184 最終決戦は唐突に④
「あ、ありえんっ!!! 貴様は、貴様は、ダンジョンの外では魔法は使えない出来損ないのハズ……!」
……あのな?
一応、こちとら『大魔王』だぞ?
そこからちょっとは進歩してるって想定しろよ。
「知ってるか? 【大魔王の加護】って、自分自身にも使えるんだぜ?」
そうなのだ。
ボーギルに口移しの施術を断られた際に言われたのだ。
『分身体がキスすればいいなら、旦那は、自分自身に【加護】を付けたらいいだろ!? 俺にこれ以上、奇妙なものを押し付けないでッ!!!』
と。
そんな、自分の手で自分の足を持って身体を宙に浮かせるようなマネできる訳が……と、思ったのだが、念のためトライしてみたところ……出来ました。はい。
俺自身に【大魔王の加護】を付ける事が。
いやー、何でも試してみるもんだね!
施術の際に傍から見ていて異様だった、という1点を除けばあまり問題はない。
まぁ、鏡にキスしてるようなもんだし……
となれば、選ぶのは当然『特殊能力』だ。
俺の最大の弱点だった『ダンジョンの外で魔法が使えない』という制約。
それを一時的に解除できる【加護】
俺が、俺に付与したのは、そんな能力だ。
さすがに俺も『ダンジョン・クリエイト』の『新規作成』を封印されるとは思っていなかったが、これだって、配下の封印と同様、それほど長時間、使えなくしておくことはできないだろう。
封印の層が薄い感覚を受けている。
かなりギリギリとはいえ、俺は【大魔王】で、ジブリール達はただの【魔王】だから、抑えきれる容量に差が発生しているに違いない。
「キサマァァァッ!!!」
怒声を響かせ、正面の俺に殴りかかってくるサタナス。
そんな一撃、馬鹿正直に喰らうかよ!
ばしっ!!
世界樹の枝で力の方向を少しだけ変えることでその一撃を躱す。
「喰らえ、カイトシェイドォォッ!!【無限魔撃弾】!!」
「無駄だ、サタナス!! 吸い尽くせ!!【時空吸引】!!」
ぎゅぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼっ!!!!
高魔力の攻撃と攻撃のせめぎ合いで、周囲の壁やら天井やらが崩壊している。
冷静に考えたら、ここは一体、どの魔王の迷宮だったんだ……?
朽ち果てた迷宮を破壊させつつ、津波のように打ち寄せてくる無数の魔力弾が俺の放った漆黒の時空へと姿を消していく。
あ、空が見えた。
そうか……今はまだ夜か。
「悪いけど、俺を忘れるなよ、サタナス……」
もう一人の俺がヤツの背後でトドメの呪文を唱える。
「……くっ……くそっ!!」
「さよなら、だな……【時空放出】!!」
ヤツの放った攻撃魔法を威力そのままに完全ブーメランの完成である。
さよなら、サタナス……!
お前はしぶといヤツだったよ、ホント。
「うるぉおおおおぉぉおおおおおおああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁッッ!!」
地響きのような断末魔。
これで、皆の封印が解けたら、ハポネスに戻って今度はリヴァイアさんとの貿易の手はずを整えないと……と、俺が頭の片隅で考えた瞬間だった。
ゆやん、と、柔らかな何かが破れて、まとわりつくような不快感が、全身に鳥肌を立てるように指令を発した気がした。
……何だ?
己の呪文で全身を打ちのめされたサタナスの巨体がゆっくりと前のめりに倒れる。
その背中がミチミチと蝶がサナギから羽化するように内側から盛り上がって裂けた。
ゆやん、ゆよん、ぬらり、ねらり……
黒いとも、半透明とも、言えないスライム状の……いや、もっと輪郭が細かい。
霧化しつつあるとろみのある液体に眼球のようなものが無数に浮き、眼球の一つには、瞳と同じ光彩ではなく、口がくっついている。
……なかなか前衛的なデザインセンスだ。
その口が、くぱぁ~、とゆっくり開かれ、少し場違いな明るい声が響く。
「や~、かーくんの方が強かったか~……サタナスくんでも、半神になればかーくんを倒せると思ってたんだけどな~」
その声は精霊王のヤツと全く同じものだった。