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07.放浪の旅③

「あ、あのねシャルルさん。お風呂…じゃなくて水浴びしたいんだけどいいですか?」

「構わないよ。見張るから安心して水浴びしていいよ」

「いやいや! 一人で大丈夫ですよ!」

「どこで誰がいるか解らないからダメ」

「そ、そうなんですけど…」

「湖畔はあっち。足はまだ痛むだろうから抱えてもいいかな」

「歩けます!」


草も獲物も短時間で集めて来たシャルルさん。

初めて見た動物の解体に食欲を失ったけど、時間が経つと空腹が勝り、夜になって食べさせてもらった。

調味料は塩しかないので簡単なものだったけど、わがままは言えない。

そろそろ寝ようかと思ったけど汗を大量にかいたので水浴びしてから寝ようとお願いすると、ついて来ると言われる。

まぁでも実際魔獣が蔓延ってる森だし来てもらったほうがいいよね。

急いでキャリーケースからタオルとシャンプーを取り出し、湖畔へと案内してもらう。

大事に使いたいんだけど髪は毎日洗いたいし、汗たくさんかいたし…しょうがないよね。

街についたら買おうかな。いや、私お金持ってないや…。あまりシャルルさんにわがままを言うのも嫌だしこれからどうしよう…。


「ここが浅瀬だからここを使って。あまり離れた場所へは行かないこと」

「わかりました。…シャルルさんはどこに?」

「ここにいる」

「えっと…恥ずかしいので見ないでくださいね…?」

「…。わかった」


最初の沈黙が怖いけど信じよう。


「寒いって言ってたけど蒸し暑いぐらいだから気持ちいいなー」


男の人が近くにいるのに裸になるのは抵抗感があったけど、気にしないようにして湖畔に入る。

最初はひんやりとしたけど慣れたら気持ちいい。

べたついた汗が流れていくのも気分がいいけど、シャルルさんを待たせているからゆっくりはしていられない。


「あ、シャンプーの泡とかどうしよう…」


こんな綺麗な湖畔に泡を入れたくない。

どうしようかと悩んでいると虫とも葉音とも違う何かの音が耳に入る。


「鳥?」


ふと音がするほうの空を眺めると、遠くからでも解るぐらいの鳥の影が目に入った。


「おっきい鳥だなぁ」

「トワコ!」

「えッ!? な、なになに!?」


何となく眺めていると背後で私の名前を叫び、駆け寄って来るシャルルさん。

緊迫感ある声と強い力に腕を掴まれ、引き寄せられる。

自分が羽織っていたマントで私の身体を包んでそのまま抱き抱えて森の中へと入って行く。

凄いスピードで駆け抜けるシャルルさんと、まだ状況が理解できていない私。


「あんのクソジジィ! 情報売りやがったな!」

「え?」

「しかもあれタカ族じゃねぇか! マジで次会った殺してやるッ!」

「シャルルさん…?」

「黙って」

「は、はい」


何か悪いことをしてしまったんだろうか…。

殺気を含んだ声に私は素直に頷き、ただただ大人しくしていた。


「トワコ、絶対にここから離れないで」

「わ、わかりました。あの、なんで逃げたんですか?」

「説明はあと」

「はい…。えっと、気を付けてくださいね?」

「大丈夫。夜の狩りなら俺の得意分野だ」


ギラリと光る目に身体が震える。

何度も頷くと満足したのか少しだけ笑顔を見せ、また森の奥へと消えて行った。

するとすぐに何かが争う大きな音と動物の鳴き声…。

私何かしちゃったのかなぁ…! いやそれよりシャルルさん大丈夫かな。なんか木も大きく揺れてるし、鳴き声も……怖い…!

この鳴き声を聞いていると不安が募る。耳を塞いで聞かないようにして帰りを待ってると、


「きゃあああ!」


目の前にさきほどの大きな鳥が落ちてきた。


「え、え? これシャルルさんが…?」


暗くてよく解らないけど、血塗れであろう鳥が地面に倒れている。

息はあるものの、とても苦しそう…。


「トワコ、ちょっと離れてて」

「シャルルさん! け、ケガして…!」

「大丈夫。それよりこいつのトドメ刺さないと」


そう言って腰に差していたナイフを取り出し鳥に近づく。

鳥はなんとか立ち上がりシャルルさんと対峙するものの、あの様子じゃあ負けるに決まってる…!

ど、どうしよう。目の前で殺しなんてしてほしくない。怖い。


「や、止めてください…」

「それはきけないかな。こいつはトワコを見たから殺さないと捕まる」

「で、でもさすがに人殺しは…!」

「弱い奴が悪い。嫌なら後ろ向いてて」

「ッ殺したら嫌いになる!」


なんで私が捕まるか解らないけど殺してほしくない。

この後のことなんて考えてない。ただ、嫌だと思ったから彼を止めた。


「その鳥も人なんですよね。こ、殺したらシャルルさんのこと嫌いになる…!」


ダメかな…。

多分私のこと好きだからこう言ったら止めてくれるよね…?


