10,リズの笑顔
奴隷解雇宣言とともに、嫁になってくれと懇願する俺。
当然のことながらリズは戸惑っているようだ。しかし俺をじっと見つめて視線は逸らさない。
こんな彼女を見たのは初めてだと俺は思った。
「ん。……わたし、名前ないって言った。でも本当は奴隷になった時に奪われただけ、昔はあった。だけど……いい。わたし、リズになる。リズになりたい」
「お前はずっと前からリズだよ。今更だな」
俺と出会った時から彼女はリズだったし、たとえ本当は違う名前だったとしても構わない。
旅芸人の娘でもなく、美少女奴隷でもなくて、俺は俺の嫁としてリズを愛したい。
「――ありがと。わたし、嬉しい」
リズは最高の笑顔で微笑んだ。
ああ、ようやく見られたな。そう思いながら俺は彼女をもう一度力強く抱きしめたのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺はリズと結婚式を挙げた。
招待客はなく、二人だけの結婚式。
「それもロマンチックで素敵だろ?」と言う俺に、頷いて微笑むリズ。
本当に可愛い。
これは余談だが、一度、俺たちの男爵邸にあの王女が訪れたことがある。
曰く、「その娘が疑わしいからあたくしに寄越しなさい」とのこと。
しかし俺は断じて引き渡すことはなかった。
リズだけは守るとそう決めたのだ。例え王家と戦うことになったとしても毒花に俺の可愛いリズを近づけさせるものか。
結局、それは王女の単なる嫉妬心からであることが明らかになり、後で彼女は国王から罰を受けたのだとか。
これでもう変な奴に絡まれることもないだろう。俺とリズは、これからも夫婦仲良く暮らしていく。
リズの笑顔がどうか絶えることのありませんよう。
それが今の俺の唯一の願いである。
〜完〜
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