火の乙女になりました♪
文化祭当日ーー。
顔出しパネルの展示は大成功。
最初はあまりお客さんが来なかったけれど、「無料で面白い」とクチコミが広がってからは、パネルの前に順番待ちの列が出来ていた。
楽しそうなその笑顔で、頑張った苦労が報われる気がするよ。
実行委員は!前日まではクラスのまとめ役をするけれど、当日は委員として、あちこちの連絡調整に走らされる。
ある程度のおふざけは無礼講だけど、ハメを外す生徒も要るかも知れないので、男女一組で、校内パトロールも兼ねて校内を回るのだ。
今はちょうど自分のクラスに戻ってきたところだった。
教室を覗くと男の子同士で、結婚式のパネルから顔を出して騒いでいた。
その様子を見て、きゃあきゃあ喜んでいるのは、去年同じクラスだった女の子達。
……一緒に廻ってるのかなぁ〜いいなぁ〜〜。
……先輩、どこに居るのかなあ〜。
騒いでいる集団を眺めて、少し寂しい気持ちになってきた。
先輩と廻れないし、この後の後夜祭でも仕事だし。
先週末に合った時に、先輩にそう伝えると、先輩は優しい笑顔で……。
『俺も寂しいけど、仕方がないね、委員のお仕事頑張って』
と、頭を撫でてくれたけれど……。
寂しい気持ちには変わりがない。
「俺、理沙ちゃんと一緒に廻れてサイコー!! 」
パトロールでバディを組んでいる優駿君が隣でニコニコしている。
……仕事だけどねぇ。
「さあ、次行こっか」
「俺、何か食いてー。腹減った〜」
情けない顔をして、お腹をさする優駿くんの姿に、少し和む。
クスクス。
「委員長にバレたら怒られるよ」
窘めると何でもないことのように笑い返された。
「委員会室に詰めてる委員長にも差し入れすれば、オッケー!!」
あっけらかんと言い放ち、中庭の三年生クラスのお店でたこ焼きをふたつ買い求めた。
もう。
「それじゃ、袖の下だよ〜」
「いいの、いいの〜♪ はいっ!お裾分け♪」
優駿くんがポイッと、私の口の中にたこ焼きをひとつ突っ込んだ。
「熱っつ!!」
アハハッと、優駿君が笑い転げる。
今さら返すわけにもいかず、ハフハフと冷ましながら、たこ焼きを咀嚼する。
その間に優駿君は、ひと舟のたこ焼きを平らげて、近くのゴミ箱に空になった皿を捨てた。
「はいっ! 共犯ね♪」
イタズラっぽい笑顔で、喉まで出ていた文句を飲み込まされた。
はあ〜〜。
その後、委員会本部に立ち寄った優駿君は、おりこうさんの皮を被って、温くなったたこ焼きを差し出していた。
「委員長〜、お疲れ様です♪ 差し入れッス」
「天馬、口に青のり付いてるぞ」
「え!! マジッすか」
慌てて口に手をやって、袖で擦る。
仕方がない奴だな〜と、委員長は苦笑した。
笑いで済まされるあたり人徳だよね、羨ましい。
「天馬、吉田、後夜祭の準備の方に手伝い回ってくれるか?」
委員長が私たちを見て言う。
どうやらキャンプファイアの準備が手こずっているらしい。
委員長が放って寄越した二組の軍手を、優駿君は空中でパシッと受け取った。
「了解でーす♪」
ペコリと委員長に礼をしてから、委員会室を出た。
校庭に出てみると、なるほど。
あと一時間で後夜祭が始まるのに、キャンプファイアの薪が幾らも積まれていない。
「理沙ちゃんは、ここに居てて」
軍手をはめながら、優駿君が言う。
「え……でも」
「汚れるからさ〜、力仕事だし。良かったら、これ持ってて」
と、ブレザーとシャツを脱いで渡された。
優駿君は半袖Tシャツ姿になって、手を振りながら行ってしまった……。
優駿君自身も薪を運びながら、皆に何やら指示をし、キャンプファイアの準備はどんどん進んでいく。
