179【ルシーファside】睡眠不足と大魔王の加護
「うわっ!? ルシーファ、お前、こんな深夜なのに起きてたのか!?」
「わあぁぁぁっ!? な、何ですか!? こんな夜中にッ!!」
突然、真後ろから投げかけられた声に思わず身体が飛び上がった。
「お前、また寝れないのか?」
カイトシェイドが『やれやれ』と言った表情で私と視線を合わせる為にしゃがみ込む。
ナデナデと頭を撫でられるのが嫌じゃないと感じるのが我ながら情けないです。
幼児姿になってから、ほとんどの相手に対して見上げなければ顔が見えないのに対し、カイトシェイドは時折、こんな風に膝を折って話してくれる。
それが嬉しくない訳ではないんですけど……ダメですね、私は。
とっさにふいっとカイトシェイドに背を向けた。
「……別に……その、今日は、あまり眠くないだけです……」
心配されると逆に照れくさくて、申し訳なくて、ついつい顔を背けてしまう。
「ふーん。ま、いいけど、お前、身体はガキになってるんだから、夜は寝とけよ」
「わかってますよ」
私だって、普通に寝たいですよ!
でも、最近……妙な威圧感というか……時折、何かに絡みつかれるような違和感で起きてしまうんですよね……
そういう時は、ビックリするほど冷や汗と動機が止まりません。
冒険者ギルドのこの屋上で星空を見上げながら少し息を整えていると、大分マシなんで助かりますが。
ボーギルとカシコが無事に結婚できたのは、喜ばしい事なんですけど、一緒に寝ることは出来なくなったから……
すこし……寂しいのでしょうか?
精神は身体に引きずられると言いますからね。
「……」
「……」
ち、沈黙が気まずいんですが……!
「あー……か、カイトシェイド、何か私に用事だったんですか?」
すると、思い切りと行動力に関しては定評のあるカイトシェイドが何やら少し迷ったように目を泳がせていました。
珍しいですね、この男が迷うなんて?
「あー……お前が寝てるようなら問答無用でササッと済ますつもりだったんだが……まぁ……お前、さ」
「はい?」
「サタナスのヤツが攻めて来たら、どうしたい?」
びくっ!
サタナス、と。
その名前を聞いただけで、全身が冷水に引きずり込まれたような気がした。
勝手に両手が、両膝が、横隔膜が震えて……心臓が痛い。
「アイツの手の届かない所に逃げ出したいか?」
あの魔王城で自分が受けた仕打ちについてはサーキュから聞きかじっている。
正直、その記憶は殆ど無い。
無い、はずなのですが……
ぎゅぅぅ……!
思わず身体を縮めて両腕をきつく握りしめた。
『オ願イ、ヤメテ、ヤメテヤメテヤメテ……!!』
叫び出しそうな喉に、こくりと生唾を呑み込むことで、ギュッと蓋をする。
「それとも、あんな野郎、ぶっ飛ばせるようになりたいか?」
え?
ぶっ飛ばす、と言われて、思わずカイトシェイドの顔を見つめてしまった。
漆黒とは違う、優しい夜の黒で染め上げたような瞳。
星々にも似た光は魔力だろうか。
「に、逃げたく、ない、です」
予想よりも震えていない声が出た。
「よし、わかった」
それを聞いたカイトシェイドは少し安堵したような、逆に何かを諦めたような……この夜の闇でもわかるくらい珍しく赤い顔をしている。
「嫌なら嫌って言えよ?」
「へ? え? な、何……ん、ンっ!?」
突然、抱き寄せられたかと思ったら、後頭部を、がしっと固定される。
私、拘束されるのは基本、怖くて嫌なんです。……が、カイトシェイドの場合は、不思議とその感覚がありません。
そして、目の前がカイトシェイドで一杯になり、唇から口内、そして全身へと暖かな魔力が送り込まれた。
……口移しで。
【幼天使・ルシーファは『大魔王の加護』を得ました!】
【一時的に自由意志により成長する事ができます!】
「ちょ!? えっ!? だ、だいま!? え?」
突然の天の声に耳を疑う。
だが、衝撃は終わらなかった。
【称号『ヒロイン』を手に入れました! 】
絶句、とは、こういう事を言うんでしょう。間違いなく。
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