176 大魔王カイトシェイド
【三人の魔王と同盟もしくは配下としたことにより、魔王カイトシェイドは『大魔王』の称号を得ました!】
【『大魔王の加護』が消滅する代わりに『大魔王の加護』を他者に付加することができます!】
【加護の内容は自由に設定できます!】
【第七魔王会議の開催が可能です!】
【良き大魔王ライフを!!】
脳内で元気に鳴り響く天の声に思わず口をパクパクさせてしまった。
そ、そんなに簡単に大魔王になっちゃって良いのか!?
「そうね、本当の希望は同盟だったんだけど……別に、配下でも良いわ」
「ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って下さい!」
いや、待て!?
普通、魔王って独立独歩の気質が強くて、誰かの下に付くのを嫌がるもんなんだよね!?
「ど、どうして突然!?」
「ん~、女の勘かしら?」
待てコラ不定形。
女の姿で股間の辺りをもっこりさせたり、フラットにさせたりしながら言うな。
そんなアピールする女が居るか!
「それは冗談なんだけど、前の会議の時に、ミーカイルくんとラフィーエルちゃんと少しお話したら、カイトシェイドくんの評判が結構良かったから、私も仲間に入れて欲しいな~、って思ったのよ」
「ん? ああ、もしかして、ハポネスとの交易を希望ですか?」
ラフィーエルさんも、元々は世界樹の葉が欲しかったんだもんな。
うちでは、ほぼ雑草と同等の扱いを受けている世界樹だが、収穫する傍からアホみたいな価格でバカ売れしている。
ちなみに、花はさらにその倍の価格だ。
だけど、それが目的なら、わざわざこんな回りくどい事をしなくても……
「あら、それも魅力的ね。……でも違うわ。むしろ、危機感かしら?」
「危機感?」
「ん、実はね? ……ジブリールくん、サタナスくんに負けちゃったみたいなのよね~。もー、彼、簡単にイきすぎよ~!」
ふぁっ!?
え!? あの、すかしたイケメン野郎負けたの!?
おどろきの早さッ!!
だからって「きっと仮性で三こすり半」とか言ってやりなさんな、リヴァイアさんや……
折角美女の皮被っているのに、おっさんが漏れ出てるんだよ!!
確かに、サタナスの野郎は自分一人で特攻する事もあるタイプだけど、それにしても高速すぎませんかね!?
「で、でも天の声では何も……」
「あれは新しい魔王が誕生しないと全魔王への周知はされないわ。単に敗北しただけなら、お知らせなんて無いわよ。情報収集しなきゃ駄目! ……て、言うか……カイトシェイドくんって、外の世界にあんまり興味ないタイプなの?」
リヴァイアさんが少し不思議そうに首を傾げた。
お、おう……そ、そう言われると……そんな気も?
ま、まぁ、その、『ダンジョン・クリエイト』のスキル自体が、かなり引き籠りに優しいスタイルですし……?
人間サイドの動きについては、結構ベータとかボーギルとかから色々入って来るんだけどな?
「しかも、バールくんに宣戦布告しちゃっているみたいだから、絶対、その次のターゲットは私になるじゃない!! 他の2人はカイトシェイドくんの同盟関係だったり配下だったりするんだもん!」
まぁ、3対3よりは、一人はぐれっ子の1を仲間に引きずり込んで4対3の方が、そりゃ、有利だ。
「……そ、そうですね、順当にいけば……」
「でしょ!? 私、イヤよ!? サタナスくんに敗北するのだけは絶対にイヤ!! 何されるか半分想像つくから余計嫌なの!! ……だけど、カイトシェイドくんは違うじゃない?」
そう言って、リヴァイアさんは、おっさんが美女の皮を被っている事を忘れさせるような、蠱惑的な笑みを浮かべたのだった。
「私……この手の情報収集能力には少しだけ自信があるの。カイトシェイドくんとミーカイルくんとの闘いは見事だったけど、ラフィーエルちゃんとの戦いの方が私は好きよ?」
もしかして、ダンジョンバトルを見学していたのか……?
