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煢然
新生活が近づくにつれ何とも言えない寂寞感が増していく。
引っ越しの準備は毎日ほんの少しずつ行なっていた。牛歩並の速度だったが、それでも着実と準備は進み、門出直前の現時点でほぼ身の回りの整理が終わっている。
あとは出発の4月1日になったらこの生家を後にするだけだ。やるべきことは多分もうなくなっており、緊張不安入り混じった心境でその日を待つ。
新生活を前にして、もうすることがなくなったからか、私は空っぽになっている。身辺整理が進むにつれ、故郷からどんどん自分の足跡が消えていくような、今まで自分だったそれが無くなっていくような、そんな虚ろな感情を味わっていた。
ぐらついた足場の上で、どう転びどう地を固めていくのか。不安でしょうがない。今の私は、これまでの強固な大地と、その新しき足場のちょうど境で一歩を踏みあぐねている。既知から未知へ、過去から未来へ。過去とはもうお別れするしかないのだ。今まで慣れ親しんだものとの別れ。当然訪れるはずのことだとわかってはいるものの、現実として切迫して初めて、どうしようもない寂しさを覚える。
心機一転とはすなわち、今という過去の私と決別することだ。今世界でひとりぼっちになった私を捨て去ることだ。今、過去を見つめている私はきっと、もういない。




