182 最終決戦は唐突に②
「反応が遅いですよ……【浄化光弾】!」
きゅどどどどどどどッ!!!
「なにぃっ!?」
サタナスが放った魔法弾が全て途中で叩き落とされた。
「き、貴様……ッ!!!」
ふわり、と俺の隣に降りっ立ったのは男性型に成長したルシーファだ。
おー……強い、強い。
つーか、流石……あれだけの仕打ちを受けながらも『四天王筆頭』と呼ばれただけの事は有る。
攻撃魔法の弾道速度・威力・発動までの速さ・手数……そのどれを取っても一流だと言って良い。
最近は、ちびっ子泣き虫のイメージが強くなって来てたけど、やればできるじゃねーか。
「おや? その程度で終了ですか? 他人の魔力だけを蓄えたからと言って、操作方法を学ばなければ効率的な攻撃魔法にはならないんですけど、ご存知無かったんですか?」
「おいおい、あんまり煽ってやるなよ、ルシーファ」
「ええ、そうですね。……残念ながらサタナス様のおあたまでは、10文字以上の言語は理解できない可能性の方が高いですから」
だから、煽るなって……と、思ったんだが、良く見れば平然とした顔こそしているものの、膝は震えているし、背中の羽がふわふわに逆立っている。
嫌味な言動は虚勢を張ってるのか?
虚勢だろうが何だろうが戦える方が良いに決まってる。
「あー……いや、そうだな。『バカ』というたった二文字を丁寧かつ正確に描写してくれて助かったぜ」
「貴様等ッ……!!」
「【魔光弾撃】!」
顔を真っ赤にして唇の端から炎をチラチラと吐き出そうとするのを確認するや否や、すかさず、その顔面に攻撃魔法をぶち込むルシーファ。
おー、イイネ、イイネ。
思わずハイタッチの要領で片手を掲げたら、ちょっと目を丸くしていたものの、
……ぱしん!
と返してくれたし、ちょっと落ち着いたっぽいので俺としても安心である。
「ふ、ふざけ……ふざけるなぼべらッ!!!」
どべっしーん!!!
「おかしいですな? サタナス様……小さく、なられましたかな?」
弱体化しているはずのマドラの槍がサタナスの頬を張り倒し、その巨体を吹っ飛ばす。
マドラお得意の突きを放たなかったのは情けか、それとも、その必要性を感じなかっただけか。
ネーヴェリクが最初に頬を引っぱたいた際に印をつけておいた【全能力吸収】がじわじわと効力を発揮してきているのは明らかだ。
自分を引っぱたいた魔竜王の姿を驚きと怒りの表情で睨みつけるサタナス。
……あの顔! 小物臭がスゴイな、マジで。
「あ~ら? サタナス様、相変わらず脳筋でいらっしゃいますのね?」
その背後から、サーキュのヤツがふんわりと甘い香りを漂わせて登場した。
ヤツが放っている魔力は【魅了】の一種かと思ったのだが、その魔力の流れはネーヴェリクの【全能力吸収】を強化する方向に動いている。
……へー、アイツ、あんな事も出来たんだな。
他人の補佐という作業を『どーしてアタシがそんな事しなきゃいけないのよっ!』と馬鹿にするタイプの女だと思ってたんだが、サーキュのヤツも少し丸くなったのか?
年の功は偉大だね。 伊達にバケツ一杯年喰ってねーな。
「ふん、サーキュか……貴様のようなババアは要らふごっ!!」
ババアという単語に対してサタナスの口元に火球を放り込む。
確かに、サーキュのヤツ、以前の魔王軍の時よりも年を取ってるけど、でも、年齢と共に魅力を増せる女って逆にカッコイイと思うけどな。
旧魔王軍四天王連中の無双っぷりに、ケイトラさんとタデクーも「あれ? サタナス様ってあんなだったか?」「あの程度の御方だったのね」とヒソヒソ話し合っている。
明らかに二人の視線が冷たい。
「魔竜斬撃破っ!!!」
どがんっ!!
「うごっ!?」
「我が主に対し頭が高いぞ!!! 頭を下げんか!」
マドラの一撃に、サタナスのヤツ、頭を床にめり込ませている。
土下座と呼ぶには顔面が床にディープキスし過ぎているが、俺は気にしないぞ?
「んんんんんッ!!! 攻撃は是非ともっ! このワタクシめにッッ!!!」
半裸亀甲縛りの変態さんが、顔面を床に埋め込んだサタナスの頭上でくねくねと踊り狂う。
顔を上げたら自分と同じ顔の変態さんの股間が目の前です。はい、わかりやすく引き攣ってますね。
自業自得だっつーの。
「ぐく……この、クズ共めぇぇぇっ!!!」
カッ!
サタナスが口から高濃度の魔力弾を放った瞬間、
「ああんッ!!! イイッ!!」
と、ほぼゼロ距離にあった変態さんの股間から跳ね返った己の魔力弾で顔を焼かれるのってどんな気持ち?
ねぇ、どんな気持ち?
うめき声を上げてのたうち回るサタナスがようやく立ち直った真正面に最後のメンバーが現れた。
腰に佩いている剣は例の神殿で貰った聖剣・エクスナンタラーである。
「秘剣……秘剣・死芽切、黄泉切、宇智切ッッ!!」
ズバババンっ!!
鮮やかな太刀筋がサタナスの胸板に十字の傷を刻む。
これでも切断されないのは、腐っても魔王ってことか。
「はい、カイトシェイドさん。武器」
「お、サンキュ」
そういって、ぽん、と世界樹の枝を俺に渡してくれたのはカシコちゃんだ。
自分の出番はもう無くても大丈夫、と言わんばかりに俺の背中をポン、と軽く叩いた。
今回、ゴブローさん、シスター・ウサミンとコギッツくんは呼び寄せていない。
一応、ハポネスがカラッポになっちゃうのは避けたいからね。
だが、これだけのメンツがこっちに揃えば、サタナスなんかに負ける気はしない。