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ダマスクローズ  作者: 木蓮


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生きる力


「ほら!今日も生きるぞ!」瓦礫の山の上から、元気いっぱいな声が聞こえる。


ダマスに戻ってから、私はある家族と出会った。


大黒柱:36歳の男性アリ―、愛情溢れるお母さん:38歳の女性サーシャ、

力持ち:18歳の青年ガオ、 第2のお母さん:24歳女性シルビア、

愛くるしい末っ子:9歳の少女オリビア。


彼らは、本当の家族ではない。

戦争で家族を失った人や、バラバラとなった人が集まった。

今を生きるために、家族となり共に支えている。


戦争でこれまで出会ったことがなかった他人が、家族となったのだ。

それは大きな決断だっただろう。


アリ―とサーシャが筆頭となり、街の改善にいち早く取り組み指揮を執っている。

街が元通りになるには時間がかかる。

それは街の被害の大きさだけではなく、残された人々の心の時間もだ。


……………

「サーシャさん!今日のご飯もとっても美味しかったよ!ありがとう!」

大きな体をした男の人たちがサーシャにお礼を言う。


サーシャたちは、外にテントを張り、朝昼夕と無料で配膳をしている。

ダマスで貧困になった人はもちろん、街の復興を支援する人にも提供をしている。


なぜこの活動を始めたかというと、サーシャは旦那を失った今、生きる理由を探した。

この街の回復のために、自分にできることを考えた結果が、配膳だった。イスラーンの文化では、女性は家を守ることが仕事とされ、サーシャは料理上手であった。


そこで一緒に働いているのが、シルビアとオリビア、そしてこの活動に賛同してくれた住民の女性たち。

「サーシャさん。午前の配膳は終わったので、洗濯してきちゃいますね!」

「オリビアはサーシャさんのお手伝いをお願いね!」


笑顔で2人に手をふり、シルビアは次の場所へ向かった。

シルビアは国外に避難した家族がいる。ここダマスには仕事で来ていた。戦争に巻き込まれ、大きな怪我を負ったが、多くの助けもあり生き抜くことができた。治療後、国外に行くのは違うと思い、自分にできることを探しアリ―とサーシャに出会い家族になった。

シルビアは石鹸を手作りし、家族分の洗濯や周りの人たちへの洗濯も進んでお手伝いしている。


彼らの活動が広がり、今ではありがたいことにNGOや地方の農家から無料で食料や生活支援を運んでくれるようになった。


「うん!いってらっしゃい!」オリビアはシルビアに手をぶんぶん振った。

オリビアは戦争で孤児になった。病院の隅っこで泣いているのをアリ―が見つけた。

まだ9歳の女の子を自分一人では育てることができないため、サーシャに相談し最初の家族になった。

はじめは暗かった表情も、一緒に過ごす時間がオリビアの心を少しずつ癒し笑顔が見られるようになった。今では活動の看板娘として、臨時で開いている学校の合間にお手伝いをしてくれる。


「シルビア、気を付けてね!こっち片付いたら手伝いにいくからね~」サーシャが大きな声で答えた。


空を見上げると、眩しい太陽が照らす。今日は雲一つない青空だ。


「ガオとアリーも無理してないといいけど…」ふぅとため息をつきながら、サーシャは後片付けをする。

「朝から張り切ってたもんね!」くすっとオリビアは笑った。


今日は待ちに待った重機が使えるのだ!

アリーはもともと建設会社で働いていて、建物の工事から解体作業まで行っていた。

力がある男性たちを集め、瓦礫であふれた街の撤去作業を行っている。

アリーは奥さんと子どもを戦争で亡くした。

“彼らが大好きだったこの街をいち早く復興させたい”その強い想いから活動を始めたのだ。


実はガオとは、ここで出会ったのだ。施設育ちのガオには元々家族がいなかった。

アリーはガオと過ごし、気づいたことがあった。

鍛えられたガオの背中は大きく逞しいが、ふと見せる顔はとても寂しそうだった。


自分が最後まで与えられなかった家族の愛を、勝手ながらガオに与えたかった。

本人に相談したところ快く承諾してくれた。

「アリーさんの家族になれるのがとても幸せです!」ガオは泣きながら言った。


そんな彼らの姿をみて、街にいる人たちは強く心を動かされた。


「ここで立ち止まったら終わりだな!」

「早くもとの街に戻そう!」

「ザハルの日は来年できるかしら!」


ダマスの賑やかな声と笑顔が少しずつ戻り始めた。


私が復興支援でダマスに戻って活動をする時には、アリ―とサーシャの存在は街の住民に大きな影響を与えていた。そこで2人に質問をした。


「自分たちの力の源はなんですか?」


2人は元の家族や街のことを思い出したようで、寂しい表情をした。


「立ち止まったら終わりな気がしたんだ」アリーが最初に言葉を開いた。


その言葉にサーシャが言葉をつづけた。

「始めた当初は、無我夢中で動くことで、現実を受け入れないようにしてたのかもね。」


「ああ。けれど、死んでいった家族も友人たちも、元の街に住めることを心から望んでいた。

だからもし次生まれ変わったときに、こんな悲しい風景を見せられないなって。

死んでいった皆のためにも、生きて街を元通りにするって決めたんだ。」アリーが話すとき、サーシャは背中を優しく撫でた。


アリーとサーシャは家族だけど、親友のようにお互いを尊敬し信じている。

そしてなにより、過ちを起こしたイスラーンを、それでも強く愛し未来へ繋げようとしている。


「私は、アリーさんとサーシャさんの活動が、イスラーンへの愛情だと、とても感じます。

いち早い復興へと繋がったのも、2人の強い想いが、周りの人へ伝わったからだと思います。

戦争で背負った傷は当事者にしかわかりません。

加害者も自分自身も赦せななくて、絶望から生きる意味や理由を探します。

お2人の活動が、みなさんの生きる活力になったのではないでしょうか。

外国人である私にも、快く受け入れ家族のように接してくださりありがとうございます。

一緒にイスラーンを賑やかな笑顔溢れる街に戻しましょうね!」


私はそう言い、2人の手をぎゅっと強く握った。


「リリーさん…ありがとう.....!」

そこではじめて2人の涙をみた。


きっとこれまで、弱音を吐かず走り続けてきたのだろう。


受けた痛みは当事者にしか分からない。

武器を持ち戦った人たちも今では一緒に復興支援を行っている。

その人たちを住民たちが完全に受け入れるのには、これからも時間が必要だろう。


けれどその当事者が、イスラーンを愛し未来のために立ち上がり働きかけるからこそ、皆がついていくのだ。

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