178 加護を付与しよう!
「リヴァイアさん、一つ質問なんですけど、第七魔王会議で宣戦布告しなくても、魔王との対決ができるんですか?」
「ええ、できるか・できないか……でいうとできるわ。ただ『貰える経験値』とでもいうのかしら? 勝負に勝った場合でも、得るものが正式な宣戦布告をした後よりもだいぶ少なくなるらしいわよ? それに、他の魔王たちからの評判も下がるわ」
その程度のデメリットならば、ヤツならば突き進む可能性は高い。
「じゃ、私はもうここまで『出向』できるから、いつでも呼んで?」
リヴァイアさんはそういうと、ドロリと溶けだし、水たまりのような姿になってしゅるるるる~……と応接ルームのドアの隙間から去って行った。
む~……こりゃ、サタナスの野郎との直接対決は避けられないな。
まぁ、元々、アレだ。それなりに因縁のあるヤツだからな。
この際、キッチリ引導を渡してやろうじゃねーか!!!
そんな訳で、俺は新たな自分の能力を確認してみる事にした。
まずは、【大魔王の加護】である。
えーと……これは、どうやら『俺が口移しで魔力を注ぎ込んだ相手に対して攻撃能力・防衛能力・再生能力・特殊能力のいずれかを上げることができる』ようだ。
それぞれの能力を一人に対し3つの能力をUPさせることもできるし、逆にどれか一つをUPさせる代わりに、多くの相手に対して【加護】を付けることもできるようだ。
今のレベルだと、最高でも3人までだけどな……中途半端だな。
まぁ……それならそれで問題無いだろう。
ふむ……
早速試してみよう。
俺はダンジョン内瞬間移動を発動させた。
「おーい、ネーヴェリク~」
「ハイ、何デスか? カイトシェイド様」
ネーヴェリクがいつものぽやん、とした顔で、こちらを振り返る。
かなり大きくなって来たハポネス内でセーブエリア虫をコツコツと集めてくれていたようだ。
地味だけど大切な作業だからな~、コレ。
「実はな?」
俺は『大魔王』の称号を得た話とその加護についてネーヴェリクに語って聞かせた。
「……という訳なんだ」
「カイトシェイド様……ッ! お、おめでとうございマス……!! う、うれしいデスぅぅぅぅ」
震える声で興奮を隠しきれないネーヴェリク。
珍しく頬をピンク色に染め、キラキラの笑顔を向けてくれる姿を見ていると、俺の方まで、ほっこりとした感情が沸き上がってきた。
そっか……
そうだよなぁ、何か、戦ってる感じがしなくて、イマイチ実感無いんだけど、「大魔王」なんだよな、俺も。
あの優しかったじいちゃんに肩を並べたんだよな……!!
「でも、ま、サタナスの野郎と決戦する必要性はありそうなんだがな」
「大丈夫デス!! カイトシェイド様が負けるはずありませんっ!!!」
がしっと、俺の手を両手で握りしめるネーヴェリク。
「無論だ!!! だけど、俺は油断はしない!!!」
「ハイっ!!! 流石デス、カイトシェイド様」
何か、テンション・アゲアゲでネーヴェリクと両手を取り合いくるくると回ってしまったが問題は無いだろう。
ハポネスの街の中とは言え、見られても別に恥ずかしい訳じゃないからな!!
「そんな訳で、俺の力になってくれ、ネーヴェリク!!」
「もちろんデス! ネーヴェリクの全てはとっくにカイトシェイド様のものデス……!」
「じゃぁ、ネーヴェリクは『攻撃能力』『防衛能力』『再生能力』『特殊能力』のどれを強化したい?」
そこは、ご本人の意思を尊重させてあげたい。
何を選んでくれてもいいよ?
「……この【加護】は最大3人までなんデスよね……?」
「ああ」
ネーヴェリクが真剣な顔で考え込む。
「ネーヴェリクの他にはどなたを【加護】なさるおつもりデスか?」
「うーん……そうだなぁ……」
あのアホ精霊の話を全部信じている訳ではないが……
でも、仮に本当だった場合、狙われやすいのはネーヴェリク・ルシーファ・ボーギルだから、この三人かな?
……付与する方法が口移し限定なので、嫌がられたら止めますよ?
ボーギルは絶対嫌がりそうだな……俺だってすき好んでやりたい訳じゃ無いんだけど……
まぁ、いざとなったら『分身体』を使う手もありますし?
「ああ、でしたら、ルシーファ様とボーギル様を済ませて、最後に余った能力で良いデス」
にっこりと天使の微笑みを浮かべるネーヴェリク。
「待って!? せめて最初はネーヴェリクにさせて! 付与方法がキス限定なんだから、そこで遠慮しないでくれッ!」
「……えっ? ……あっ……」
ぽぽぽぽぽ、とまるで桜の花びらが降り積もったように、白い素肌が耳元まで赤くなる。
気づいたか。かわいいヤツめ……
「で、では……あの、カイトシェイド様ヲお守りできる、防衛能力で、お願い……しマス」
「よし、わかった!」
くい、っと俯いてしまった彼女のあごを持ちあげて、そっと、唇から魔力を注ぎ込む。
「ぁ……ん、ンン……ッ!」
アンデッドは体温が低いはずなのに、抱きしめたネーヴェリクは、何だかとってもぽかぽかして、懐かしい匂いがした。
【ヴァンパイア・プリンセス:ネーヴェリクに『大魔王の加護』を付与しました!】
【結界作成能力が付与されました!】
よし、成功だ!
俺は、胸に顔を埋めてぷるぷるしているヴァンパイア少女が「そろそろ、その、仕事に、もどらないと……駄目デス」と言うまで抱きしめていたのだった。