65 中央神殿は伏魔殿?
そんな訳で、ハポネスの管理はネーヴェリク達に任せて、俺は中央神殿へと旅立ったのだった。
四方にそびえたつ白亜の塔。
全体的に白い石で作られている砂漠の宗教都市……それが「中央神殿」だ。
中央神殿、という名前だが、実際はここの神殿だけで一つの街を形成しているようなものだ。
もしかしたら、ハポネスよりも人口密度が高いかもしれない。
しかも、スゴピカ様……だっけ? 光の精霊様が創り、天使の降臨する地として聖地扱いされており、他の街からの巡礼者も絶えない。
その人混みは本物だ。
ぞろぞろと人間や亜人達が神殿までの巡礼路にひしめいている。
うーん、これ、いいなぁ……
ウチの街にも聖地、欲しいなぁ……
今度、戻ったらベータに相談してみよう。
なお、ここに来る途中までに、モンスターの中でも「魔獣」と呼ばれる種族をボーギルとカシコちゃんにゲットして貰っている。
いやぁ、モンスター捕獲・運搬用のアイテムを大量に持って来てよかったぜ。
コカトリスのつがいとその卵8個、サラマンダーの雄・雌併せて12匹をゲットしているので、俺としては、すぐにでもハポネスに戻りたい所である。
ウチのダンジョンに良い土産ができた。
「よし、着いたな。ここが中央神殿だろ?」
俺は、到着したその白い建物をぺちぺちと叩く。
「ああ、そうだぜ」
「よし、タッチしたな。じゃ、ハポネスに帰ろうか?」
「待てコラ」
ボーギルのヤツがガッと俺の肩を掴んで引き留める。
「何だよ? 中央神殿にタッチして帰れば良いんだろ?」
「それは言葉のアヤよ! 本気にしないで!!」
「ひどい!! 人間ズルいっ!! 騙しやがったな!!」
「お願い、その程度の事で騙されないでっ!?」
どうやら、この召集令状を送り付けてきたお偉いさんとコンタクトを取らないと帰らせてもらえないらしい。
やれやれである。
まぁ、俺の場合は正式な勇者として認められなければ良い訳だから、テキトーに本音ぶちまければ良いだろ。
ボーギルとカシコちゃんには悪いが『帰れ、帰れ! このくそたわけが!!』を目指すわけである。
楽勝だぜ。
ボーギルのヤツが例の召集令状を受付に見せると、しばらくして謁見室のようなところに通された。
そこでは、左右に一人ずつ……結構ガタイの良いマッチョのおっさん神官と、贅肉と豪奢なアクセサリーに塗れた典型的な生臭ボウズのようなハゲのおっさん神官が立っていた。
そして、その中央部分にはわずかに向こう側が透ける位の薄い紗のカーテンがかけられており、玉座のような立派な椅子に、誰か……小柄な、というよりも、子供らしき人型の生き物の背中に翼を生やしたみたいな姿が、ぼんやりと透けて見えた。
どうやら、あれが降臨された天使様らしいけど……あれは、椅子に座って寝てるのか?
うつむいたまま、ほとんど動かない。
一瞬、演出用の人形か? とも思ったが、生きてはいるらしく、時折、咳き込む時だけ身体がわずかに揺れ動いた。
「おぬしが、ハポネスの聖者と呼ばれておる回復術師のカイトシェイドか?」
生臭ボウズがジャラン! と宝石がたわわに実った金色の杖で床をトントン叩く。
「いいえ、聖者などという大層な者ではございません。ただの回復術師です」
「ほほぅ、謙遜せんでも良い。我が【鑑定眼】でも見通せぬレベルの術師は珍しい」
マッチョ神官が「お前見どころがあるな」という雰囲気を醸し出しているが、マジで知らんぞ、そんな二つ名!!
「いいえ、神官様、それは恐らく誰かの勘違いです。私には大きな制約があるため、そのよう思い違いをされる方が多いだけのこと」
「制約?」
「はい、私は現在、『ハポネス』という特殊な地でしか魔法は使えません。その分、そこでの効果が大きくなるため、そのように勘違いされる方がいらっしゃるのだと愚考いたします。そのため、栄光ある『光の勇者』の肩書を背負える器ではございません」
「なんと!?」「何っ!?」