……手馴れてるなぁ〜
強引に渡された服を、肩の線で整えて片手に掛けると、キャンプファイアの準備が着々と進められていくのを眺めていた。
そして、後夜祭ーー。
クラスやクラブの展示・発表の片付けが、あらかた済む頃を見計らって、後夜祭の開始が校内放送で知らされる。
生徒が集まったところで、緊張が高まってきた。
実は、実行委員会のくじ引きで点火する役目を引き当ててしまったのだ。
『火の乙女』の衣装を纏い、燃えるトーチを手に、薪に近づく。
無事に火が燃え移ったのを確認して、静かに退場した。
はーー。緊張した。
赤々と燃える火は、とても綺麗だ。
パチパチと木の爆ぜる音。
火の粉が、炎の妖精が遊ぶようにふわふわと舞う。
それを委員会本部のテントの中から眺めていた。
放送はフォークダンス曲を流している。
この辺の子どもは、幼稚園、小学校、中学校と、事ある毎にフォークダンスを踊らされ育ってきたので、高校生にもなって恥ずかしいと思いつつ、音楽が流れると自然に身体が反応してしまうのだ。
男女に別れて輪になり、踊る。
曲によっては男女で手を繋いで踊る。
あの中に先輩が居て、誰かと手を繋いでいるかと思うと、胸が苦しかった……。
「踊ってきていいよ」
委員長に声を掛けられた。
「やりぃ♪」
消火水とスコップに囲まれて待機していた優駿君が、飛び上がって喜ぶ。
「理沙ちゃん、行こう!!」
「先に着替えないと」
「いいじゃん。ヒラヒラしてて可愛いよ。火の乙女が踊ったらみんな喜ぶよ!! あ、でも最初に俺と踊ってね。頑張った俺にご褒美頂戴〜♪」
グイグイと引っ張られて輪の中に入れられる。
手を取られて、強引に踊らされた。
こんなところ先輩に見られたら、お仕置きされそうです……。
どんなお仕置きが待ってるのか、考えるだに恐ろしい……。
クルクルと踊りながら、フォークダンスの常で、別の人に相手が代わった。
そうやって踊っているうちに、先輩が近づいてきた。
ドキドキ……。
先輩と踊れるかと思うと、胸が高鳴ってきた。
先輩の手が私の手を取った時、音楽が終わった……。
ガックリです〜〜!!
何のコントですか!!
お決まりのようなオチに愕然としてしまう。
手を取ったままの先輩は、手の甲にチュッとキスをして、そのまま指を絡めて手を繋いだ。
少し人の輪から離れる……。
「理沙、可愛い……」
見つめられる視線に、照れてしまう。
白いヒラヒラしたドレスに、銀糸の刺繍に縁取られたベールを頭に被り、白い花の髪飾り……。
ロマンチックな衣装を去年見たときから憧れていたから、くじを引いたときは嬉しかった。
掠めるようなキスが唇に落ちてきて、幸せでふわふわする。
「攫っていきたい……ヤバイ」
ボソリと先輩が呟く。
何だか先輩色っぽい目付きになってきてますよ。
「……困ります〜。後片付け……手伝わないとっ」
先輩の洩らした言葉に真っ赤になりつつ、反論する。
「分かってるよ。もう少しだけ、一緒に居て」
はい……。
嬉しくてどうにかなりそう……。
でも、学校でこのモードの先輩は危険だっ!!
話題を変えないとっ!!
「先輩、受験するんですよね」
「そうだよ」
急に話題が変わったので、先輩の瞳の中に揺らめいていた妖しい光が消えた。
セーーフ!!
こそっと、小声で聞いてみる。
「あのっ、土日のトレーニングですけど、受験勉強の邪魔になりませんか」
先輩はニコッと微笑んで、頭を撫でようとした手を、そっと下ろした。
「今はまだ大丈夫。ありがとう」
頬に掛かっていたベールをちょっと捲って、頬にチュッとキスされた……。




