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私の彼は忍者  作者: 紅葉
23/64

修行開始ですか? 2

 先輩がカチリと鍵を開けて、引き戸の玄関ドアを引くと、カラカラと軽い音がして扉が開いた。


 「さあ、どうぞ」


 と、ドアを押さえて私を先に通してくれる。

 ここが先輩のおうちかあ~。

 なんだかドキドキするなあ……。


 「お邪魔しま~~す」


 先輩が鍵を開けてくれた、玄関ドアをそろりと入る。

 靴が脱ぎ散らかされていない清潔な玄関。木の香りのする磨かれた廊下に、飾られた花……。

 背後で再びカラカラと扉の閉まる音がする。

 その瞬間、はっとした。

 先輩が鍵を開けたということは、……おうちに誰もいない?

 ふたりっきりってこと?

 昨日本屋で仕入れた漫画の内容が頭を駆け巡り、イケナイ想像が顔を熱くさせる。

 

 「どうかした?」

 

 い、いいえ。ナンデモ……。


 靴を脱いで揃え廊下に立つと、横に並んだ先輩が居間へと案内してくれた。

 廊下の左右にある部屋はどれもふすまで仕切られていて、ふすまの開いている部屋はみな畳の和室。

 ……先輩の部屋はどれかなぁ。

 

 「俺の部屋に入りたいの? いいけど、理沙結構大胆なんだな」

 

 かあぁ……。

 心の声だだ漏れでしたか……。

 

 「ごめんなさい、なんでもないです……」


 クックックッと肩を揺らして笑う先輩の背中を、恥ずかしさのあまり睨みつけた。


 座布団をすすめられて座っていると、先輩がお茶とお菓子を持ってきてくれた。

 

 「和風ですけど、結構普通のおうちなんですね」


 「忍者屋敷の様な家だと思った?」

 

 はい……実は。


 「理沙は忍者っていうと、どんなものを考える?」


 え? 

 う~~ん。


 「凄く高くジャンプしたり、手裏剣ビュンビュン投げたり、チャンバラしたり……ですかね」

 

 「そう、一般的に幻術を使ったりして派手に戦うイメージあるよね。ショーでは喜ばれるように派手にやるけど、昔にいた忍者の実態は結構地味なんだよ」


  うんうんと頷き、優しい笑顔で話す先輩。


 「忍者はいつの時代も歴史の影にいて、自分が忍者であることは言わなかった。忍者とばれることは、任務を遂行できなくなることだからね。昔の忍者の本来の任務はスパイ活動や暗殺だったから、殊更普通の人に見えるよう気を遣っていたんだ。理沙も忍者の修行をするからと言って肩に力を入れず、普通でいて欲しい。忍術と言っても、なにも特殊な幻術や超人的な力を身につけるわけじゃないんだよ」


 「そうなんですか。今はスパイとか暗殺……はしてないんですよね?」


 「クスクス。するわけないだろ、それじゃ犯罪になる」

 

 馬鹿な質問に笑いながらも優しい口調で答えてくれた。


 「そ、そうですよねっ。あはは。じゃあ、今の忍者の仕事ってなんですか?」


 「うちの場合は、レストラン経営。主に観光客相手に迫力のあるショーを見せて、町おこしに一役買っている。他にも忍者関連のショップの経営とか、甲賀の方じゃ元々の得意分野でもあった製薬会社だとかね。俺達は忍者であることを隠しながら、矛盾してると思うかもしれないけど、忍者ショーをやってる連中が本当に忍者だなんて、誰も思わないだろ?」

 

 それはそうだ。


 「今は昔のような『仕事』をすることはないから、ショーを忍者らしく見せるために修行をしているようなものだけど、それでも伝えられてきた技術と家系を誇りに思っているし、遺していきたいとおもっているんだ」


 スタント集団の劇団だと、思われていてもね。

と、清々しく笑った笑顔にドキンとした。

私も先輩の傍で何かお役にたてたら嬉しい。

修行……頑張ろう。

 

「今日は、ジャージとか持ってきてる?」


「はい」


もちろん。運動するかと思っていたんで。


「良かった。じゃあ、それに着替えてお散歩に行こうか」


先輩が自室に着替えに行ったので、ふすまを閉めて着替える。

ヨコシマな展開にならなくて残念なような、安心したような、複雑な気分です。

そりゃ、興味あるよ……お年頃だもん。

 

 

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