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シンデレラになってみました 9話



「それで、家計簿を付ける役目を仰せつかって、そんなに喜んでいるの?」

 百合の言葉には剣がある。

 「馬鹿にしてるの?」

 「馬鹿にはしてないわ。呆れてはいるけど」

 「そうだよ。何もしなくていいんだから、何もするなよ」

 「どうして?」

 花梨は診察を終え、包帯を替えていた。包帯を替えているのが百合なのだ。向日葵は見学している。

 「だって、恩返しできるのよ。紫藤家の役に立たないと、私金目当ての最低の女になっちゃうじゃない」

 「十三翁の命を救った。花梨はそれだけで紫藤家から無限に金を貰う資格がある。それに花梨が金目当てなんじゃない、悠人が金で天使を買った下種野郎だ」

 包帯を巻き終えた花梨の腹部を見ながら、向日葵がきっぱり言った。

 「下種野郎、どこの言葉なのそれ」

 百合は冷ややかな視線を向日葵に送ってから、

 「借りがあるとしたら、返しましたわ。何もすることないわ。それに、」

 百合は花梨のシャツを下ろし、ブラウスを合わせた。

 「悠人さんの給料で生活が賄えますの?」

 花梨はボタンを留めていた手を止めた。

 「すごい、なんで分かるの?」

 「悠人さんが高給取りであっても、お屋敷に執事と使用人二人、これだけでお給料が無くなってしまうのではなくって?」

 「へえ、そんなものか」

 向日葵のほうが先に感心する。

 「すごいわ、百合って。お嬢様なのに、経済にも通じているのね」

 「経済って」

 百合は真剣に感心する二人が可愛い。

 「お屋敷の方たちは別会計なのね」

 「そう、すごいわ、百合。信託財産というのがあるそうなのね。別に悠人さんが受け継ぐ莫大な財産を管理してる」

 花梨は少し口を噤んだ。

 「どうした?」

 向日葵が目線を合わせるために屈みこんだ。

 「お父様もそうしてたらよかったと、このお話を聞いた時に思ったの。出来ないことは人に頼めばよかったと」

 首を傾げて笑って見せる。

 向日葵がそのまま抱きついた。

 「そうだな。そして、その顔は可愛すぎる」

 百合が後ろから叩く。向日葵が名残惜しそうに立ち上がる。

 「じゃあ、仕事は楽だな。悠人と花梨二人だけの生活なら、十分な給料だろう。今までみたいに、一生懸命切り詰める必要もない」

 「そうかも。それでも私嬉しかったの、ちゃんと話を聞いてもらえて。式まで二回しか会ってなかったし、年も離れているし、私は男の人ってほとんど知らないけど、すごく誠実な人だと思った」

 けっと、向日葵が悪態をつく。

 「けって悪態つく人ってほんとにいるのね」

 百合が変な関心をする。

 「でも、会ったのはたった二回だし、年も離れているし、花梨は男の方に免疫がほとんどないのは事実だから、悠人さんが誠実な方かどうかはまだ分からないわよ」

 百合が花梨のおでこを小突いた。

 「そう?」

 「誠実ないい方だといいけど、簡単に信じるのはまだ早いわ」

 「私は直観を信じることにする」

 「そうしろ、結婚しちゃったんだから」

 「向日葵のそういう所、好きだわ」

 百合が真剣に感心する。

 「そういう所?」

 「切り替えの早い所。昨日まで、だだ捏ねてたのに」

 「そうだったか」

 向日葵は両手を上げて、肩を竦める。

 「私も大好き、向日葵のそういう所」

 今度は花梨から抱きつく。

 「あら、ずるいわ」

 百合もいっしょになり、三人で団子のように固まる。

 「これはもう、ハグではなくスクラムね」

 百合は脱出すると、花梨のお腹に手を置いた。

 「傷は痛くない?」

 「大丈夫よ」

 「ほんとか?」

 「本当よ。抜糸まで毎日消毒に通うのよね?」

 「うん。一週間くらいね」

 花梨は顎に指を置いた。

 「学校の帰りにここによって、家によって帰ると何時ぐらいになるかしら?」

 「なんだ門限でも作られたのか?」

 「門限はないわ。ただし山崎さんて方が私のお世話をして下さる事になったのだけど、山崎さんが送り迎えもして下さるし、放課後はずっと一緒に行動するということになったの。あんな事件があったから、おじい様が神経質になってるって悠人さんが。だから、大体の時間を知りたいの。山崎さんに教えたいし、鈴木さんにも夕食の時間の目安を知らせないと」

 「そうね、学園を四時、そう花梨、部活のお手伝いは?」

 「奨学金の条件での助手はもうないわ。少し残念だけど」

 「じゃ、四時半には帰れるわね、移動と治療で一時間弱だからお家には五時半には着けると思うわ」

 「ボディガードなのか?」

 向日葵が話を変える。

 「女性なのだけど、向日葵ぐらい大きくて、さらにがっちりとした人なの。身体の使い方に隙がないからたぶんそうとうな人だと思うわ」

 「それはよかったわ。さすが、十三翁、抜かりがないわ。向日葵と相談して、警備の人を付けようと話していたのよ。これで、問題なくなったわ」

 百合が心底ほっとしたと、顔を和ました。

 花梨は学校と家の往復という毎日を送っていたが、放課後は茶道部、華道部、香道の指導、護身術の講義、と忙しくしていた。送り迎えは向日葵の家が車を用意していたが、二人ともそれでは足りないと考えていたのだ。

 「今日はその山崎には会えるのか?」

 向日葵としてはどんな人物か把握したい。

 「今日は悠人さんと来たし、この後おじい様の所へ挨拶に行くから、来てないわ」

 「そうか」残念そうにつぶやく。

 「でも、向日葵と百合はきっと気が合うわ。同じ人種ね」

 花梨は言葉に含みを持たせた。

 「まあ、美しい物に無条件で惹かれる人種なのね」

 「えっ」花梨の眉が寄る。

 「それはいい、ぜひ会いたい、明日学校で会えるのが楽しみだ」

 「・・・まあ、楽しみにしていて」

 花梨は嫌味が通じなかったので、肩を落とした。

 「では、これで帰るね」

 花梨は立ち上がった。

 「ああ、そうだ」

 向日葵が引き留める。

 「花梨、今年は学園祭普通に参加しようぜ」

 花梨の瞳が一瞬で輝きを放つ。

 「いいの!」

 「花梨はもう既婚者になったし、凄腕ボディガードまでいるわ。楽しまなきゃね」

 「やったー!」

 花梨は二人の手を取り、ピョンと跳ねた。

 「イェーイ」と暫く輪になって回ったが、花梨が身体を少し屈めて止まった。

 「花梨、大丈夫?」

 慌てて二人が手を差し出す。

 「うん、大丈夫。少し調子に乗っちゃった」

 「ゴメン、私たちも調子に乗ったわ」

 花梨は差し出された二人の手をもう一度握る。大丈夫だと力を込めて。

 「色々すごい楽しみだわ」

 満面に笑みを浮かべて、花梨は二人の顔を見た。



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