166 世界の曲がり角
その日の夜、予想どおりの来訪者が、俺の寝室にやって来た。
薄っすら半透明の透けた身体。
相変わらずのニコニコと屈託のない笑みを浮かべたアホ精霊が「やっほー」と軽い調子で右手を上げる。
「はぁ……やっぱり来やがったな、スゴピカ」
「うん、来たよー、かーくん。はーと」
「自分の口でハートとか言うな、気色悪い」
ボーギルのプロポーズ大作戦は進行中……というか、それにかこつけた市場の開催をベータに依頼してある。
だけど、まぁ、多分コイツの本当の狙いは違うんだろうな……
つーか、コイツの茶番を8割盛り込まないと気が済まない精神を何とかして欲しい。
「…………で。今日は何がしたかったんだ? あの茶番……」
「あははは、バレてる? ん~、かーくんは勘がいいねぇ」
「バレてる? じゃねーよ。つーかお前、ボーギルにはガチで謝れよ?」
「あははははは~……あー……うん、まぁ……あれは、ちょっと想定外だったかな~……ま、でも、アレはアレで悪い選択では無かったと思うよ? かーくんにとっては」
と、それまでふわふわ、ぽよぽよと気の抜けた顔をしていたスゴピカのヤツが、すっと真面目な表情を浮かべた。
「単刀直入に伝えるよ? 今……いや、もう昨日かな? 『世界の曲がり角』に到達したよ」
「はァ??」
「君の異母兄弟であるサタナスくんが『魔王』に帰り咲いたんだ」
「はいぃぃぃっ!?」
「あ、ちょっと違うね。もうすぐ魔王に返り咲く……かな? でも、そんなのは時間の問題。」
待て待て、ちょっと待て!!
色々と確認したい情報を複数ぶち込んで来やがって!!
何だその『世界の曲がり角』って!?
それに、俺とサタナスは異母兄弟じゃねぇぞ!?
アイツはじーちゃんと高位魔族の女性……えーと……確か、女悪魔族のエルリーン様だったっけ?? アークヴェルと大叔母様の息子がサタナスの野郎で、俺はアークヴェルとマリクルシアの娘であるマリアとこのアホ精霊の息子だから、サタナスとは伯父と甥っ子の関係だ。
純血の高位魔族同士の息子であるサタナスの野郎と、人間の血が入っているお袋と俺とでは成長・老化速度が全然違うから見た目はどっちもそんなに変わらないが……
つーか、父親のお前がなんでそんな間違いするんだよ!
そんで、サタナスが魔王に返り咲く、なんて……何処の情報だよ?
多分きっと、そろそろあのトラオウ辺りにぶち殺されてるとばかり思ってたけど……?
「あ、うん。ゴメン、そうだよね~……ちょっと順番に説明するねー」
そう言いながら、スゴピカのヤツは俺の部屋の壁にいくつかの映像と投影する。
そこに映っているのは不可解でありえない光景だった。
一つは俺が魔族から離反し、光の勇者……どーみてもボーギルなんだけど……と共に何故か、すでにこの世に居ないはずのじーちゃんを殺す一幕。
一つは魔王として独裁を強いていた外道of外道な俺が、光の勇者であるボーギルに倒される一幕……ちなみに勇者のパーティメンバーにカシコちゃんやアルファの奴も居る。
一つはサタナスのヤツが凄く良いヤツらしく、ヤツを中心に、俺、マドラ、サーキュ……そしてシシオウのヤツが魔王軍四天王として忠実に仕え、魔王城を盛り立て……やがて全魔王を掌握してゆく一幕。
「な、なんだこれ……?」
「うん。これ『分岐した別の世界』だよ。過去の『曲がり角』で別の方向に曲がった……ま、言うなれば『近くの異世界』だね」
「は……はぁ?」
スゴピカ曰く、世界とは分岐するたびに増えていくものであるらしい。しかも、一人一人の命に対して、大きな分岐箇所が複数存在しており、それこそ、無数・無限の数の『世界』があるのだそうだ。
「ここの世界の場合、元をただせばアークヴェルの馬鹿が無茶をしてしまったから……ちょっと歪んでるんだよ」
こいつ、じーちゃんのところは今まで義父さんって呼んでなかったか?
急に『アークヴェル』と呼び捨てにし出したので、一瞬、面食らってしまった。
だが、そんな俺の不審げな顔を気にするでなく肩をすくめる。
「それが、そろそろ限界、ってだけなんだけどさー」
そう言いながら、たくさんの映像の中から2つだけをピックアップし、俺の前に並べた。
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