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花鳥雲月録 ~乙女と不機嫌な護り人~  作者: 五十鈴 りく
第三部+五方神鳥の章+

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六「原因として」

 レイレイがルーシュイのところへ戻る際、レアンがついてきてくれる。ユヤンは室内の入り口でそんなレイレイに告げる。


「今日、レアンとチュアンをひと晩、鸞和宮に遣わそう。二人がいれば、もしかすると何かに気づくかもしれない。それから、私は時間が取れぬので、陛下がこの状態に陥った詳しい経緯も二人から聞いてほしい」


 レアンとチュアンがいてくれたら、ルーシュイも心強いのではないだろうか。ユヤンの申し出はありがたかった。

 あの二人なら、ルーシュイが出奔した時にも鸞和宮で一緒に過ごしたことがあった。勝手を知っているので助かる。


「畏まりました。お気遣い、痛み入ります」


 二人を派遣してくれるのは、その分ユヤンがレイレイに期待してくれている証拠でもある。そこは気を引き締めないといけない。

 レアンに連れられ、レイレイはルーシュイのもとへ戻った。ルーシュイはチュアンと共にいたけれど、ひと言も口を利かなかったのではないかと思える雰囲気であった。


「レイレイ様、陛下のご様子は……?」


 さすがにルーシュイも気になるようで、けれどレイレイが口に出すのをはばかったことをその表情から読み取った。深く訊ねることをせず、一度目を伏せてうなずく。


「……では、戻りましょうか」

「うん。あの、ユヤン様がレアンとチュアンをひと晩連れていってもいいって仰ってくださったの」


 ルーシュイの眉がぴくりと動く。そのルーシュイに、レアンが冷静に告げた。


「はい。詳しいお話をさせて頂きたいのと、念のためにおそばに控えておくようにとのことで」

「左様でございますか」


 畏まった物言いでルーシュイは答える。相手は子供に見えるけれど、ユヤンの次官なのだ。ルーシュイが軽んじていい存在ではないのだろう。


「こちらの業務を片づけてから向かいます。晩鐘が鳴る前には伺いますので」

「我らの寝食の心配は無用です」


 二人がそんなことを言う。


「無用って?」

「寝ずの番をするために行くのです」


 レアンがあっさりと言った。


「寝ないの? 疲れるでしょう?」


 弁えたルーシュイとは違い、レイレイはつい二人の見た目が子供だから子供扱いしてしまう。そうしたレイレイにレアンは苦笑しながら言った。


「眠っていてはユヤン様に叱られてしまいます。我らのことはどうぞお気になさらず」

「そうなの?」


 ユヤンに怒られるとあっては強く勧められない。そんな中、レイレイだけ眠らなくてはならないのだ。なんとなく複雑であるけれど、それもレイレイの職務なのだから仕方がない。




 そうして、二人は宣告通り晩鐘が鳴る前にやってきた。だからそれまでにレイレイもルーシュイも食事と湯浴みを済ませて待っていたのだ。

 二人はいつものごとく礼儀正しく鸞和宮の門を潜る。ルーシュイは入念に戸締りをした。


 二人をまずいつもの広間に通し、紅木の机を挟んで座った。ルーシュイはレイレイが就寝前であることから白湯を用意してくれた。

 その白湯が冷める前にまず口を開いたのはレアンだった。


「陛下にはずっと気がかりなことがございました」

「え?」

「鸞君もご存じのことと思います。一度巻き込まれかけたそうですので」


 その時、レイレイよりも先に隣のルーシュイが気づいた。


「それはもしや、この国にはびこる人身売買組織のことでしょうか?」


 レイレイはハッとした。そう、異民族のフェオンという少女が人攫いに遭い、逃げ出してきたところをシージエが保護したのだ。その後、フェオンがルーシュイに懐いたこともあり、レイレイたちが一時的に預かった。

 あの時、この国にそうした組織があることにシージエが衝撃を受けていた。ユヤンは知っていたとしても、皇帝であるシージエの耳に組織の情報は伏せられていたのだろうか。

 報告できるほどの手がかりをつかんでからと配下の者たちは考えていたのかもしれない。


 正義感の強いシージエが、自分が治める国においてそうした非道がまかり通ることをよしとするはずがない。あの後も調査を進めていたのだ。

 あれは、レイレイが鸞君になった始めの年であったから、もう二年近く前のことである。


 それが今回のことと関わりがあるのだろうか。

 ――あるのだろう。なければ今、レアンが口にするはずがない。


「そうです。下の者はいくらか捕まえましたが、壊滅とまではなかなか行かずにおりました。それというのも、あちらにもかなり力のある方士がいるようなのです。摘発する前に察知されてしまうようで……」


 と、チュアンも嘆息した。

 あの時のことを思い出してみる。レイレイがフェオンと一緒に攫われそうになった時、乗せられた馬車には方士が一人いた。方術を使い、フェオンの居場所を探し出したと。

 ただ、その方士はルーシュイよりも力が劣っていた。追ってきてくれたルーシュイによって捕縛され、牢に入れられた。


 しかし、一般人が方術を使うことなど稀である。素質がもしあったとしても、それなりの地位にあり、学ぶことができなけれ使いこなすには至らない。


「……その組織の力のある方士が、陛下の御不調となんらかの関りがあると?」


 ルーシュイが神妙な面持ちで問う。


「断定はできませんが、その可能性があるとユヤン様はお考えのようです。いくら外出されたとしても、陛下は城市の外へは行かれません。その中にあって、ユヤン様の庇護を掻い潜り、鸞君にも察知されなかったのですから」


 レアンが言うように、その強い力を持つが故に対象は限られる。

 そう言われてみれば、あれからレイレイは一度もあの人身売買組織の夢は見ていない。摘発できていないのならば、夢で攫われた子の嘆きが聞こえてもよさそうなものなのに。


 考え込んだレイレイに、チュアンは心配そうな目を向けていた。


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