城砦都市の攻防 一
城砦都市イセンガルド。
西方辺境領の中心都市であり、たびたび戦争が起こるアセリア王国との前線基地としての役割を担う都市であり、戦争に必要な物資を取引する商人や、戦争時の参戦依頼を求めて傭兵や冒険者が集まる都市でもある。
城砦都市の由来となった都市を取り囲む城壁は二十メートルあり、今まで敵軍の梯子や矢を城壁上の回廊に届かせたことが無く、城壁周りには深い堀が掘られ、不落の都市として近隣諸国に知られている。
そんな城塞都市には今、皇帝率いる近衛騎士団一万と皇帝直下の軍隊である黒狼騎士団五万の軍勢が西方辺境伯軍からの報告を受け留まっていた。
城壁に造られた城塔では、皇帝クラウスと近衛騎士団長、黒狼騎士団長、それらを補佐する副団長に、皇帝の招集を受け自軍を率いて参戦した将軍達が軍議のために集まっていた。
全員が囲む長机の上には西方辺境領の地図が置かれ、地図上には黒狼や黒鷲、翼を生やした馬である天馬や冠を被った男女が描かれた物など様々なメダルが大中小と分かれ何枚も置かれている。
「現在我が軍は陛下率いる近衛兵団一万、黒狼兵団五万、各将軍方が率いて来られた軍勢二万を合わせて計八万の軍勢がここ城砦都市に集結しています」
そう言って金髪碧眼の美丈夫である近衛騎士団長フォギィアが地図で城砦都市を表す場所に、近衛兵団を表す盾の大メダルを一枚と黒狼騎士団を表す黒狼が描かれた大メダル五枚、各将軍を表す四種の中メダルを一枚ずつ置いていく、それを部屋にいる全員が頷き確認したのを見ると次にダシュカット平原に西方辺境伯軍を現す槍が描かれた大メダルを六枚、アセリア王国を表す天馬が描かれた大メダルを五枚置いた。
「昨日までの念話の報告では、ダシュカット平原にて西方辺境伯ライアン様率いる六万とアセリア王国軍五万が睨み合いをしているとのことでしたが―――」
フォギィアは説明を一旦中断すると、地図に乗っていた槍の大メダルを四枚ダシュカット平原と城砦都市の間に移動し、天馬の大メダルを二十枚ダシュカット平原の場所に追加する。
「――― 新しく入った報告によれば、ダシュカット平原にてアセリア王国軍の邪法儀式によって不死者の軍勢二十万が突如発生しアセリア王国軍を飲み込み二十五万へと膨らみ、それを見たライアン様は自軍の四万を退却させ、自分は殿部隊として二万と共に残ったとのことです」
「なっ!? ライアン様は御無事なのか!?」
「陛下!! 今すぐ救援に向かわれたほうが良いのでは!?」
現状を聞かされた何人かの将軍の口から驚きの声と救援を呼びかける声が上がるが、それをクラウスは椅子の手すりに肘をつくと、その上に顔をもたれかけながら一言で斬り捨てる。
「いらん」
「し、しかし陛下!?」
「ライアン様を失うのは我が国にとって大きな損失となります!! なにとぞ救援の許可を」
「御大がそう簡単に殺られるものかよ、それに今から救援に向かっても日が沈む。不死者相手に夜の闇の中で遭遇戦をするつもりか?」
クラウスの言葉に将軍達は黙り込む。何故なら夜の闇での不死者の力を知るからだ。不死者は本来日の光が当たるところでは発生しない、理由としては日の光に浄化作用があるからだといわれている。そのため日の光の下では不死者は本来の力を発揮出来ず、生ける死体やいける骸骨であれば、訓練を受けた兵士やランクが鉄以上の冒険者であれば簡単に倒すことが出来る。しかし夜の闇での不死者は魂持つ者を敏感に察知し、闇夜にまぎれて襲い掛かるのだ。
「ダシュカット平原と城砦都市は距離にして馬で一日といったところだ。夜通し走れば辿りつける我等は彼等を信じて待ち、彼等を追ってくるであろう不死者の軍勢を迎え撃つための対策を練らねばならん。わかったな?」
「「 はっ 」」
将軍達が敬礼するのを横目に黒髪を短く刈り込んだ黒狼騎士団長オルテガが口を開く。
「それで陛下、その策というのは既に出来ているのですか?」
「基本は普通の篭城戦と変わらん」
「――― 篭城されるのですか?」
クラウスの口から篭城という言葉が出たことにオルテガから疑問の声が上がった。クラウスといえば戦場では先陣を切って駆け抜ける印象があったためである。
