181 最終決戦は唐突に①
「くくく……くくくくく……ようやく、余の前に戻って来たな……カイトシェイドよ」
!?
思わず瞳を瞬かせる。
「……サタ、ナス?」
俺がヤツを認識すると同時に、サタナスが手にしていたモノがパシン、と砕けて消えた。
あれは……かなり高位の魔族の「魔核」だ。
見れば、周りに倒れ伏しているのは見覚えのある魔王たち。
「お前、何を……?」
「くくくくく……! 貴様のようなアナグマを引きずり出す【強制召喚】の秘術……高位魔族3体の魔核と引き換えに、対象の相手を呼び寄せる事ができる術よ!!」
全く、実にタイムリーに仕掛けて来やがったな。
何だ? もしかして、あの道化師ピエロに俺専用の観察魔術か覗き見魔道具でも使わせたのか?
「カイトシェイドよ、以前のようなトカゲのしっぽ切はどうした?」
「以前のような?」
え? 何を言っているのか分からないんですが……?
「まぁ、そんなものにひっかかる余ではないがな……!!」
ゆったりと、椅子から立ち上がったサタナスの足元で、座っていた椅子が崩れ落ちた。
良く見ればあの椅子……魔族の青年か?
尻尾をちぎり飛ばされたような男がどしゃりと倒れ伏す。
他人を痛めつける事に関してはホント、天才的だな。
その瞬間、
ばろんッ! ばりんッ! ばきんッ!!
けたたましい音を立てて、地面から黒い触手のようなものが飛び出してくる。
「くくく、恐ろしくて声も出せぬか? ダンジョンの外では貴様などタダの人間と同じ!!! まさに、クズ!! 正しく、カス!! 塵芥と同義語!!! 余に嬲り者にされるだけの存在よ!!!」
「お前、馬鹿か?」
「なっ!?」
何故か勝手に勝利を確信し、高笑いを始めた思い込み激しめの残念魔王に対して、俺も勝利の笑みを浮かべる。
確かに、ヤツのいうとおり。
俺は本来、ダンジョンの外では無害で無防備な存在だ。
特に今なんて、じいちゃんの形見アイテム袋も持っていないし。
だが、こんな場合であっても、奥の手の一つや二つは存在している。
俺だって、ダンジョン外で著しく弱体化する自分の弱点に気づかないはずがないでは無いか。
「……俺はお前とは違って『育成型魔王』なんだぜ?」
「ふんっ! 何かと思えばそんな事か! 己自身の強化もままならぬクズ進化ではないか!!」
嘲るようなサタナスの笑み。
だが、その顔もすぐに凍りつくと思うと滑稽でしかない。
「その認識がバカなんだよ!! 【配下召喚】!!!」
ばちーーーーーんッ!!!!
「……んなっ!?」
俺の力ある言葉の開放と同時に、ふわり、とサタナスの目の前に現れたのはメイド姿の美少女。
そして、問答無用で彼女は、サタナスの頬を引っぱたいた。
「カイトシェイド様に、何するんデスかっ!!!」
まぁ、ネーヴェリクのビンタを一発喰らった所で、大したダメージにはなっていないだろうが、精神面はどうだかなー?
ヤツにとっての『想定外』の具現化。
サタナスのかぼそく、儚く、心もとない理性さん……どこまで保てるかな?
「大丈夫デスか? カイトシェイド様!? サタナス様にいじわるされまセンでしたか?」
「あはは、へーきに決まってんだろ」
サタナスの顔面をぶん殴ったネーヴェリクは、ゆるりと空気に溶け、そして俺の隣で心配そうに首をかしげた姿で具現化する。
俺は、そんな彼女の柔らかく滑らかな髪を撫でた。
「ネーヴェリク、サンキュ。俺の呼びかけに最初に答えてくれて」
「え、えへへ~……ネーヴェリクは、カイトシェイド様のお力になれるのが、何よりも嬉しいんデス」
へにゃり、と幸せそうに微笑むネーヴェリク。
うむ、かわいい。
その背景ではサタナスの野郎が突然の衝撃とじわじわ降り積もる屈辱にぷるぷるしているような気もするけど、俺は見せつけてやるつもりでアホみたいにネーヴェリクとイチャついた。
ふふふ! サタナスめ。『想定外』は、当然、ネーヴェリク一人だけじゃねーぞ?
そうなのだ。
この【配下召喚】は【ダンジョン・クリエイト】と同様にスキルの一種である。
ダンジョンの外では魔法も使えない俺であっても、この【配下召喚】や【加護】のようなスキルは発動させる事ができるのだ。
まぁ、【加護】については自動で常時発動中と言った方が正しいけどな。
「オラァッ!!!」
「旦那様、お下がりください」
「うふふ、この影くんは~……要らないねぇ~」
一瞬よろめいたサタナスの顔面にアルファの拳が炸裂する。
どうやら【配下召喚】はこちらに姿を現すまで、一人づつ、多少タイムロスがあるようだ。
……でも、まだまだこれから皆、じゃんじゃん来る事だろう。
『育成型』を舐めんなよ!!
アルファがサタナスを殴り飛ばしたのと同時に、ベータとオメガの二人が、サタナスの出したであろう闇の触手を『会計諸表』やら『実体化した夢』やらで叩き潰し、引きちぎり、ボロボロにして行く。
うんうん、この三人はサタナスに対してあんまり恐怖心が無いからな。
初心者無双は、「これからの人材」を育てるにはとても重要なのだ!
彼等に続き「あれ? この程度で無双できるなら俺でもやれんじゃね?」と考える奴らが増えてくれると俺としてはありがたい。
「う、うぉおおおおおおっ!!!!」
この状況下で、ようやくサタナスのヤツから勝ち誇った笑みが消え、四方八方に魔力弾をまき散らし始めた。