163 沈没しない泥船をつくろう!
「つー訳で、ボーギルは俺以外の別の相手と結婚するから、3体は揃わない。ココから俺達を出せ」
念入りに土下座をしていたスゴピカに俺は高らかと宣言した。
「えっ!? 旦那、そりゃ、どういう意味だ……?」
逆にボーギルが驚きの表情を浮かべているが安心して欲しい。
「まぁ、俺達に任せろよ! お前を幸せな結婚に導くウェディング・プランナーをやってやるぜ!!」
「大船に乗ったつもりでご安心くだサイ!」
ばーん、と宣言した俺とネーヴェリクの言葉に、顎をぽてん、と落とした顔で硬直するボーギル。
「……だ、大丈夫ですよ? ボーギル……泥で出来た船だって、きちんと素焼きして、一定以上の大きさを持ち、浮力を得られれば水に浮くんです!……わ、わたしも協力しますから!」
「ま、待ってくれ、ルシ……そもそも『泥で出来た船』の時点で安心要素が無いんだが……?」
「それはわたしもそう思いますけど……でも、マイナスにマイナスを掛けたらプラスになるんですから、『絶望』に『絶望』を掛けたら『希望』になるはずです!」
「おいコラ、ルシーファ」
お前、何気にボーギルを慰めながら『泥船』だの『絶望×絶望』だの、俺の事をボロクソに言ってねーか?
「いいか、ボーギル! 俺はスゴピカとは違うからな! きちんと意思確認するぜ? ボーギルが好きなのはカシコで間違ってないんだよな?」
そこの前提条件が間違っていると、話が違ってしまう。
「ちょ、待て、待て、旦那!! いや、まぁ、その、そこは間違ってねぇが、でも、俺としては、全力で遠慮させてもらうぞ!? そっちの意思確認を先に明確にしとこうぜ!?」
「いいか、ボーギル、ちょっと耳貸せ!」
俺は、ヤツの耳元で囁いた。
「俺と結婚させられるのが嫌なら腹をくくって全身全霊でカシコを射止めろ!! お前が独身のままだから、あのバカ親父に勘違いされちまうんだぜ?」
「うぐっ……!」
どうやら俺の指摘がぐうの音も出なかったようだ。
それでもボーギルのヤツがジト目で「勘違いする方もする方だぜ」と呟いていたが、精霊に人間の理論は通用しないのだろう。
「おい、スゴピカ、コイツはすでに別のヤツと結婚することになっているんだ。その場合は、俺の嫁には出来ないだろ?」
「そ、そうなの? それは残念だなぁ……良い相手だと思ったのに。ああ、だからあんなに怒ってたんだ? それは悪い事をしたね……」
うん。そうそう。コイツ、既婚者には一切、手を出さないんだよ。
多分『契約』を破棄させるのが面倒くさいだけなんだろうけど、そこは助かる。
「でも、安心してよ? 【精霊王の愛】はかーくんと結ばれなくても害は無いはずだよ? それに、魔力量も一気に増大してるし、ハーレムだって作りやすくなるし」
ハーレムは、カシコちゃんが納得するかな?
だが、まぁ、今はコイツが納得して俺達を元の世界に戻してくれさえすれば良いのだ。
理想を言えば、その後、こっちに関わって来なければよりベターだ。
「えっ……? 俺、この体質のままなの??」
「さらに【祝福】を強化することはできるけど?」
「いや、遠慮します……」
そんな訳で俺達は無事に世界樹の中の世界……スゴピカの世界とつながってしまった異空間から、元の冒険者ギルドに戻って来た。
俺達の服装も元に戻ったし、ルシーファの体格はちび天使に戻っているが、ボーギルの種族は【亜神】のままだし、ステイタスに燦然と輝く【精霊王の愛】が痛々しい。
一応、あのバカ親父を納得させる為、本当にボーギルとカシコの幸せな結婚を目指す必要性が出てしまった。
……二人の結婚式に招待してくれるまで頻繁にここに呼ぶね宣言は、どうしても取り消すことができなかったのだ。
「まぁ……良いじゃねーか。腹くくれよ、ボーギル」
「ある意味、人生最大の冒険デスよ」
「よっ、S級冒険者!」
「やかましいわ!!!」
「では、ボーギル……まずは事情を説明してください。何故、カシコと結婚していないんでしょう? そこにどんな障害があるんですか?」
子供に戻ったルシーファがその小さな手で、台風にもみくちゃにされ濡れた犬のように全身から疲れの波動を放つボーギルの頭を撫でている。
聞けば、どうやら、ボーギルのヤツは何度かプロポーズっぽい事をしているらしいのだが、やんわりと断られているらしいのだ。
「どうしてなのでショウか?」
「それは、直接カシコに確認した方が良いでしょうね」
ネーヴェリクとルシーファが頷き合っている。
「…デモ、もし仮に、単にカシコ様がボーギル様に対し『結婚相手として魅力がない』と思われて居たらどうしたら良いんでショウ?」
「うぅ……確かに……これだけ近くで共に生活していて、脈無しですからね……」
「ネーヴェリクの嬢ちゃん、ルシ……もう少し包んでくれ、オブラート。悪気が無い分、心が痛むから……」
ボーギルが涙目でそんな二人に抗議する。
「何言ってんだよ、そん時はボーギル自身を『魔改造』して、魅力的な男に仕上げるしかねーだろ?」
「そうデスね」「それしかありませんか……」
「これ以上、俺を魔改造するのはヤメテあげてッ!!!」
その日、ボーギル氏の悲痛な叫びが、幾度となくギルドに響き渡った。
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