【外伝~カイトシェイドくんの異世界ダンジョン攻略記~】③
「おーい、ボーギル、カシコ、居るか~?」
ちなみに、リヴァイアさんは「私はパス!」と拒否られた上に「じゃ、後はヨロシク」と言わんばかりの速度で即行で帰って行ってしまった。……あの魔王……後でキッチリ、オハナシをさせて貰わねば。
そういう事で、準備が整い次第、シュガーさんのダンジョン攻略に手を付ける事で話はまとまった。
となると、冒険者としての経験値的にも、第一候補はボーギルとカシコちゃんでしょ?
カシコちゃんは女の子だから条件にも合致しているし。
「おう、旦那。どうしたんだ?」
「あれ? カシコは?」
【迷宮内瞬間移動】を発動させて冒険者ギルドの一室に移動すると、そこに居たのは書類整理をしているボーギルとその手伝いのちび天使・ルシーファだった。
「残念ですね、カイトシェイド。ボーギルなら居ますけど、カシコは今、寝室で休んでいますよ」
ぴよぴよとヒヨコのような羽を器用に動かして、まだ手の届かない棚の上まで飛んで行っては資料を片付けたり、引っ張り出したりを繰り返している。
「そっか。じゃ確認しておいて欲しいんだけど、ボーギルとカシコと俺で一緒に異世界のダンジョンを攻略しようぜ?」
「ダメです! ……ボーギルは構いませんけど、カシコは駄目です!!」
俺の発言に間髪入れず否定をしてくるちび天使。
「なんでだよ」
「何でって……当たり前じゃないですか!? 貴方だって知ってるでしょう!? ボーギルとカシコの間に赤ちゃんが出来た事くらい!」
それは当然である。
なんと言ったって、このカイトシェイドさんが『絶望のウェディング・プランナー』の二つ名を貰いながらも、無事、二人を幸せに導いたのだ!!
ボーギルの『妊娠させる力』は、精霊のお墨付きもあり『天使、アンデッド、同性』にも及ぶ強力な物となっている。
だが、残念ながらその能力は『子供ができる』だけであって、『増殖する個体数そのものが増える』効果は無いらしい。
ちぇっ……是非ともカシコちゃんにはワームさんくらいヴワーーーーっと大量に出産してほしかったなー。
ほら、やっぱり高レベル個体同士の増殖は、ダンジョン・ポイントの増加と言う意味でも重要ですからね?
その幼生体は、後に強力な魔力を持ち、高いダンジョン・ポイントを生み出す生き物へと成長する可能性が極めて高いからだ。
「それは知ってるさ」
「だったら思い至ってください。今は妊娠初期で悪阻が一番酷い時期なんですよ……」
ルシーファが、くいっと目元のメガネを整えてジト目で俺を見つめる。
「あー……そっか、悪阻って回復魔法が効かないんだよなぁ……」
そうなのだ。
妊娠初期は母体が子宮内に宿った我が子をまだ『異物』と判断しており、免疫細胞が攻撃しているような状態なのだ。
ここで治療系の魔法を使い、母親側の免疫力を強化しすぎてしまうと、完全に異物と認識された子供が排除されてしまう。
イコール、不快な身体症状は治まるものの、流産に至ってしまう、という訳なのだ。
「ああ。だから、最近は、ルシのヤツに世界樹の花の蕾を摘んで来て貰って、それをお茶にして飲んでるぜ」
ボーギルが手伝いをしているルシーファの頭をなでなでと撫でながら答える。
世界樹は葉も花も実も幹も根も……何処を煮だしてもOKなお手軽万能薬だもんな。
だけど、不快な身体症状緩和目的で『蕾』だけを集めて煮詰めたものを飲むと……結構、眠くなるんだよね。
「そっか。それは無理はさせられねーな」
貴重な高レベル個体同士から生まれる幼生体ッ!!
絶対に無事に増えて貰わねば!!
「でも旦那、今度は突然どうしたんだよ?」
「いや、実は……」
俺はボーギル達に、シュガーさんの件を説明した。
「なるほど……3人限定、しかも一人は女の子か……それなら旦那が俺とカシコを指名するのは、まぁ、納得の話だな」
「だろ?」
そうなのだ。
実は、冒険者の女性はあまり数が多くない。
しかも『凄腕の女性冒険者』となると、さらに少ない。
まだハポネスは色々と接待性が高いダンジョン運営を心掛けているから、男女比が6:4か5.5:4.5だが、普通、冒険者全体の7,8割は男性なのだ。
「あの……だったら、カシコの代わりに、わたしがお手伝いしましょうか?」
話を聞いていたルシーファのヤツが立候補で手を挙げる。
まぁ、女の子枠としては問題は無いのだが、コイツの場合『魔法・スキル含めて使えるのが3種類』とか言うルールがどう作用してくるのか分からないのがネックだ。
いや、普通ならルシーファのヤツは決して弱くはない。
ぶっちゃけ魔力量だけなら、このチビの状態でも【魔神】となった俺とほぼ同等。
精密操作力、操作速度、同時展開力……どれを取っても俺より上だ。
その反面、コイツ、魔法を封じられると一気に弱体化するからなー……
文字通り、赤子の手をひねるよりも簡単に無力化されてしまうのだ。
うーん、どうしたもんか。
悩んだ時間はさほど長くは無かったのだが、俺が一瞬目を反らして口ごもった瞬間、何かを悟ったのだろう。
「……いえ、あの……ゴメンナサイ……なんでもないです……」
しょぼーーーーーん。
俯いてきゅむっと唇を噛みしめる様子に、妙な罪悪感を掻き立てられる。
ったく、こーゆー時だけ空気を読むのが上手くて困るぜ。
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