187 世界の代償
【世界の維持に深刻なエラーが発生しました】
【世界の維持に深刻なエラーが発生しました】
【世界の維持に深刻なエラーえらーが発生しましましました】
【魔王サタナ、ままま、魔王、ナスナスナス、ソウル・いーたーのスキル、キルキル、オーバー・フロウ……フロ、フフフフフフロロロ】
ちょっとまて!?
本当になんかヤバい感じなんですけど!? ナニゴト!!??
おいっ!? しっかりしろ、天の声ッ!!
【必要、必要……ヨウ、ヨウ、世界、セカイの、維持、維持、イジジジジジジ……だだ、代償、ダイショウ】
【ダイダイ、だ、ダダ 代償が、必要必要必要デスデスデス】
その声と同時に、サタナスを中心に何やら世界が歪み始めた。
「かいと、シェイドォぉぉぉ、ゆゆゆゆゆ、ゆる、ゆる、ゆる……よ、余、ヨヨヨ、ミチ、ミチミチミチ……ミチヅレ……ミチヅレ、みち、連れににに、しししししし、シテ、シテ、や、やるるるるるるる」
どうやら、『ソウル・イーター』持ちのサタナスが精霊を喰らったことにより、何か、とんでもない事になってしまって居るようだ。
【せい、セイレイ、ぶん、ぶんり、分離、ぶんぶんぶんり、だいしょうだいしょう……ダダダ】
【か、かかか、カイト、シェイド、代償を】
「な、る……ほど……そういうことですか」
ルシーファのヤツがビックリするほど血の気の引いた顔色で頷いた。
「な、何がそういう事なんだよ?」
「これが、サタナス様から、カイトシェイド、貴方に対する最後の一撃ですよ」
なるほど……執念深いにも程が有るな。
だったら、正真正銘、消し飛ばしてやろうじゃねーか!
大魔王を舐めるなよ!
「下がってろ、二人共……! 【空間支配・壱式】!!」
シャリ……ィン!
「!?」
かなり本気で放った攻撃魔法が、歪みゆくサタナスに直撃した……のだが、不可解な音を立て、魔法が混ざり合いながら混沌としてゆく。
まるで、空間そのものがひび割れて、砂粒のように別の亜空間へ、シャラシャラと消えて行っているようだ。
「だったら、【蘇生治癒】!」
「……魔族進化【眷属化】!!」
攻撃魔法が無効化されるなら、回復魔法やそれ以外の方法でサタナスの一部でも分離できれば、何とかなるかと思ったのだが、どちらの魔法も命中はしているようなのだが、攻撃魔法と同様に、混ざり合いながら歪み、そして消えていく。
「まだまだ!! 【簡易式聖域結界】!!」
今度は、その歪みを囲うように結界の術式をはってみたものの、徐々に広がる『混沌』に触れた瞬間、他の魔法同様の結果が待っていた。
「これならどうだ! 【超加速】ッ!!」
俺は、自分自身を加速させ、物凄い速度で『混沌』の周りに『封魔結界』の魔法文字を刻み込む。
強固な結界系は、作成に時間がかかるのだ。
「ヴォヴォヴォぉぉぉぉぉ、カカカカカカ、カイカイ ロロロロ ーーーー ~~~~●●●ゴゴゴ、ユリュリュウウウウ●●ロロ●●○○ーー ……!!」
サタナスのヤツ、何を呻いているのか、すでに聞き取れる状態ではない。
だが、どうしたって俺を倒したいという妄執じみた狂気は感じ取れる。
歪んだ触手? 腕? を俺に伸ばして来たのは分かったが、超加速の俺を捕えられるような速度ではない。
これなら、結界の作成に支障は無さそうだ。
「よし!」
がりり、と最後の文字を空間に刻み込む。
まだたいして広くもない『混沌』は、正式な封魔結界によって世界から隔離された。
「……ふぅ。ま、これなら」
シャリ……ィン!
「ちっ……だめか」
【だ、ダダダ、代償、代償……ショショショ、代償 ガガが、必要、ひつ、ヒツ、デスデデデ】
「カイトシェイド……これは、魔法でどうにかできる現象ではありません。天の声のとおり『代償』が必要なんですよ」
……代償、か。
気が進まないが……まぁ、仕方がない。
俺が腹をくくった瞬間、それまでネーヴェリクと一緒に後ろであの『混沌』を見つめていたルシーファが、くいっとメガネを正すと、そのままゆっくりと黒くひび割れて歪んでいる世界の割れ目へと歩き出した。
「……ルシーファ?」
「……絶対に貴方を道連れにしないと気が済まないんでしょう。サタナス様の執念には、流石に、言葉が、ありません」
「おい、ルシーファ、何か、手があるのか?」
「……ですから、【代償】です」
妙に透き通った透明な笑顔を俺とネーヴェリクに向けた。
「だめデスっ!!」
俺が気付くよりも先に、駆け寄ったネーヴェリクがルシーファに抱きついた。
「そんなの、絶対、だめデス!」
瞳に涙を浮かべて必死に首を横に振るネーヴェリク。
「……いいえ、一番良い手ですよ。そもそも【代償】足りえるものは称号・命・能力やスキル、それに等しい重要なものだけです」
ルシーファのいうとおりだ。しかも、今回は、サタナスの呪いが俺に向けられているので、俺の重要なものでなければ【代償】にならない。
「……でも、私の命なら【代償】となりえるはずです。何らかの手違いだとしても【ヒロインの称号】がありますから」
まるで、雪の粒が唇に触れて融ける前の煌めきのような儚い笑みが、一瞬だけルシーファの顔に浮かんだ。
「おまっ、ふざけんなよ……ッ!!」
ルシーファのヤツ、頭良すぎてバカだ! テメェの言うとおり「なりえる」だろうけど、俺がそれを選ぶと思ってんのか!?
