【外伝~カイトシェイドくんの異世界ダンジョン攻略記~】⑥
「あれ……は……扉、でしょうか?」
ルシーファのヤツが指さす方向に、分厚い氷で出来たような透明感のある青い扉が現れた。
何故疑問形だったのかというと、その扉、アイスゴーレムのような上半身がニョッキリと生えているからだろう。
肌の色もその透明感も扉と同じような氷色だ。
ふむ? ここに来て、ついに謎解き扉のような罠系のギミックのお出ましか?
ここのダンジョンって、モンスターが色々居る割に、ここまで罠らしき罠が無かったのだ。
だが、この扉は違う。器物でありながら、ゴーレムの上半身部分はゆっくりと呼吸を繰り返し、まるで眠っているようだ。明かに魔力が籠っているのが分かる。
「【鑑定眼】によると、アレは旦那のダンジョンにもある『謎解き扉』の亜種みたいなもののようだぞ。『謎』というよりも、侵入者と『ゲーム』をして、その勝者のみが通過可能な仕掛けっぽいな」
「へぇ?」
ボーギルの言葉を裏付けるように、俺達3人が一定距離まで近づくと、その扉についた上半身くんがゆっくりと瞳を開ける。
そして、その唇からは、滑らかに言葉が流れ出て来た。
「お待ちしておりました、侵入者の皆様」
声の感じはあのシュガーさんに似ている。
「わたくしにゲームで勝利した場合は、ここの通過を認めます。しかし、敗者はここのコレクションに加わっていただきます」
上半身くんの声に従うように、それまで透明だった壁の一部に人影が現れた。
見れば、人間達が扉近くの壁の中で氷漬けにされている。
ある者は絶望の表情を浮かべ、ある者は呆気にとられた顔のまま、ある者は恐怖と苦悶にまみれ……一瞬で壁に吸収でもされたのか、まるで時間を止められたオブジェだ。
ルシーファのヤツが少し不快そうに眉をひそめて俺の方に身を寄せる。
「……で、どういうゲームなんだ?」
「簡単に言えば『裏切り者を探し当てるゲーム』です」
「ほう?」
「まずここに侵入者様と同じ枚数のカードがあります。これの内1枚には『裏切り者』と文字が浮かび上がります」
上半身君が差し出したのは、片面には全く同一のイラストが描かれ、裏面には何も書かれていないカードと「裏切り者」と文字の描かれたカードだ。
「次いで、こちらの『鍵』カード、これに何が書かれているか『裏切り者』は確認することができますが、他の侵入者様は確認することができません」
『鍵』カードは大量にあり、先程のカードと同様、片面には同一のイラスト、その裏面には『エルフ』『マンドラニンジン』『光魔法』『床』『触手プレイ』『へそくり』など、ランダムに色々な事象が文字で書かれている。
「ちょっと待ってくれ、これ、俺達が全く知らない……『この世界の魔物』みたいなものが混ざっていたら詰むんだが!?」
え? ボーギルさん『モルスコファァ』って何……?
「ご安心ください。このカードには、探索者様の脳内語彙から自動的に印字されますので、知らない概念が混ざる事はありません」
なるほど。
……しかし、ちらっと見ただけだが、ホントに統一性が無いなー……
「マスターであるわたくしは『鍵』カードを確認できます。探索者様はマスターであるわたくしが『はい』もしくは『いいえ』、『わからない』で答えられる質問を順番に問いかけることが可能です」
「ん~……『それは食べ物ですか?』とか『それは生きていますか?』みたいな問いかけということですね?」
ルシーファの質問に対し、ニヤリと顔を破顔させ「さようでございます」と頷く上半身くん。
「そうやって問いかけをしつつ、選んだ『鍵』に書かれている単語を皆さんで当てなければなりません。『裏切り者』は、他の参加者にバレないように『鍵』に書かれている単語に質問を誘導していってください。質問時間は1分間だけです。その間に何度でも質問し、何度でも鍵の答えの予想回答をしていただいて構いません。『鍵』の答えにたどり着けない場合、全員が敗北です」
何だ? それなら絶対に『鍵』の答えにたどり着けるんじゃねーのか?
だって『裏切り者』は正解を知っているんだろ?
「無事『鍵』の答えにたどり着けた場合は、次に誰が『裏切り者』なのか全員で議論していただきます。そのうえで『裏切り者』を見つけ出せた場合、『裏切り者』以外は前に進むことができます。見つけられなかった場合は『裏切り者』のみが前に進むことが可能です」
なるほど、そういうルールな訳だ。
となると、例えば『鍵』の答えが『マンドラニンジン』だった場合、裏切り者は安直に「それはマンドラニンジンですか?」とは質問できない訳か。
「ちょ、ちょっと待って下さい!? ということは、このゲーム……勝利しても必ずパーティメンバーは分断されるということなんですね!?」
ルシーファの問いかけに対し、笑みを張り付けたまま微動だにしない上半身くん。
ああ、だからココに、こんなに捕らえられた人間達……もしかしたら亜人も混ざってるかもしれない……が、氷漬けにされている訳だ。
「さぁ、いかがなさいますか?」
「分断は避けた方が良いな」
「そうですよね」
顔を見あわせて頷くボーギルとルシーファ。
「いや、面白い。……実に面白いぞ!」
「カイトシェイド!?」「旦那!? まさか、アンタ、ゲームに乗るつもりなのか!?」
驚愕に眉根を寄せるボーギルとメガネを正して焦るルシーファを後目に俺は上半身君に声をかけた。
「なぁ、お前、名前は?」
「? わたくしに名などございません」
「えっ? じゃー、シュガーさんに滅茶苦茶気に入られていたりとか……?」
「?? だかがダンジョンのギミックの一つに造物主様ご自身の思い入れが入る訳がございません」
「よし!! 【異世界創造】!!」
ごめきゃばきっ!!!!
「「「えええええーーーーーーっっっ!?」」
途中から俺の異空間に吸い込まれた上半身くんの声が小さく消えた。
「な、なにしてるんですかぁぁぁぁっ!!!」
「だ、旦那!? 謎解き扉……いや、罠扉? それごと全部えぐり取るか、普通!?」
そう。この上半身くんと、その扉ごと、ばっくり収納させていただきましたよ?
いや、だって! コイツ、面白いもん!!!
ウチのダンジョンに居ないもん!! こーゆータイプの罠!!!
結構知的だし、ゲーム自体には殺傷能力も無さそうだから序盤に組み込んでも良いし、ゲームそのものを凶悪なルールに改変したら後半を任せても良い!!!
そりゃ、欲しいでしょ?? 欲しいよな?? 欲しいはずだ!!
しかも、特にシュガーさんの思い入れが無いっていうなら、なおさらですよ!!!
つーか、俺を招き入れるんだから、その位の覚悟はできてるでしょ!? あっちだってさぁ!!!
「……勇者よりひどいですね……カイトシェイド……」
大きな穴が開き、何の妨げのない進行方向から吹く風でルシーファのプラチナブロンドの髪が揺れている。
その瞳が、心なしか死んだ魚の目のように見えるのは、多分、俺の気のせいである!
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