初舞台は彼と一緒に 2
腕を庇いながら、一人でよろよろと舞台上を走る。
きょろきょろと辺りを見回し、石垣のセットの一部である小さな石を外した。
これは、発泡スチロールになっているから、簡単に外せるんだけどね。
そこへ、懐から出した書状を捻じ込む。そして、石を元に戻すと、舞台の上手の袖へと移動する。
少し袖に隠れたところから、後ずさりして舞台中央まで戻る。
何故って、またもや黒忍者集団に待ち伏せされていたからだ。黒忍者集団は鎖鎌を回したり、刀を向けながらじりじりと楓を舞台中央まで引き戻す。
なんでこんなに敵に見つかるのって、忍者のくせに赤い衣装着てるからじゃないかなぁ。
殺陣のショーだから仕方がないというか、これが見せ場なんだけど。
クナイを構えるけれど、多勢に無勢。
鎖鎌の鎖に両腕を絡め取られてしまい、絶体絶命の危機!!
「ちょこまかと逃げおって!」
リーダー格の黒忍者にヒタヒタと刀身を頬に当てられる。
本物の刀が持つ緊張感に思わずごくりと生唾をのみこんだ。
ひぃ~!! 演技だと分かっていても怖いよ。
「姫は何処に隠した!!」
キッと黒忍者を睨みつけて、不敵に笑って言い放つ。
「残念だったわね。仲間が生国まで送っていったわよ」
「ふっ……では、書状は?」
「……」
パシン
乾いた音が響いて、頬を打たれる。(ように見せかけているだけですが)
何回このパターンですか? と言いたいところですが、お客さんはすっかり舞台の緊迫した雰囲気に呑みこまれて、生唾ゴックンの様子。
「楓!!」
凛とした霧丸の声が響いたかと思うと、ボウンと舞台上に煙幕が張られた。
モワモワとした煙の中、キイン、キインと金属が打ち合う音が響く。
ライトが後ろから当たって、煙幕に霧丸と黒忍者集団の殺陣の影だけが映る。
そりゃもう、迫力満点で、本物の忍者は戦闘中にバク転とかしないだろうと、冷静に思うのだが、観客からの目線では、アクションが派手で舞台上が大いに盛り上がっている。
両脇に鎖を引っ張っていた鎖鎌の忍者も、煙幕で驚いて力が緩んだ隙に、蹴りをお見舞いして倒す!
やがて、煙幕が晴れた舞台上には、黒忍者集団の屍が累々と転がっていた。
「霧丸!!」
舞台中央で一人、格好をつけて立っている霧丸に駆け寄り、少しだけ抱擁。
う~~ん、役得♪
直ぐに書状を取り出し、二人で舞台上から走り去った。
場面は変わって、城内。
霧丸と、楓は平頭して、殿のおいでを待つ。
ゆっくりと現れた殿に、恭しく書状を差し出す。
殿はそれを受け取り、中にざっと目を通すと、満足したように言った。
「ようやってくれた」
ははーー!!
二人でさらに礼を深めているところで、幕がさっと引かれた。
* * *
「ふぃ~!!」
突っ伏す間もなく、舞台は2回目の公演に向けて準備される。
緞帳の向こうでは、ショーが終わりガヤガヤとお客様の席を立つ気配があった。
「理沙、お疲れ様」
霧丸様……じゃなかった。涼先輩が頭をポンポンとしながら、満面の笑みで労ってくれた。
「今まで大変だっただろうけど、特訓に付いてきてくれてありがとう」
温かな眼差しで改めて言われて、なんだか面映ゆい。
「ショー、大丈夫だったでしょうか」
「うん。大成功。頑張ってくれたよ。まだまだこれからだけど、頑張ろうね」
「はい!」
他のスタッフさんからも、次々と「理沙ちゃんお疲れ様」とか「頑張ったね」と声を掛けられて、仲間として認められたような気がして、嬉しくなってしまう。
本格的な忍者アクションでお客様を楽しませているというプライドが、ショーメンバーさんの一人一人にあって、最初は忍者でもない自分が凄いお荷物なんじゃないかと怖かった。
涼先輩の彼女で、真梨子さんが可愛がってくれているからって、いい気になってるって思われているんじゃないかって、怖かった。
だけど。
息のあったアクションで、ひとつの舞台を一緒に作り上げたことで、なんだか認められた気がする。
そこまで鍛えてくれた涼先輩にも感謝している。
涼先輩は特訓の時は厳しくて、ショーメンバーさん達とも本当に戦ってるんじゃないかってくらい凄いアクションを楽々としてみせて、ああ、彼は本当に忍者なんだって感じた。
小さい頃から鍛えられて、現代のあり方で忍者として生きている、本物の忍者。
到底敵いそうにはないけど、涼先輩の傍にこれからもずっといたい。
彼に似合う私になりたい……!!
本当に声高に言っても誰も信じてはくれないだろうけど、だから心の中だけで誇らしげに叫ぼう。
私の彼は忍者、なんです!!
(完)
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