「そうだ、不死者の軍勢など真正面から攻めてくるだけの木偶の軍勢でしかない。そんなもののために手塩にかけた騎士団を無駄に消費するつもりは無いんでな」
「なるほど。つまり今回の戦は血湧き肉躍らないということですか」
「まあ、そういうことだ」
このやりとりで部屋にいた全員が軍議が始まった当初からクラウスがつまらなそうにしていた理由を理解する。戦争をこよなく愛するクラウスではあるが、人を殺したり血が見たいなどという訳ではないのだ。磨き続けた武技で好敵手と渡り合い、見たことも無いような戦略を使う相手を打ち負かすのが面白いのであって、ただ闇雲に突っ込んで来るだけの魔物や不死者には食指が動かないのだ。
「確かに篭城戦であれば、無駄に兵を浪費することは無いでしょうが、不死者には矢などの刺突武器はほとんど効果がありません。どうやって撃退するおつもりですか?」
「城壁上に上級精霊術師を配置して近寄って来る不死者を片っ端から殲滅させる。その他に上級精霊術師で構成された遊撃隊を組織して攻勢に転じさせる。他の者達は登ってきた不死者の迎撃だ。昼夜の部隊に分け順番に休息を取らせる」
「しかし陛下。上級精霊魔術の使い手は全軍合わせて陛下を入れても十人しかおりません。帝国中から集めれば百にはなりましょうが間に合わないでしょう。四方の城壁に昼夜交代出来るように八人配置してしまっては二人しか残りません。二人だけでは遊撃隊として送り出すには心許無いかと」
そのオルテガの指摘に今迄面白く無さそうに歪んでいたクラウスの表情にいたずらに成功した少年のような笑みが浮かぶ。それを見て、横に立つフォギィアが諦めの溜息を吐いていた。
「それについても考えてある。丁度良いことに上級の使い手がお前のところの補給部隊にいてな、今呼びに行かせている」
「はっ? 私のところというと黒狼騎士団の補給部隊ということですか? 僭越ながら記憶にありませんが……」
「そうだろうな。お前が帝都を出発してから合流したはずだからな」
「まさか!?」
何かに思い当たったのかオルテガの顔が驚きの表情で固まる。
それを待っていたように部屋の扉が四回ノックされた。
「何用ですか?」
扉に控えていた侍従が応対すると扉の向こうから、緊張に震えながらも気丈に振舞う女性の言葉が返ってくる。
「黒狼騎士団第七補給部隊隊長テス・クリット・タノルト中尉であります。皇帝陛下の召集に応え、ご所望の二名を連れてまいりました」
「おう、来たか入れ」
「はっ」
侍従が開けた扉をくぐってきたのは、胸に見事な双丘を持つ茶髪の女性に金髪金眼の少年と銀髪紫眼の少女だった。部屋にいた全員の視線がまず茶髪の女性の双丘へと集まり、次に金髪金眼の少年、銀髪紫眼の少女へと移動し最後にまた茶髪の女性の双丘へと戻る。
視線が自分に集中しているのを感じたテスは、雲の上の存在達からの視線に目を開いたまま気絶しそうになるがなんとか立て直し口を開いた。
「お初にお目にかかります皇帝陛下。黒狼騎士団第七補給部隊隊長テス・クリット・タノルト中尉であります。皇帝陛下の招集に応え、ご所望の二名を連れてまいりました。さっ二人もご挨拶を」
緊張のあまり同じ言葉を繰り返していることに気付かないテスに、二人は内心苦笑しながらも前に出ると敬礼する。
「召集を受け、レオンハルト・アルバ・ミスラ参りました。」
「同じく、カラ・レティーシア・ミスラ参りました。」
「ああ、よく来た二人とも。今回お前達を呼んだのはあることを頼みたいからだ―――」
頼みと聞いて目線で二人が了承したのを確認すると、クラウスは言葉を続ける。
「お前達には俺と一緒に遊撃隊となって不死者の軍勢へ突撃してもらう。悪いが拒否権は無い」
拒否することを許さないという命令に対する二人の返答は簡潔だった。
「「 わかりました 」」
今回クラウスの口調が崩れているのは戦場のため地が出ているだけです。
軍勢同士の激突は次回以降に持ち越しとなります。期待していた方すいません。
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