189 エピローグ
「【オール・クリエイト】ダンジョン・コア新規作成ーっ!!」
俺が高らかに声をあげ、両手の間に魔力を流す。
ぽよん、と。
良く見慣れたいつものダンジョン・コアが手のひらの上に生まれた。
あの時、俺の『ダンジョン・クリエイト』を代償に捧げた事により、サタナス、スゴヤミ、そして、スゴヤミと表裏一体だったスゴピカを分離することに成功。
そりゃ、俺だって少しはダンジョン・クリエイトを失ったら、その後どうしようかな? と考えなくはなかったが、思い出した事があるのだ。
それは、以前、ラフィーエルさんが言っていた言葉。
『私……つい最近『ダンジョン・デザイナー』っていうスキルを覚えたんですけど……』
つまり、スキルは、また新たに覚えることができるのではないか? と。
仮定ではあったのだが、その目論見は間違っていなかったようだ。
この『オール・クリエイト』……まさに『ダンジョン・クリエイト』の上位互換みたいなスキルで、ダンジョン外であっても、術者の俺が弱体化する訳ではない。
もちろん、いままでどおり、ダンジョンを作成した場合、ダンジョン・ポイントを使って色々とダンジョンや住人をカスタムできる点は『ダンジョン・クリエイト』そのままだ。
『分身体』も作れるし……もしかしたら、ダンジョン以外の『異世界』も創れるんじゃないかなー? とは思っているのだが、まだそこまでは手が回っていない。
ハポネスのダンジョンが、じいちゃんの創った『旧・魔王城』みたいな完成されたダンジョンまで育ったら、そっちに手を付けてみるのも楽しいかもしれない。
「カイトシェイド様……また、ここからスタートできるんデスね……」
ネーヴェリクが、目を細めて幸せそうに窓の外を覗き込む。
ここは、ハポネスの俺の屋敷……の、寝室だ。
「でも、今回の方がきっと成長速度が速いぞ。……な?」
「でしょうね。……と、言うか……この寝室にあなたの配下を全員詰め込むことないと思うんですけど……」
寝室のベッドに腰かけた俺の膝の上でおとなしく丸くなっているチビ天使を、もにもにと撫でる。
「いや、でも、これだけ居れば、ダンジョンポイントが溜まるのが早いんだって」
「それは分かりますけど……」
冷静にチラリと後ろを振り返ると、さほど広くはない10畳程度の寝室に、俺の配下はじめ、ラフィーエルさん、リヴァイアさん、ミーカイルの同盟・配下だった魔王達……そして、その部下の皆さん、と。
かなりの人数が室内にひしめき合っている。
「なぁ、カイトシェイドの旦那さんよォ、これ、いつまでここに居れば良いんだよ?」
「うふふ~、立ってる場所もないねぇ~」
アルファのヤツがオメガを肩車させながら少し疲れた声を出している。
オメガの方は、肩車されてかなりご満悦の表情だ。
そうね、あと1時間程度で屋敷丸々ダンジョン・エリアにできるかな。そうしたら、もう少し余裕が出るから、ちょっと我慢してもらいたい。
「旦那様、椅子を増やしましょうか? あと、もう少し空調を涼しくした方が良いかと思います」
ベータが良く冷えた飲物をみんなに配りながら、進言してくる。
確かに、そのとおりなんだけど、これ以上は椅子を置く場所も無いんだよね。
椅子が足りないから、直接ベッドに座ってもらってるんだけど、そこだって、俺+ルシーファとネーヴェリクだけじゃなく、ボーギルとカシコちゃん、ラフィーエルさんの膝の上にはカザハナちゃんと言ったか? ジト目おかっぱ美少女がちょこん、と腰かけている。
「旦那のトコロは種族のるつぼだな」
「そうね……魔族、天使、人間、獣人、エルフ、亜神、それに……精霊まで居るんですもの」
そう言いながらカシコちゃんがつんつん、とつついたのは、空中にふわふわ浮かぶ半透明な白い玉と黒い玉だ。
ちなみにこれは、リヴァイアさんの鑑定によると、あの時、分かれた『精霊の核』みたいなものであるらしい。
あの時、世界にエラーを引き起こす程の魔力を放出してしまったため、しばらくの間はこの姿のままだそうだ。
ま、ある程度の時がたてば、また唐突にスゴピカやスゴヤミみたいになるのだろう。
