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私の彼は忍者  作者: 紅葉
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初雪

 カンッ、カンッ


 木刀が打ち合う乾いた音が、辺りに響く。


 最初に比べて随分タイミングが合うようになったと我ながら思う。


 じりじりと間合いを詰められないように警戒しながら、後ろに下がり、公園にあるすべり台のような形をしたスロープを、反対側から一気に駆け上がり、木を組んで建つやぐらの上に立つ。

 これは、縮地という忍者の鍛錬にもなっているんだって。


 ここまでは追ってこられないだろう。

 って、シナリオで、追ってこないことになっているんだけどね。


 猫のようにしなやかに、立っていた場所からスロープとは反対側に飛び降りる。



「理沙、かなりうまくなったね」


 と、涼先輩が不敵に笑いながら、褒めてくれる。

 涼先輩、その笑顔、まだ役が抜けていませんね……。


「つぎは、下げ緒利用方七術のうち、釣り刀の法をやってみようか」


 釣り……?


「そう、初めて理沙がうちのショーを見た時に、うちの姉さんが披露していた、刀の鍔に足をかけて塀に飛び登っていた技を覚えている?」


「ああ、はい。覚えてます」


「これが忍び刀」


 先輩が小屋から布に包まれた細長い物を小屋から持ってきた。

 布を取ると、中から出てきた刀は、鞘が黒塗りで、刀身が真っ直ぐ。

 鍔は幅広く、四角い。

 そして、下げ緒は長く、およそ3メートル。


 涼先輩は、その忍び刀を持ってスロープが打ち付けられているやぐらの前に行くと、刀を地面と滑り台に立てかけ、ひらりと踊り場に飛び乗った。そのあと、刀を回収。


「これが、釣り刀の法。やってみようか」


 涼先輩が、やぐらの上から楽しそうに笑いかける。


 下げ緒を口にくわえて、立てかけた刀の鍔に足を掛ける。手を伸ばしてやぐらの床板を掴もうとするが、足元が安定せず……。あわわっ!!

 後ろ向きに落ちて、お尻から落下。痛ぁい……。

お尻を撫で撫でしていると、やぐらからひらりと降りてきた涼先輩が心配そうに近づいて来てくれた。

 ……いや、お尻は撫でてくれなくていいんですけどっ!!

 ひゃぁ!! と飛び退く。

 うん、心配してくれたのは分かってるんです。だから、そんなに落ち込まないで~。


「来週は、飛燕のトレーニングに混ぜてもらって、メンバーに紹介するから」


 わかりました。取り合えずは、これをマスターしないとね。

 何度も何度も失敗しては、やり直す。

細い刀の上に一瞬だけど、全体重がかかる時にぐらついて落ちてしまうのだ。

 2度目からは、落ちそうになったら、涼先輩が後ろから抱きとめてくれたので、お尻は無事だけど。


「理沙は、子どもの頃、ホッピング出来た?」


「ホッピングですか? あの、バネ付きのぴょんぴょん飛ぶ遊具?」


「そう、それ」


「う~ん、出来なかったと思います。小さい頃からバランス感覚が悪いみたいで、平均台も落ちちゃうんですよね~。ドンじゃんけんが苦手で……」


 変な記憶まで甦ってきた。ドンじゃんけん、ジャンケンどころか、ドンにも辿りつかない。


「そう……。時間がかかりそうだね」


 後ろから抱きとめられた体勢のまま、上を向いて涼先輩の顔を覗くと、涼先輩は、言葉と裏腹に優しく微笑んでいた。


 上を向いていたので気付いた、白くて軽そうな何か。

 ふわふわと舞っている。ススキの綿毛でもない。これは……。


「涼先輩、雪!! 雪が降ってきた!!」


 俄かにテンションが上がる。

 わあ~、積もるかなぁ。

 涼先輩がクスっと笑うのが、目の端に映った。


「初雪だね、どうりで寒いはずだ」


 涼先輩の頬が首筋に、ぴとっとくっつけられる。

 こそばゆくて、ピクンと身体が跳ねる。

 ふふっと、笑う涼先輩の甘い息が、さらに首筋をくすぐったくさせる。


「せ……せんぱいっ」


 くすぐったいんだけど、胸はきゅんきゅんしてきた。

 どわわぁと、全身に血が駈け巡る。

 このまま、私、どうなるの!!


「理沙、温かい」


 胸の前にまわされていた腕に力が入って、ギュウっとされる。

 しばらく硬直したまま人間カイロになってよう……。幸せ、かも。


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