第307話 ブラックワーウルフと戦う
「しゃあないな。うちらも手伝うで」
僕たちが馬車を降りると、ライカさんと屈強な男二人も続いて降りてきた。
「この二人も腕っぷしには自信がある言うとる」
「ああ。今は足を洗ってるが、昔は海賊船で暴れ回ってたんでな」
「俺は傭兵だ。戦場じゃ何人もの首を落としてきた」
どちらも強面で、その経歴も物騒そのものだ。元海賊に元傭兵――いかにもこの馬車に乗っているだけのことはある。
だけど今は頼もしい戦力だ。
「助かる。だが前衛は足りてる。後ろの支援が欲しい」
「任せとき。うちはこう見えて支援魔法が得意なんやで」
ガイの言葉に、ライカさんはにやりと笑った。
「だったら早速頼む。もう来るぞ!」
低く唸る声と共に、ブラックワーウルフの気配が一斉に膨れ上がる。
「せやな――支援魔法・肉体強化! ついでに精神強化や!」
淡い光が僕たちを包み込んだ。
次の瞬間、全身に力が漲る。
筋肉が軽くなり、思考が澄み渡る。
「すごい……体が軽い!」
「これならいくらでも戦えそうね」
足の踏み込みが明らかに違う。呼吸も乱れない。
「うむ――ならば先陣は私が切ろう」
真っ先に飛び出したのはウィン姉だった。
その動きは、まるで風そのもの。
「魔法風剣・疾風の刃!」
振るわれた剣から放たれた風の刃が、三匹のブラックワーウルフを同時に切り裂く。
――速い。
だけど、仲間が斬り裂かれると、周囲のブラックワーウルフが次の瞬間には霧のように散り、消えた。
「消えた……!」
「これが闇に溶け込む能力か……!」
視界から完全に消える。
いや――消えたように見えるだけだ。
「チッ、位置が読めねぇ!」
ガイが舌打ちする。
その瞬間、横から気配。
――来る!
だが、それより早く。
「姿を消しても、気配までは消しきれてないわね」
静かに告げる声。
「武芸・雷蛇――」
ライトニングさんの剣が、しなやかにうねる。
次の瞬間、剣が分裂し、雷を纏った刃が蛇のように空間を走り抜けた。
見えないはずの敵が、次々と弾き飛ばされる。
バチバチと雷が弾け、闇の中から黒い影が叩き出される。
それはまるで、見えない獲物を正確に狩る雷の蛇だった。
「すごい……これがSランク……!」
「蛇腹剣をあそこまで扱うとか、化け物かよ……」
ガイが思わず漏らす。
その間にも、残ったブラックワーウルフが再び闇に溶け込もうとする。
「ママに負けてられないね。ネロ、あの手で行こう!」
エクレアの声に、僕は頷いた。
「――うん!」
見えないなら、見えなくても当たる形にすればいい。
「水魔法・放水!」
杖から大量の水を噴き出し、地面一帯を一気に濡らす。
「おい! 何してる! 水遊びしてる場合じゃねぇぞ!」
「遊びじゃないわよ!」
元海賊に言い返し即座にエクレアが動いた。
「武芸・雷撃槌!」
振り下ろされた鉄槌に雷が宿る。
次の瞬間――
電撃が、水を伝って一気に広がった。
『――――ッ!?』
空間のあちこちで、見えない何かが痙攣する。
そして次々と、闇の中からブラックワーウルフが転がり出てきた。
痺れて動けなくなっている。
「やった!」
「スピィ!」
スイムも嬉しそうに跳ねる。
これなら、姿が見えなくても関係ない。
範囲に入った敵はまとめて制圧できる。
だが――
ドンッ!
背後で鈍い衝撃音。
振り返ると、ガイが大盾で二匹のブラックワーウルフの突撃を受け止めていた。
「飛びかかってくる奴もいるってことだ! 油断すんな!」
牙が盾に食い込み、火花が散る。
「守護者の反撃!」
ガイが力任せに盾を押し出すと、二匹のブラックワーウルフがまとめて吹き飛んだ。
「ありがとう、ガイ!」
「フン。後ろは任せろ。前だけ見てろ」
その言葉が、背中を支えてくれる。
安心して前に集中できる。
「氷魔法・絶氷の墓標――」
低く、冷たい声。
次の瞬間、空気が凍りついた。
アイスを中心に、地面ごと凍結が広がる。
闇に紛れていたブラックワーウルフが、逃げる間もなく氷に閉じ込められた。
「ザックス、さっさと砕け」
「なんで俺が命令されてんだよ……先輩なのに」
文句を言いながらも、ザックスは迷いなく剣を振るう。
氷ごとブラックワーウルフを砕き、確実に仕留めていく。
さらに――
「まだおるで!」
ライカさんの声と共に、支援魔法が再度重なる。
体がさらに軽くなる。
元海賊と傭兵の二人も、無駄のない動きで確実に敵を仕留めていた。
前衛、支援、連携。
すべてが噛み合っている。
そして――
気が付けば。
黒い影は、もうほとんど残っていなかった。
「……終わった、のか?」
周囲を見渡す。
唸り声はもう聞こえない。
動く影もない。
ただ、倒れ伏したブラックワーウルフだけが残されていた。
「みたいだな」
ガイが息を吐く。
僕もようやく、握りしめていた杖の力を抜いた――