ただし、最低でも数千年程度の時間は必要みたいだから、特に気にしてはいない。
なお、サタナスのヤツだが、アイツの魂は一旦混沌から分離させたものの、この世界に嫌気がさしたのか。
それとも、俺の近くに居るのは断固拒否したのか。
あの後、すぐに消え去ってしまった。
天の声さんによると、異世界に転生したらしいので、今後、俺とは顔を合わせることは無いだろう。
ある意味、お互い、それが平和なのだ。
「ちょっとぉぉぉぉ! リヴァイア様ァァァァッ!!!」
その時、俺のちょっとした感傷を吹っ飛ばす声が響き渡った。
「あなたはいっそのことバケツに座ってくださいっ!! バケツにっ!!」
「んもぉ、膝枕くらいいいじゃな~い」
ベッドの中央部では、ラフィーエルさんの部下のユキカゼちゃんが、リヴァイアさんのたっての希望で膝枕をしてあげているんだけど、リヴァイアさんの濡れた水たまりみたいな形状のせいで、豪快に粗相しているようにしか見えない。
あの子……結構、からかった反応が面白いらしくて、リヴァイアさんのお気に入りらしい。……気の毒に。
「んんん! 座る所が無ければ、わたくしめを椅子にして座っていただいてもかまいませんぞ!! さぁ! さぁぁぁぁッ!!」
ドエムンが頬を紅潮させて四つん這いになっている。
うん。通常営業、通常営業。
「尻の座りが悪いな」
一切躊躇せず、それに腰かけるマドラは肝が据わっているというよりも「座れれば何でもいい」という雑な性格ゆえだろう。
「ちょっとマドラ、こんな変態の上に座らないでよね?」
「ま、マドラ様! こちらの椅子をお使いくださいませ!!」
「いえ、こ、こちらをどうぞ!!」
サーキュのヤツがあきれ顔でそんなマドラに飲み物を渡しているし、ケイトラとタデクーが顔色を変えて弾かれるように立ち上がり、自分が座っていた椅子を進めている。何気にこの二人……いわゆる上座に当たる席を占領している。
ちゃっかりしてるというか……逆に運がないというか……
「あははは、だったらボクが背中の上に立って蹴りつけてあげようか?」
「ミーカイル様のどSプレイっ!! 美味しいッ!! 美味しいですわっ!! ドゥッフゥゥゥ……!」
からかい調子でドエムンの尻にジャブのような蹴りを滑らかに入れているミーカイルに、隣で悶えるフジョシーヌちゃん。
……うん、まぁ……ドエムンも嬉しそうな声を上げているから良しとする。
「ミーカイル様……それを続けると、おみ足が汚れるとおもうんじゃが……のう、シシオウや」
「みゃぅ!」
肩にちんまりした子猫のようなチビ魔族を乗せたトラオウがげっそりした顔をしている。
シシオウと呼ばれた子猫がゴロゴロとのどを鳴らしているけど……もしかして、あの子猫、シシオウの生まれ変わりか?
「みなさん、ココル・プディングができました~」
「うわ、すごい人数っスね……はーい、もう、近くの皆さんに回して欲しいっス~」
スシター・ウサミンとコギッツくんが大量のココル・プディングを持って室内に戻ってきた。
「うむ、主様! 主様のお好きなココル・プディングです!」
「きゃッ!?」
「ああもぅ、ゴブローさん! ガタイが良すぎるから、給仕には向かないっスよ~」
「ぬ、そ、そうだな」
「って、わぁぁぁぁ!?」「あっ、あぶねぇっ!!」「きゃっ!!」「【風緩衝波】!」
ブワッ、がしゃがしゃがしゃーーーん!!!
「「「「あああああ!!!」」」」
ゴブローさんの腕に当たってバランスを崩したコギッツくんの持っていたココル・プディングが、宙を舞う。それを止めようとした魔法は、逆にそれを四方八方へと吹っ飛ばすのを増長する。
「……っぷ、ふふふ」
結局俺達は、満遍なくココル・プディングを頭から味わう事となった。
最初にわらい出したのは誰だったのか。
「あはは……くくく、あははははははは!!」「ふふふふふ、あはははは」「くふふ」「はははっ」「はっはっはっはっは!!」
俺の右手の上に乗っていたダンジョン・コアも、ころころと笑った気がした。
【完】
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