ジンクスを信じますか?
文化祭が終わって、次の月曜日ーー。
先生方は、土日を挟んだことによって授業への気持ちの切り替えを図ったのだろうけど、まだ学校中のあちこちで文化祭の話題で持ちきりだった……。
「ちょっと理沙聞いたよっ!!」
中間休みに隣のクラスの由希ちゃんがうちのクラスに来た。
話の内容はきっと先週の後夜祭のことなんだろうな、と思う……。
何故なら朝からこちらをチラチラ見ながらひそひそ話している集団はいるし、ある集団は堂々と、「吉田さん、3年の藤波先輩と付き合ってるの?」と聞いてくるからだ。
隠すのもおかしいかと思い、正直に首を縦に振る。
どんな嫌みを言われるのかと戦々恐々としたが、予想とは違う反応が返ってきた。
つまり……。
「きゃぁーー!! 吉田さん、スゴーイ!! ねぇ、どうやって藤波先輩に告白したの?」とか……。
「ねぇ、ねぇ。二人の時の藤波先輩ってどんな感じ?」とか。
トレーニングの時の先輩は、まさかのドSキャラです、とは言えないしねぇ。
無難に「クールで寡黙かと思ってたけど、優しいよ」って答えておいた。
いや、まあこれも本当の事だしね。
「やーーん!! いいなぁ〜」
ってひとしきり悶えて満足したのか、開放してくれる。
それでも、朝から何人目?って数えられないくらいなので、いい加減放っておいて欲しい……。
「や〜ん、ショックーー!! 『当麻×藤波』萌だったのにーー!!」
という声も聴こえましたが、どういう意味でしょう?
まあ、全体的に羨ましがられている風ではあるけど、靴箱にカエルが入れられてたり、体育館の裏に呼び出されたりということはないみたい。
良かった〜♪
というわけで、由希ちゃんがニヤニヤして言うには……。
「理沙、フォークダンスの時に先輩に手の甲にキスをされたんだって?」
……う、うん。
「それを目撃していた男の子がね、後夜祭で告白した女の子の手の甲にキスをしたんだって!! なんか舞踏会のお姫様になった気分って、その子が騒いだもんだから、『手の甲にキス』が流行っちゃって、今大変な事になってるよ!!」
……へ、へえ。
確かに、文化祭の後は付き合い始めるカップルが急増して、クリスマスがピークになるそうだ。
その後、卒業間際に別れる人達も居るみたいだけどね。
「どう大変な事態になってるわけ?」
「どうもね、『後夜祭で手の甲にキスをしながら告白すると、願いは叶う』的な新しいジンクスにされそうよ」
なんだそりゃ。
「すみませーーん、吉田さんいます?」
教室の入り口から呼び出しの声。
由希ちゃんと同じクラスの女の子が、そこにいた。
「新聞部ですけど、少しお話伺いたいんですけど」
「勘弁してくださーーい!!」
ここに居ては危険と、廊下を走って逃げる!!
後ろを見れば、釣られたか、それともジャーナリストの習性か、新聞部の女の子も追い掛けてくる。
しかも、速い!!
彼女、文化部なのに体育祭でリレーの選抜に選ばれてたっけ……。
追い掛けられると、つい走って逃げてしまう。
角を曲がったところで、購買部に行ってきたのか、パンを抱えている優駿くんとすれ違う。
そのまま特別教室棟への渡り廊下をひた走る。
「うわっ! 理沙ちゃんどうしたの?」
回れ右して優駿くんも並走してきた。
「追われてるーー!!」
「誰に?」
あっ!! 先輩!!
いつの間にか、先輩も並走してきた。
「新聞部〜!!」
それだけで先輩には逃亡の理由が分かったようだ。
「……理沙、逃げたいなら手伝うけど、話し合う方が得策じゃない?」
お二人ともさすがですね!
並走しながら息切れひとつしていません。
それは、そうかも〜。
何で逃げちゃったんだろ?
今さら戻るのも恥ずかしい〜!!
「クス。分かった。天馬頼むわ!」
私を挟んで反対側にいた優駿くんに先輩が声を掛けた。
「了〜解♪ じゃあ理沙ちゃん後でね♪」
目で会話したのか、さっぱり意味が分からないけど、優駿くんは駆け戻って、息も切れ切れに追いかけてきていた新聞部の女の子に話しかけにいった。
もう少し先に進んで視聴覚準備室に逃げ込む。
はーー。
疲れた。
息が整ってくると、さっき「あれ?」と思ったことが甦ってくる。
「先輩、優駿くんと仲良かったんですか?」