「どうして私に【ヒロインの称号】が有るのか不思議だったんです。だって、カイトシェイドが愛しているのはネーヴェリク、貴女でしょう?」
「違いマスッ! 違わないけど違うんデス!! カイトシェイド様にとって、ネーヴェリクのところも信頼してくれテ、大切にしてくれテ、愛してくれていマスけど、同じようにルシーファ様の事も、信頼していて大好きで愛しているんデスっ!! 手違いなんかじゃありマセんっ!!」
「ぶぼっ!」
……ね、ネーヴェリクさん?! 思わず吹き出しちまったじゃねーか。
いや、まぁ、その……で、でも待って、直球すぎません??
俺がルシーファをぶん殴る前に、ネーヴェリクの素直な核弾頭がさく裂した。
真っ赤に染まったのは大地ではなく顔面の方だ。
……俺がルシーファのヤツにツッコミを入れようとして振り上げた、このやり場の無い手……どうしたらいいかな?
「そりゃ、カイトシェイドは鈍感オブ鈍感の博愛主義者だから生きとし生けるものは全部ダンジョン・ポイント換算で大切かもしれませんけど……」
「そういう意味じゃないデス!! いえ、あの、カイトシェイド様はそういう性格デスけど、特別の大切な相手は『違う大好き』なんデス!」
え? あの男にそんな繊細な感性があるんですか? って顔でこっちを見るな!
い、一応、わずかには、あるに決まってんだろ!!
なんだろう? ネーヴェリクに図星突かれると心臓の上の辺りがぎゅむっとして、喉の奥がヒンヤリするんだけど……?
「……だとしても、生粋の女性である貴女は、カイトシェイドがハーレムなんか作ったら嫌でしょう?」
「どうしてそうなるんデスか!? 嫌な訳がありマセんっ!! ネーヴェリクの大好きで大切で愛おしいカイトシェイド様に、ネーヴェリクだけじゃなくテ、他にも大好きで大切で愛せる者が発生したんデスよ? と、いうことは、カイトシェイド様の感性に近い感覚を持っているネーヴェリクにとっても、その相手は、カイトシェイド様と同じようにきっと気が合って、大好きになるはずデス!!」
ネーヴェリクの断言に、ルシーファのヤツがハトが豆鉄砲を喰らったような顔を浮かべる。
「えーと……? え? 女の子って、浮気とかハーレムとか嫌いなんじゃないですか?」
「えっ……? で、デモ、あのカイトシェイド様デスよ? ネーヴェリクが好きではないタイプの方を好きになるとは思えまセンし……」
ネーヴェリクの絶対的な信頼に、絶妙に全身がカッカと熱くなるのは気のせいか?
ルシーファが、俺とネーヴェリクを何度も見比べ「貴女は、カイトシェイドに近い感性だったんですね……たし、かに……そう言われると」と、納得したような困惑したような小さな呟きを漏らしている。
「ルシーファ様とお話しているカイトシェイド様は、とても楽しそうなんデス。ただ、カイトシェイド様はホントは結構恥ずかしがり屋さんデスから、あまり、そういうことは口に出しておっしゃらないと思いマス!」
「ありがとうございます、ネーヴェリク。……だとしても、他に適当な【代償】なんてありません。貴女は、幸せにおなりなさい」
「そんなの、駄目デス!! だったら、ネーヴェリクの方が【代償】になりマス! ネーヴェリクも【ヒロインの称号】がありマス!! それに、ネーヴェリクはカイトシェイド様と掛け合いもコントも上手くできないんデス!」
「いいえ……私が一番適任ですよ。もともと、1度は死んでいる身ですし……」
「それなら、ネーヴェリクはアンデッド、デス! ずっと死にっぱなしデス!」
二人共、どっちが居なくなった方が丸く収まるかを熱く語り始める。
お前ら……ええかげんにせーよ……
俺は分身して説得し合う二人の間に割り込んだ。
「だから、ネーヴェリクが消えたほうが……え? んんッ!?」
「だいたい、カイトシェイドとは以前に敵対していたんですから、私が一番切り捨てやすいで……んっ!?」
そして、同時に二人に口づける。
はいはい。多少ジタバタしたとしても、こう、ガッチリホールドしてやって首の後ろを猫の仔みたいにぎゅっとしてやるとネーヴェリクは大人しくなるし、ルシーファのヤツは羽の付け根を掴んでやるとふにゃっとなるのだ。
体術ならば、少女タイプの二人よりも俺に分がある。
「…っん、んんっ!」「んーっ!?ぁっんんっ……」
抵抗する気が失せるまでは離しませんよ?
散々、口内を蹂躙してから、唇を開放すると、夕日のように顔を赤く染めて俺の胸元に顔を埋めるネーヴェリクと、涙目で顔を伏せるルシーファ。
こーいう反応は、この二人って似てるんだよな。
このあとまだバカな事を言うなら、頭突きをかましてやろうかと思ったのだが、耳元まで桜色に染めたまま大人しくなったので良しとする。
「「お前ら、それ以上勝手な事ほざきやがったら、頭突きだからなっ!!」」