第9話
冒険者は依頼の達成によりギルドへの貢献値を稼ぎランクアップを果たす。
それが出来るのはA等級までで、S等級となるためには特殊な条件を達成する必要がある。
その特殊な条件と言うのが、五大国による承認。
この世界を統べる五つの国から認められることにより、
晴れてS等級パーテイーとなることが出来るのだ。
現在S等級として認められているパーテイーは七つ。
それぞれが圧倒的な実力と、実績を持つパーテイーで、
その名を知らぬものなどいないほど有名だ。
そして―――――
そのS等級の中で、最強と呼ばれていたパーテイーこそが、
ロイド率いる【蒼天の轟竜】であった。
「――――さん?ラタンさん?」
受付嬢の声にハッとする。
「どうしたんですか?」
「あ、いえ・・・なんでもありません。すみません」
僕は答えた。
「そうですか?・・・えっとそうなんです。ラタンさんももちろんご存知と思いますが先日、【蒼天の轟竜】が壊滅したとボルドー王国が発表しました」
「・・・」
「パーテイーリーダーの勇者ロイド、聖女リラ、戦士ラーハン、大賢者アリアハルは戦死・・・【蒼天の轟竜】の全員が死亡したという事です」
受付嬢は言った。
そうなのだ、と僕は思う。
【蒼天の轟竜】は最強の四人組と言うのが世間の認知であった。
僕と言うメンバーの存在は一部の関係者しか知らなかった。
それも当然だ。
四人の存在が余りにも輝かしくて、
僕というちっぽけな存在は誰の目にも入らなかった。
Sクラスパーテイーへの任命式の時も呼ばれたのは四人だけで。
僕はただの関係者くらいの位置づけで式に参列していたに過ぎない。
【蒼天の轟竜】はあの四人がいて、初めて【蒼天の轟竜】なのだ。
僕が黙っていると、
受付嬢は不思議な顔をしながらも話を続けた。
「それと同時に王国は魔王種と呼ばれる魔物に関する情報を開示しました」
「魔王種・・・」
「はい。これまでに類を見ないほど強力な魔物で【蒼天の轟竜】もその魔物にやられたそうです。あの【蒼天の轟竜】がやられるなんて、私には到底信じられませんが・・・」
僕はその話を聞いて、
あの日の事を思いだす。
突如僕たちの目の前に現れた【黒甲冑】。
ひと目見た瞬間に僕は死を覚悟した。
これまで戦ってきたどんな魔物よりも禍々しく、
そして圧倒的な存在。
魔王種と言うことは、あれと似たような存在が他にもいるということだろうか。
そんなこと想像したくもなかった。
「現在、五大国では総出を上げて魔王種に関する調査を実施しています。そのため、どこの国のギルドも人手不足なのです」
受付嬢は言った。
「そうなんですね、、教えて下さってありがとうございます」
僕は答えた。
僕が魔王種に関わることなんて二度とないだろう。
ロイドたちがやられた魔物に、
僕なんかが出来る事はなにもない。
「ラタンさんの方から何か質問はありますか?」
「いえ、特にありません」
僕は短く答えた。
きっと僕は今ひどい顔をしているだろう。
一刻でも早くここから出て外の空気が吸いたかった。
「そうですか、申し遅れましたが私はギルド職員のエリーと申します。何かあったら気軽にお声がけください」
そう言って受付嬢、エリーは頭を下げた。
僕はエリーに礼を言って受付を後にした。
・・・
・・
・
違和感を感じた。
「・・・強くなってる、のか?」
それは今日4体目のホーンラビットを倒した後だった。
動きが軽い。
それはちょっとした成長などではなく、
これまでとは明らかに異なるレベルだった。
特に短剣を振るう動きが自分でも驚くほど滑らかで、
自分の身体じゃないみたいだった。
ホーンラビットと言えば最弱の魔物として有名で、
冒険者なら余裕で狩れるような相手だ。
だがこれまでの僕ならそれなりに苦戦していたはずだ。
それが今日はあっという間に狩り終わってしまった。
アレクを救う際にゴブリンを倒した事といい、
僕の身体に何かが起きているのは明確だった。
「もしかして――――」
ついに僕にもスキルが目覚めるんじゃないだろうか。
余裕が出来たら教会で観て貰ってもいいかも知れない。
僕はそんな事を思い、
残りのホーンラビットを探すために森の中を再び歩き出した。
・・・
・・
・
「残念ですが・・・」
シスターの言葉に僕は肩を落とす。
「ありがとうございました」
教会で調べてもらった結果はこれまでと何も変わらなかった。
僕はやはりこの歳になってもスキルが目覚めず、
昨日までの僕と何も変わっていなかった。
淡い期待があった分、いつもより落胆が激しい。
僕はため息をついてギルドへと向かった。
ギルドは今日の依頼を終え、
報告をする冒険者パーテイーで溢れていた。
僕も今日狩ったホーンラビットを納品しなくては。
そう思い受付に並ぼうと思ったその時、
ギルドの中で叫び声がした。
「もう一度言ってみなさいよ!」
見れば女の子が数人の男に囲まれている最中だった。
金髪でスラリとした少女の叫び声はかなり目立っていた。
ギルドの中で揉め事は珍しくないが、
触らぬ神に祟りなしというやつだ。
そう思った瞬間、僕と女の子の目が合ってしまう。
僕はその顔を見て、あれ?と思った。
彼女の顔には見覚えがあった。