【外伝~カイトシェイドくんの異世界ダンジョン攻略記~】⑦
<シュガーくんside>
「ダンジョン根こそぎ……これが大魔王……いや、魔神のダンジョン攻略ですか……あはは……まぁ、こういう事もありますよね~」
「なーにが『こういう事もありますよね~』よ!! シュガーくん!! これどういうことよ!? 全然、相手が苦戦してないじゃない!」
コア・ルームだろうか?
事務処理仕事らしき書類がそこかしこの机の上に積み上げられた一室の部屋の壁には、複数の画像が映し出されていた。
シュガーくん、と呼ばれた黒髪の青年は、そのニコニコ笑顔を少し引き攣らせて己のダンジョンを眺めている。
ぽごん、と丸めたパピルス用紙で青年の頭を叩いたのは、ラズベリー色の長い髪をツインテールに結んだ美女だ。
少しキツイ印象をあたえる吊り上がり気味の瞳に険の籠った声がさらにその印象を強くしていた。
「あー……ソルティー先輩……」
「もう! ダメよ、駄目、だめ!! 主人公が苦戦しない、成長しない、味方が死なない! こんなの全然本格派じゃないわ!!」
「いや、でも、先輩……こちらとしては、一旦ダンジョンに入り込んで貰ってますので、もう、ある意味目的は達成してるんですよ?」
どうやらシュガーの作成したダンジョンは、侵入時点で何かしらの加算があるタイプのものであるらしい。
「それに、侵入者が『このダンジョン内でどういう行動を取るか』でボーナスが貰える訳ですけど、案外悪くない成績ですし?」
彼の手元の平たい板には、輝く文字で『行動内容ボーナス一覧』なるものが書かれている。
ボーナス一覧には様々な行動パターンにより加点がされるらしく、例えば、「主人公がモンスターに敗北する:黒10点」「主人公がモンスターを倒す:白10点」「主人公が味方に助けられる:赤5点」「ヒロインが攫われる:黒5点、白5点、赤-5点」など、いくつかの色と数値が描かれ、画面に映し出されたカイトシェイド達が、対応する行動を取る度にグラフのようなものが伸びたり縮んだりしている。
ちょうど、ダンジョンの罠を壁ごと毟り取った瞬間、「罠を奇抜な方法で突破する:白30点 黄20点」の文字に点灯するような光が灯った。
「今回のノルマは60点でしょ? ほら、あとは適当にあしらって、最下層まで行って貰って『楽しかったー』でオシマイでいいじゃないですか?」
「甘いっ!! 甘すぎるわ、シュガーくんッ!!! 2000年寝かせたハニー蜜のように甘いわっ!」
ソルティー先輩と呼ばれた美女が、靴の裏が真っ赤に染まったハイヒールで床をダン、ダン、と踏み鳴らす。
柔らかな緋色のスカートがひらりひらりと翻った。
「試練も波乱もエロもグロも無いのにどーーーーやってもりあげるのよっ!?」
「いや、エロは入れましたって!! ほら!!」
そう言いながら、黒髪の青年は画面の端に映る触手やら男根やらの無数に生えたモンスターを指差す。
だが、ソルティーの鋭い眼差しに、シュガーのニコニコ笑顔の額に汗が浮かぶ。
そこから読み取れたのは「ただし、ことごとくスルーされました」という身も蓋も無い事実。
「馬鹿ね! だったら、もっと能動的に襲わせなさいよっ!!!」
「いや、そんな事を言われましても……」
「だーから、アンタは甘いのよっ!! ちょっと、貸しなさいっ!!」
「あっ!」
ソルティーは、シュガーの手から光る板のようなものをふんだくると、ポチポチとそれを操作し始めた。
「ふふん……これでどう? このアタシがちょっと直接揉んでやろうじゃないの!」
「ああっ!? ボスの設定を……って、人の端末のパスワードをロックしないでくださいよ!?」
「シュガーくんって基本3つの事しか処理できないから、アンタの世界に入るのは面倒なのよね」
そう言いながら、今度は自分の端末だろうか。
同じような光る板を楽しそうに弄り始めるソルティー。
「そうね……アタシの【人間関係を逆転させる】と【|他人の能力の使用回数を指定】で、少し波乱を起こしてあげるわ!」
「ちょっと先輩ーーーっ!?」
その抗議の声に、ニンマリ、と小悪魔のような蠱惑的な笑みを浮かべた美女は、シュガーの唇から小指1本挟んだ距離までその整った顔を近づける。
「最後の一つはお楽しみ、よ!」
と、宣言すると、とろり、と消えるように姿を消した。
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