いや、ラフィーエルさんとの戦いは長期戦だったし「第三者の評価で決定」方式だから、見られていても不思議じゃないけど、VSミーカイル戦は、ある意味一瞬で終わったぞ??
「不思議かしら? うふふ……私、水属性だから、あらゆる液体を通して色んな世界を視る事はできるのよ? ……視るだけだけど……」
ニッコリ笑顔から、少し自嘲気味な表情へと、その整った顔を曇らせる。
「……で、カイトシェイドくんって、すっっっごいお人好しじゃない?」
いや、そんなことは無いだろ?
普通だろ?? 『すっごい』にそんなに力入れないで下さい。
「そこで『解せぬ』って顔してるのが一番の証拠よ。それに、あのラフィーエルちゃんと引き分けてあげた、って時点で相当アレなのよ?」
……ラフィーエルさんって、もしかして魔王仲間から侮られていたのかな?
うーん……? まぁ、ミーカイルには1回負けてるんだよな。
それで、あの変態魔王好みの伊達メガネさせられてたし……
「……いや、でも、戦い方次第でラフィーエルさんは相当強いと思うんだが?」
「そりゃそうよ! 魔王だもの! だけど、彼女の『土俵に乗ってあげる』ってトコロがそもそもお人好しなの! 気づいてると思うけど、彼女、直接的な攻撃能力はかなり低いでしょ? 普通、相手の弱みを叩くのが戦いの基礎じゃない?」
実は、あのダンジョンバトルについては……ちょっと俺も天狗になっていましたっ!
だって、俺、大魔王と呼ばれたじいちゃんが残した『魔王城』を管理していたんだぜ?
ミーカイルのヤツだって想定以上に簡単に勝てたし。
……例えどんなルールであっても、絶対簡単に捻り潰せると思ってましたよ!!!
いやー……やっぱ、侮ってはいけないね。何事も。
「で、私の強みは『情報収集』よ。その代わり……その、やっぱり、直接的な強さは……その、ちょっと控えめなのよね……」
ぺしょん、と肩を落とすリヴァイアさん。
「信用できないって言うなら、誰か【鑑定】のスキル持ちを連れて来てもらっても良いわ」
嘘はついていなさそうだけど、一応鑑定系……確か、ボーギルが自分よりレベルが低ければ【鑑定】出来るって言ってたな。カシコちゃんも使えたっけ? ちょっと記憶にないけど、この二人ならどっちかは行けるだろ。
俺は配下召喚の確認をすると、ボーギルさんの現在の部分に「カシコちゃんとチョメチョメ中」と書かれていた。
カシコちゃんもボーギルとしかり。
……チョメ?
…………。
………アッ……ハイ、新婚さんですもんね。
新たな生命体が増えるという事は、ダンジョンポイントが増えるという事である。
実に良きことである。たとえ今が真昼間であっても!!!
カシコちゃん、サンドワームさんみたいにヴァーーって大量に出産してくれないかなーーーー!!!
エルフ族だから無理だってわかってるけどさぁ!!
「どうしたのよ? 突然遠い目をしちゃって??」
「いや、【鑑定】は……後でいいか……?」
「構わないわよ? だから、私としては、すでにミーカイルくんとラフィーエルちゃんのふたりを影響下に置いているカイトシェイドくんに、さっさと『大魔王』になって貰って、あのサタナスくんからの避雷針代わりにしたいのよね」
魔王は7人しか存在していない。
その内3人を影響下に置くことができるのは1人だけ。
なるほど? つまり、これで今、俺が『大魔王』の称号を得ちゃったから……得ちゃったから!?
ひくり、と頬が引き攣ったのが自分でもわかった。
「サタナスくんの事、よろしくね?」
リヴァイアさんは、そういうと、あざといほど可愛くて奇麗な笑みを浮かべた。