173 宣戦、布……こ、く?
「こーやって見ると……カイトシェイドさんよぉ、アンタ、結構浮いてるな」
「やかましいわ」
「……いや、だって、俺の方が『魔王カイトシェイドって君かい?』って何度か声かけられたぞ?」
そうなのだ。
今回、大七魔王会議へ俺と一緒に出席したのはアルファのヤツである。
ネーヴェリクには、ハポネスの総括を頼んである。
何故今回、俺に同行するのがアルファなのかと言うと、ズバリ『魔族らしい見た目』を重視して選んでみたからである。
魔族は基本「魔族らしい見た目」を重視するからな。
アルファの奴には、ハポネスに居る時と違い、ツノや腕などをそのままにするように指示している。
ぶっちゃけ、俺やネーヴェリク、ベータやオメガもそうだが……生粋の魔族からすると、見た目が人間っぽすぎて侮られるのだ。
それに、今回は『返り咲き魔王』のサタナスが来る予定になっている。
この、一度、魔王の座を追い落とされたのに、別の魔王を倒して再度、魔王に復帰する……というのは、かなり珍しいらしく、それに興味をひかれた全魔王が参加を了承したらしい。
そう、今回は誰も代理がおらず、現役魔王が7人集結する事となったのだ。
ホスト役のラフィーエルさんが涙目だったのは気のせいではない。
一応、ちょっとした粗茶代わりに、ハポネス特産のお茶をラフィーエルさんに差し入れしたところ、副官らしきポニーテールの美女からものすごく感謝されてしまった。
今、全員の前に並べられているお茶は、ウチの世界樹の花を原料にしたものだ。
ほんのり甘くて美味いんだよ? このお茶。
俺は、ずずず、とお茶をすすりながら、円卓の隣に座って一言も会話を交わそうともしないツンとした野郎の横顔に、チラリと視線を送った。
俺の右隣に座るこの男、こいつが魔王ジブリールであるらしい。
このプライド高きイケメン野郎は、こっちが挨拶したところで、ゴミクズでも見るような眼差しで俺を見て『まるで人間だな……醜い』と呟いたっきり、一切の交流をシャットダウンしてきやがったのだ。
く……テメェ、頭に3本ツノが生えてて、鳥みたいな羽が有るからって……! せめて挨拶くらい返せよ!!
ちなみに、俺の左隣はラフィーエルさん、その左隣がミーカイルだ。
その左側でミーカイルのヤツと雑談しているヌメヌメした不定形の怪物がリヴァイアさんで、その横の武人っぽくて武骨な鎧を身に纏い、その背に虫の羽のような翼を持つお姉さんがバールさんだそうだ。
ラフィーエルさんを除き、それぞれの副官は魔王のすぐ後ろに立っている。
その時、ラフィーエルさんの所のユキカゼちゃんが皆におもてなしの茶菓子のようなものを配り始めた。
一瞬でリヴァイアさんが、ドロドロヌメヌメのジェル・スライムみたいだった見た目をにゅるにゅると変化させ、そこそこイケメンのナイス中年に変身している。
そして、イケメンおっさんに変わったリヴァイアさんは、サンキュ、と言わんばかりにサムズアップ。
なるほど、不定形の魔族って、あまり身内に居なかったけど、面白いのかもしれないなー。
ただ、問題はそんな茶菓子を配るユキカゼちゃんのお尻を、腰から生やしたもう一本の細い手で、撫でようとしているセクハラ気質の方だろう。
あ、ぺしっと打たれた。
そんな風に俺達が何となくゆるゆると雑談を交わしていると、唐突に最後の扉が開いた。
そこに立っていたのは、あの残念魔王のサタナスだ。
「くくく……貴様等、余のために今回はよくぞ集まってくれた!」
「な!?」「はぁ!?」「……ッ貴様」
まさに、主役と言わんばかりの態度で会場に入るなり、鷹揚に宣言するサタナス。
当然、円卓に腰かけていた魔王や、彼等の配下が不機嫌そうな声と威圧の魔力をサタナスめがけて叩き付ける。
だが、そんな威嚇など鼻で笑う。
「さ、サタナスさん、あ、あの、お席についてください」
ラフィーエルさんがわたわたと着席を促すが、そんな事はお構いなしで俺の方を笑いながら見つめている魔王サタナス。
「……久しいな、カイトシェイドよ」
口元こそ笑みの形を浮かべているが、その眼差しには殺意がパンパンにはちきれんばかりに詰め込まれている。
「あ”ぁ”っ!? 何だ、テメェ?」
アルファが不機嫌そうな声をあげ、そんなサタナスの視線を弾きかえした。
「くくく……よかろう。単刀直入に言う。宣戦布告だ!!」
ざわり……!
サタナスの「宣戦布告」の一言に会議会場がざわついた。
やれやれ、やっぱりそう来るか。
だが、ここで「宣戦布告」ということは、ダンジョンバトルになる事に違いは無いだろう。
「ああ、わかったぜ」
俺は、サタナスの言葉に座ったまま頷いてやった。
それを聞いたサタナスは、さらに笑みと殺意を強く込めて言葉を放った。
「……余の宣戦布告、受けて立ってもらうぞ! 魔王・ジブリール!!」
「……んんん!?」
「ふん、よかろう……」
あ、あれ? 俺じゃないの??