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シンデレラになってみました  作者: 椛こま


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10/52

シンデレラになってみました 10話



 「もう少し休まれたら良かったのに。新婚旅行、行かれたら良かったと思います」

 太刀川がバックミラー越しに話しかけてきた。

 「・・・学業が優先だ」

 「秘密の花園は、そんなうるさい事言わないのではないですか?」

 悠人は手元のタブレットから目を離して、運転席の秘書を睨んだ。

 三年前に藤グループのホテル部門の一部を任された時からの秘書だが、とにかく話好きなのだ。

 「それにしても、あんなに可愛い12歳も年下のしかもJKと結婚出来るなんて、やっぱりお家の力ってすごいですよね。だいたい社長はお金の力も借りてモテモテでしたから、ショック受けてるお嬢様方も沢山いるでしょうが、彼女を見たら何も言えませんね」

 そして、誰に対しても本心を隠さず話すという強い心の持ち主だ。

 「太刀川、本心を口にしすぎだ」

 太刀川が「あっ」と口を塞ぐ。

 「私にはいいが、普段から気を付けていないと、また困ったことになるぞ」

 悠人は冷たく言い放つ。つい本当の事を言ってしまう所を気に入っているのだが、仕事の面では困ることが多い。普段から気を張っていてもらいたいと、この事に関してはきつめに当たっている。

 「それで、お怪我の方はどうですか?良くなりました?すごい噂になっていますよ。すごかったらしいですね、十三様を庇いながら戦う花嫁。見たかったな」

 「もうそんな噂になっているのか?」

 「関係者ばかりでしたからね。SNSに投稿した愚か者もいたらしくて、すぐに処分されたらしいですよ。さすが十三様、仕事が早い」

 昨日、十三はそんな話を一言も口に出さなかった。花梨がいたのだから当たり前だが、一言あっても良かったのにと悠人は顔をしかめた。

 「その投稿した人間は今からでも誰か分かるか?」

 「えっ、それは無理ですよ。すべて削除されたらしいですよ。調べようがありません。僕が見たもの2、3件なら誰か分かりますよ。靴に納豆でもいれますか?」

 「靴に納豆?なんだそれは?ただ、名前を記憶しておきたかっただけだ」

 「おお、怖っ。社長は根暗な上に頭がいいから、ここぞと言う時に相当な復讐をするんでしょうね」

 「私は根暗ではない」

 「何言ってるんですか、社長を根暗と呼ばないで誰を根暗と呼ぶんですか。いつも思いつめた表情で仕事ばかりしていて、かっこいいと思ってやっていたんですか?違いますよね、地ですよね。知ってます。だから、根暗なんですよ」

 「黙れ」

 「はーい」

 反省の様子はない返事の仕方だったが、太刀川は黙って運転に集中した。

 静かになったので悠人はタブレットに目を落とした。

 タブレットにはウェディングドレスを着た花梨の写真が映し出されていた。昨日の食事会で十三から貰ったのだ。頭から見ていたのだが写真のほとんどが花梨を撮っている。カメラマンが男だったのだろう。

 だいたいがひどく緊張して固い顔をしているが、ダンスの後の写真は晴れやかな笑顔で写っている。

 「これはいい」

 「えっ、なんです、何か言いました?」

 「いや、何も言ってない」

 「何見てるんです。メールチェックしてるんですよね。何かニヤけてませんか、分かりづらいけど」

 「黙って運転しろ」

 「はーい」

 悠人は太刀川が運転に集中したのを見届けてから、写真を携帯に送った。胸の携帯が写真を受け取ったと震えた。

 動かなくなった携帯から温もりを感じる。

 携帯を取り出し、花梨の電話帳を編集し直す。

 計ったように、携帯が震えた。画面いっぱいに花梨の笑顔が映し出される。

 「もしもし?」

 「花梨です。お話大丈夫ですか?」

 「ああ」

 「今朝言い忘れてしまって、今日は学園祭の打ち合わせがあって、病院に着くのが一時間ぐらい遅くなりそうです」

 「分かった。学校が終わったらまた連絡をして下さい」

 「はい。ありがとうございます。では、夕方に」

 「ああ」

 電話が切れる。悠人は携帯を見つめた。

 携帯に仕事の媒体以外の価値を見出した事はなかった。だが、これからは違った物になりそうだ。

 「奥さん、声も可愛いですね。いいなあんな可愛い奥さんもらえて。あ、何だかニヤけてません?分かりづらいけど」

 「うるさいぞ」

 「で、今日は夕方デートなんですか?いいな、新婚ですね」

 太刀川の浮かれた声をシャットダウンして、悠人は窓の外を眺めた。

 何故かいつも見ているのに、車窓の風景が違って見える。

 「なんだか今日は景色がきれいだな・・・」




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