「……ックソ! わかった、殺さない」

「っありがとうございます!」

「……トワコは殺すのが嫌い?」

「うん…」

「犯罪者でも?」

「それは……。この人は犯罪者なんですか?」

「…こいつは違う。だがタカ族は大体軍人だからきっとこいつもそうだろう」

「軍人!? じゃあもっとダメですよ!」


ようするに警察官だよね!?

慌てて鷹に駆け寄ると、とうとう力尽きその場に倒れ込んでしまった。


「大丈夫ですか!?」

「トワコ、行こう。早くここを離れないと危険だ」

「でもっ! このままだと死んじゃう…!」

「こいつは俺に負けたからな」

「そうですけど…。でもそしたらシャルルさんが犯罪者になっちゃうじゃないですか!」

「…え……と、俺の心配をしてるの?」

「そうですよ! もちろんこの人も心配ですけど、シャルルさんが犯罪者になるのは嫌です!」

「……そうか…。わかった、手当てはする。だけどすぐにここを立つ。これだけは譲れない」

「わかりました。えっと、大丈夫ですか? まだ意識ありますか? 鷹の姿だと手当てしにくいので人に戻れます?」


そう言うと少しして人の姿に戻ってくれた。

ボロボロになった服には血がベッタリとついており、特に右目からの出血がひどかった。

初めて見る悲惨な光景に息を呑み、手が震える。

怖い。死ぬ人を見るのも、血を見るのも嫌だ。


「トワコはここにいて。傷薬があるから取ってくる」

「お、お願いします…」

「おい。トワコに変なことしたら絶対に殺してやるからな」

「シャルルさん!」


黒豹に変身して逃げるように森の中へと走って行く。

残された私ができることは…。


「ごめんなさいシャルルさん!」


マントの端を破って出血が酷い右目に当てる。

消毒したほうがよかったかな。よかったよね。でもここには消毒液ないし…。


「ごめんなさい、綺麗なタオルがなくて…。大丈夫ですか? 喋らなくていいから意識だけは失わないでください」

「…ッ」

「す、すみません。痛みましたか? ごめんなさい!」

「だ……ッいじょう、ぶ…」

「無理に喋らなくてもいいです。あの、本当にごめんなさい…。何で私を追って来てるか解らないんですけど、私悪いことはしてません。だから……」

「…ちがッ……ぐ…ッ!」

「トワコと喋んじゃねぇよ」

「シャルルさん!」

「トワコ、こんな奴手当てしなくていい。見た目はあれかもしれねぇが、大したことない」

「大したことありますよ! このままじゃ本当に死んじゃう…!」

「こんな奴の為に涙まで流して…。バレねぇように殺してやろうか…!」

「シャルルさん!」


全部聞こえてますから!

強く名前を呼ぶと持ってきた荷物から小粒が入った瓶を取り出し、一粒だけ口に突っ込む。ついでにシャルルさんも一粒飲み込んだ。

これが傷薬!? これ利くの!?


「はい、これでいいだろ」

「これだけ!?」

「これ一粒でなら多少は回復する。全回復されたらまた追われるだろう?」

「……本当に?」

「僕はトワコに嘘をつかないよ」


演技をするのを忘れていたらしく、思い出したかのような一人称と口調。

もう怖くないから演技しなくていいのに…。

不安に思いつつ彼の身体を見るとゆっくりではあるが傷が塞がっていくのが見えた。

ほ、本当に治ってる…! 凄すぎない!?


「まぁその右目は重傷だから無理だろうがな」

「そんなっ…」

「トワコ、優しい君が好きだけど場面を間違えないで。こいつは君を攫いに来たんだ」

「え…?」

「ち、がう…! わた、したちのは、保護、だっ…」

「一緒だろ。まぁ野良に比べたら扱いはいいがメスを見つけると保護と言う名の誘拐してんじゃん」

「メスが…野良に捕まるのを防ぐ、っためだ…!」

「物は言いようだな。ほら、トワコ。移動しよう」

「…う、うん…。あ、ちょっと待ってください!」


一緒に持って来てくれたキャリーケースの中からハンカチを取り出す。

これならマントの切れ端より綺麗だ。


「よかったらこれ使ってください。こっちのほうが清潔です」

「トワコッ!」

「これだけだから…。あの、保護?はいいことだと思うんですけど、私は好きでシャルルさんと一緒にいるので追わないでもらえると助かるんですが…」

「……助けてもらった借りは返そう」

「上にはうまく誤魔化しておいてくれよ。トワコ、抱えてあげる」

「あ、歩けるよ」

「でも靴がないだろう。それにその下、裸だから風邪を引く。誰かさんに邪魔されたからな」


そ、そうだった…!

水浴びの最中だったから忘れてたよ! 絶対に見られた!

上は着てるけどマント破くときにしゃがんだから見られた!


「い、行きましょうシャルルさん」

「ああ。ついでに汚れたからもう一度水浴びするといいよ」

「でも他の軍人さんが来るんじゃ?」

「普通のタカ族は夜に行動しないんだ。目がそこまでよくないからね」

「あー…なるほど。じゃあさっさと洗って移動しましょうか」

「疲れたらいつでも言って。抱えてあげる」

「ケガ人相手にそんなことお願いできませんよ。少しぐらい頑張れる体力は残ってます」

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