でこの年で産むのは早いほうになってて…。お母さんになれる自信もないし…」

「俺との子は欲しくないのか?」


埋めていた顔をあげ、至近距離で子供を産んでほしいと言われ頭が真っ白になる。

えっと、なんだっけ。

確認が終わったら…家を建てて、えっと…レグの子供を産む…?

みんなで落ち着いた場所に住むのは嫌じゃないし楽しみでもあるけど、こ、子供は…!

冷静になろうとするのにグッと顔を近づけて直球に「子供を産んでほしい」と言われると恥ずかしくて冷静になれない。

吐息がかかる距離まで近づいて金色の目で見つめられると素直に頷きそうになってしまう…!

流されないって決めたのに何でこうもすぐ誘惑してくるかなぁ!


「トワコ…」

「ひゃぁ!」


色を含んだ甘い声。

耳を舐め、腰を掴んで自分に引き寄せる。

アルファさんのときのあの快感がまた押し寄せ、力が抜けていく。

耳、首を舐められると無意識に胸を突き出してしまいあの気持ちいいのを求めて身体が動いてしまい、レグに笑われる。


「キスしかしてないのに随分いい表情をするようになったな」

「ううっ…! もうやだぁ…」


キスしかしてない。たまに身体を触られるけどそれ以上の関係にはなっていないのに、身体がどんどんいやらしくなっていく。

羞恥心で顔を背けるもレグがそれを許すことなく無理やり掴んでキスをする。

もうほっとやだ。キスで気持ちよくなってしまう単純な身体も、流されてしまう理性のないメンタルも!


「んっ…」

「なぁ、トワコ。俺の子供を産んでくれ」

「うぅ…もー…!」

「解ったって言うまで離さないから諦めたほうがいいぞ」

「…っ私一人じゃ決められないじゃないですか…!」

「あいつらが納得したらいいのか?」

「もうレグいやっ!」

「で、どうなんだ?」

「……み、みんながいいって言うなら…」

「言うなら?」

「もぉおおおお! レグッ!」

「ハハッ。そうだな、また別の機会に聞かせてもらおうか」


わざと私の口から「産みたい」って言わせようと意地悪言うので軽く肩や胸を叩くと満足そうに笑って、ようやく解放してくれた。

逃げるようにレグから離れるも足に力が入っておらずうまく立てなかった。

すぐにレグに抱えられ上機嫌になってみんなの元へ向かう。


「お帰り…って、何でそんな顔真っ赤なの?」

「レグルス…」

「違うから! 転びそうになったのを助けてもらって恥ずかしかっただけ!」

「へー…そう…。とりあえず寒くなるからこっちにおいでよ」

「レグ、降ろして」


珍しく素直に降ろしてくれたので急いでシャルルさんの隣に座って焚火で暖を取る。

恥ずかしくて熱いぐらいなんだけどさっきの話したくない。


「下着は大丈夫そう?」

「あ、はい。すっごく着心地いいです」

「それはよかった」

「ところでアルファさんは?」

「まだ戻って来てません」

「そ、そうですか…。……そんなに時間がかかるもの…?」


私は男性じゃないし、そういうことを調べたことも聞いたこともないから解らない。

レグとセトさんには聞こえてなかったみたいだけど、隣にいたシャルルさんには聞こえていたようで声を押し殺して喉奥で笑う。


「オオカミ族は遅漏なんだよ」

「…ち、ちろう?」

「一回が長くて、なかなか出ないってこと」

「あっ、あ、なっなるほど! そ、そういう意味なんですね…!」

「俺と王様の「言わなくていいですっ!」


慌ててシャルルさんの口を押えて黙らせる。

もう今日はこれ以上そういう話したくない…! もっと前みたいに平和で穏やかな会話がしたい…。

だけど彼らを我慢させている罪悪感もある。男性にだってそういう欲はあるんだから、どうにかしてあげたい。

じゃあ決心したことを覆す? どれもこれも中途半端はよくないって目標を絞ったのに?


「うう…どうしたものか…」

「トワコ嬢、夕食ができましたよ」

「あ、ありがとうございます」


キスやハグなどの接触を控えるのが一番いいかもしれない。流されなくてすむし。

でもそれを彼らに強いるのも違うし、レグとシャルルさんは絶対納得しない…。

やっぱり私が理性をしっかり保ち、彼らには申し訳ないがこのまま我慢しててもらおう! 申し訳ないとか言ってたらキリがないし、目的を忘れそう!

……それが嫌になってつがい解消したいとか言わないよね…? 友達もするのが怖くて待たせてたら浮気されたって言ってたし…。

どうしてもそんな考えが頭にちらついてしまうから流されそうになっているのもある…。

いやいや、彼らを信じないと! 浮気とかもしないだろうし、解消も…。あああ恋愛偏差値が低い私にわかるわけないじゃない!

こんなこと友達に相談したら気にしすぎって笑われるかもしれないけど、四人が大好きだから小さなことでも悩んじゃう!


「ど、どうしました? 美味しくありませんでしたか?」

「え? あ、違います。おいしいんですけど……。あの、ちょっとセトさん、耳貸してもらっていいですか?」

「は、はい。何でしょうか」

「えー、内緒話? 俺にも聞かせてよ」

「ご、ごめんなさい」


聞こう。聞いたほうが早いし悩まずにすむ!

セトさんを連れて少し離れた場所に移動する。


「誰にも言わないでくださいね」

「わ、解りました」

「あの…。こ、交尾しないから私とつがい解消したいって思ってますか…?」

「…っ…」

「セトさん?」

「申し訳ありません。もう一度いいですか?」

「あ、声小さすぎました? えっと、他のつがいみたいに交尾しないから私とつがい解消したいって思ったり…します?」

「っふ…」

「え?」

「すみません、くすぐったくて…。ご安心下さい、それぐらいで解消したいなどと思っておりません。それに最初に言ったではありませんか」

「な、なにを?」

つがいらしいことはできない、と。それを了承の上、つがいを申し出ました。なのでトワコ嬢が気にすることではありません。一番はトワコ嬢の心の問題です」

「セトさん…!」


悩んでいたモヤモヤが一気に消え、安心のあまり抱き着いてしまった。

そうだよ。最初に言ったじゃん!


「あ、でもっ。その…えっと……ア、アルファさんみたいに………なったりしますよね…?」

「トワコ嬢が気にすることではありませんよ」

「……わか、った…。ありがとうございます、セトさん。安心しました」

「夕食が冷める前にいただきましょう」

「はい。あー、これで悩まずご飯が食べれる!」


野菜いっぱいのスープをようやく味わうことができた。

シャルルさんに何を話したか教えてと言われたけど、適当に誤魔化してアルファさん抜きの夕食を噛みしめた。

そしてアルファさんは夜中になっても戻って来ず、姿を見せたのは朝方だった。

シャルルさんは笑っていたけど、まさかあれからずっと…?と思わず恐怖を感じてしまったが、街で次の国の情報収集をしてくれたらしい。

それならよかったと一瞬安堵したけど、それにしても長すぎて余計混乱するのだった。

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