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第1話 これからヨロシクな!

「当機は星宮国際空港への最終着陸体勢に入りました。

 どなた様もシートベルトを着用し、お手持ちの通信機器の電源をお切り下さい」


 機内放送に合わせて照明が調節されると、暗くなった機内からは、日の傾きかけた外の景色がよく見えた。

 眼下に広がる工場には明かりが灯り始めていた。


 その様子を見ていた、一際華美な装飾が施された制服を身に纏った女性が、金色の髪をかき上げた。


「これが、私たちが活躍する国の景色なのね」

「あたしたちの力が試される場でもあるわけね」


 知性を漂わせた短い黒髪の女の子が、メガネを押し上げて呟いた。


 ビジネスクラスの座席には、5人の女性と研究者風の男が座っていた。

 中でも活発な赤い髪の女子が握りしめた右の拳を左の掌に叩きつけた。


「俺たちの力でこの国を変えるんだな」

「勇むのは良いが、お前たちもこの国に合わせて変わって貰わなければな」


 研究者風の男は、赤い髪の女子に言い聞かせた。


「1年間この国のことを学んだら、バディと組んで活躍して貰うぞ」


 5人は黙って頷いた。


 着陸が近付き、機体の振動が大きくなってきた頃、窓から見える街は近付き鮮明になってきた。

 川の両岸の桜並木は満開で、夕陽を浴びて赤みを帯びていた。


「見て!桜が満開だよ」

「本当だ!これが本場の桜なんだ。凄く素敵」


 長くて青い髪の大人しい女性が声をかけると、緑色の女子は目を輝かせて窓の外を見ていた。

 ちょうどその頃、客室乗務員が彼らの席を訪れた。


「恐れ入ります。通信機器の電源をお切り下さい」

「アレ?スマートフォンの電源は切ったはずだよ」


 研究者風の男がそう返すと、乗務員は申し訳無さそうに5人の女性の方を見た。


「あと、お手回り品はケースに収納して頂きたく……」

「俺たちのことかよ!?」


 

 その1年後。

 星宮中央駅の改札の外に広がる地下空間には、潮風の香りはなかった。


 開店の準備に追われる食品売場の店員たち。

 美味しそうな惣菜の匂いに、気持ちを奪われそうになる。


 高橋架流(かける)が、昨日まで勤務していた潮凪線。

 海辺を走る風光明媚な路線で、愛着はあった。


 だが、今日から本社で新たな業務に従事する。

 アストラ電鉄の社運をかけた新規プロジェクトということだった。


 架流は意気揚々と本社まで歩き、通用口のゲートをくぐった。


 その数十分後、そんな高揚感など、小さな箱から飛び出した何かにあっさり蹴り飛ばされるとも知らずに。



 自席に向かう架流は、知っている顔に声をかけられた。


 鷹宮白翔(はくと)


 架流が従事するプロジェクトの前任者で、外資系企業からこの仕事を引っ張ってきた張本人。

 情報システム部に流れかけていたこの仕事を、事業改革課に引き戻したらしい。


 相変わらず、笑顔だけは無駄に整っている。


「やぁ、社運を握る優秀な社員クン」

「それはお前のことじゃないのか?」

「僕は経理部に異動になってしまったからね。関われないのが残念だよ。

 本当は、僕が成功させたかったんだけどね」


 白翔の言葉は、やけに軽かった。


「このプロジェクトをどうやって成功に導くつもりだったんだ?」

「今回の仕事で使う最新の高性能ツールは優秀だぞ。

 状況を読み取って、提案して、必要なら現場で勝手に動いてくれる。

 人間が何もしなくても、成功間違いなしらしいよ」


 人間が何もしなくても。

 白翔の口からこぼれたその一言だけが、妙に耳に残った。


 白翔は、自分が引っ張ったツールに任せて、手を出すなとでも言いたいのか。

 喉元まで怒りが込み上げたが、架流は飲み込んだ。


 白翔のことだ。いつもの安い挑発に決まっている。

 相手にする必要はない。架流は軽く挨拶を済ませて、事業改革課へ向かった。



 着任の挨拶を済ませると、課長の安藤怜人に呼ばれた。


 安藤は、架流が新入社員研修で世話になった相手だ。

 電気や通信に詳しい、現場上がりの技術屋だった。


 その安藤とミーティングルームに移動して、長机を挟んで向かい合った。

 机の上に置かれた段ボール箱だけが、妙な存在感を放っていた。


「潮凪線は、いいところだっただろ?」

「いいところでしたね。でも、何で急に本社に呼ばれたんですか?」


「お前にしかできない仕事を頼みたい。

 今回の仕事は前例がないからな」

「前例がないのに、なぜそう思うんですか?」


「お前にできなかったら誰にもできない。理由になってないか?」


 理由になっているとは思えなかった。

 だが、安藤が自分を評価してくれている。それだけは嬉しかった。


「でも、誰でも使える最新の高性能ツールを使うと聞いていますよ」

「誰でも使えるという部分は本当だ。

 ただ、新しいだけに、その使い方をまだ誰も完璧には知らない」


 安藤は、視線を架流の目から机上の箱に落とした。

 得体の知れないものを見るような目だった。


「安藤さんにも……ですか?」

「新しいだけなら、何とかできる。

 ただ、これはそういう次元の代物じゃない」


 架流は段ボール箱を手に取ったが、思ったより軽い。

 中身はせいぜい小型の電子機器だろう。


 とはいえ、安藤がここまで警戒している。

 それを自分に扱えるのだろうか。


「これを使いこなして、社内の問題を探して改善しろとのことだ。

 これが業務のカギになる。開けてみろ」


 安藤に言われた架流は段ボール箱を開けた。

 中には、白い厚紙で作られた高級品用の化粧箱が入っていた。


 側面に貼られたシールを剥がした瞬間、箱の内側で小さな音がした。

 甲高い始動音のような音だった。


 何の音だ?

 そう思った瞬間に化粧箱の蓋が持ち上がり、中から黒と赤の何かが飛び出してきた。


 鉄道会社の制服。帽子。赤い髪。

 少女のような小さな人形が、勢いよく目元でピースを作った。


「情理演算式自律機動ユニットの記念すべき初号機だぜ!

 これからヨロシクな!」

お読みいただきありがとうございます。


次話から、箱から飛び出した初号機が本格始動します。


「お前ら揃って各駅停車かよ?」

常識や建前を容赦なく蹴り飛ばす初号機。


「まずは超特急でやってみようぜ!」

自由奔放な初号機に振り回される架流たち。


「あなたは嘘が下手なようだ」

そして、その背後にあるアルカディアの思惑とは――。


作品の世界観や人物像はXでも公開中です。

https://x.com/starlink_novel/status/2074864181912998209?s=20


よろしければ、ご覧ください。

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