第312話 到着アークレイズ
いつも感想や誤字脱字報告を頂きありがとうございます!
馬車に揺られながら数日を費やし、いよいよ馬車はアークレイズに到着した。
途中で長い洞窟を抜けたり、谷間の道を進んだり、曲がりくねった悪路を進んだりと、なかなか険しい道のりだったけど、無事にたどり着けて本当によかった。
時刻は昼の少し前ぐらいだろうか。
太陽は高く昇りきる前で、乾いた風が岩肌を撫でている。
アークレイズの街は、切り立った岸壁に囲まれた場所にあった。
自然の岩壁をそのまま城壁のように利用しているのか、遠くから見るとまるで大地の裂け目に作られた要塞みたいだ。
門の前には武装した男たちが立っていたけど、王国の騎士や普通の衛兵とは雰囲気がまるで違う。
鎧も武器も統一感がなく、槍を持つ者もいれば、斧を肩に担いでいる者もいる。
だけど、その目つきだけは鋭かった。
門を抜けた後、馬車がゆっくりと止まり、僕たちはそこで降ろされた。
「見ない顔だな。目的は?」
厳つい顔の男が、ドスの利いた声で聞いてきた。
も、もしかして警戒されている?
何か言うべきなのか迷っていると、ライトニングさんが一歩前に出た。
「あら? そんなことを聞くなんて野暮ね。こういう街に来るのだから、目的なんて決まっているでしょう?」
凛とした表情で、まるで臆した様子もなく答えるライトニングさん。
す、凄く堂々としているよ。
門番の男は一瞬だけライトニングさんを値踏みするように眺め、それから口の端を吊り上げた。
「――へっ、確かにそのとおりだな。ここはアークレイズ。何をしようと文句は言わねぇ。だが、何が起きようと自己責任。それがわかってるなら先に進みな」
門番が意味深な笑みを浮かべ、僕たちを通してくれた。
「ねぇママ。目的を聞かれたのに、あれで良かったの?」
街の中に入ってから、エクレアが小声で聞いた。
「むしろあれで良かったのよ。あの場で素直に目的なんて答えたら、カモにされるだけだから」
髪を掻き上げながら、ライトニングさんが答えた。
「素直に答えたら駄目なんだ……」
「スピィ……」
まさかそんな引っ掛けがあるなんてね。
スイムも驚いたように僕の肩の上で震えている。
「ネロ。何度も言うが、お前は特に気をつけろよ」
「わ、わかってるよ」
「スピッ!」
僕が答えると、スイムが小さく鳴き、キョロキョロと周囲を見回し始めた。
もしかして警戒してくれているのかな。
街の中は、想像していた以上に活気があった。
路地の両側には露店が並び、肉を焼く匂いや香辛料の匂い、油の焦げる匂いが混ざり合って漂っている。
武器を並べている店もあれば、怪しげな薬瓶を売っている店もある。
顔に傷のある男が笑いながら酒瓶を掲げ、その隣では派手な服を着た女が客引きをしていた。
だけど、その活気の奥にはどこか危ない空気もある。
誰もが周囲を探るような目をしていて、楽しげに笑っている人ですら、腰の短剣から手を離していない。
無法街アークレイズ。
ここは確かに、普通の街とは違うんだ。
「そういえば、ライカさんたちはどこかに行ってしまったんだね」
「当たり前だろうが! 目的も違うのに揃って動くわけがない。お前のそういうところだぞ」
「ま、まぁそうなんだけどね」
ガイの言っていることは至極当然だ。
でも、助けてもらったこともあるし、もっとちゃんとお礼を言っておけばよかったかな。
「おっと、ゴメンよ」
そんなことを考えていた時、すれ違った通行人の肩と僕の肩が軽く当たった。
そのまま通行人は何事もなかったかのように進んでいく。
「な、なんだ足が!」
直後、その男が悲鳴を上げた。
見ると、男の足元が白く凍りついている。
「お前、凍すぞ」
「ひっ、な、何だよ一体!」
「アイスがやったの!?」
驚いて駆け寄ると、アイスが通行人の懐から革袋を取り出した。
「これをすられたぞ」
「あ! 僕の!」
それは僕が腰につけていた革袋だった。
まさか、あんな軽く肩が当たっただけで盗まれるなんて。
「クソが! 上手くいったと思ったのによ!」
「ほう。最期に言い残す言葉はそれでいいのだな?」
「ひぅ――」
ウィン姉の剣先が、男の首筋にぴたりと添えられる。
表情が怖い!
スリの男も完全に腰が抜けているよ!
「ウィン姉! 袋は戻ってきたんだし、ほ、ほら、後は衛兵に任せて――」
「それは意味がないわね」
ライトニングさんが穏やかな口調で言った。
「門番が言っていたでしょう? 何があっても自己責任だって。だから――」
ライトニングさんが蛇腹剣を軽く振る。
紫電が一瞬だけ走ったと思った次の瞬間、スリの男の服が細切れになり、苺模様のパンツ一丁という姿になった。
「貴方も、何をされても文句は言えないわよね?」
「ご、ごめんなさぁあああぁあああい!」
スリの男はパンツ一丁のまま、情けない悲鳴を上げて逃げ出してしまった。
「いやだもう、ママったら!」
エクレアが両目を塞ぎ、真っ赤になっていた。
パンツ一丁にされた姿を見て恥ずかしくなったんだろうね。
「ほらネロ。これはもうスイムの中に入れとけ!」
「あ、うん。そうだね」
ガイに押し付けられた革袋を、スイムに収納してもらう。
「それにしても、街に入ってすぐこれかよ」
「本当、油断できない街ね」
「ケトルも気をつけるの」
「勿論です」
ザックスとマキアが呆れたように呟き、ネイトの言葉にケトルが静かに頷いた。
確かに僕も、もっと注意しないといけない。
アークレイズに着いたから一安心、なんて考えは甘かった。
ここは、何でも起きる街。
そして何が起きても、自分でどうにかしなければならない街なんだ――。
本作のコミカライズ版最新第14話がコミックノヴァにて公開中です!
どうぞ宜しくお願い致します!




