162 亜神・ボーギルの幸せな結婚計画
結局、お騒がせの精霊王はウチの亜神の前で正座させられていた。
さすが……亜流とはいえ、神。
精霊に対しても、物理攻撃が入るようになったため、無事、ふざけた野郎の顔面はパンパンに腫れている。
「つーか、どうしてくれるんだ!? この体質ッ!!」
「……はい、すいません……俺が調子に乗り過ぎました……息子に良かれと思って取った行動が、多くの皆様のご迷惑になることを顧みず、大変申し訳ございませんでした……」
土下座の体勢で深々と頭を下げるスゴピカのヤツに、こんこんと説教するボーギル。
強制的に着替えさせられている緑のドレスが、より目に沁みる。
「第一、婚姻つーのは、一人が勝手に盛り上がったからって出来るモンじゃねーんだよ!!!」
「……はい、申し訳ありません」
「相手を第一に考えろッ!!! 相手をッ!!! 『他者への思いやり!!』はい、復唱ッッ!!」
「はい! 他者への思いやりを忘れませんっ! ……相手の常識というものを意識し、行動するよう心がけます……!」
精霊って気まぐれでいたずら好きで好奇心旺盛だから、こってり絞ってやらないと、すぐ怒られた事を忘れるんだよな。
じーちゃんも、親父には説教ばっかりしてたって話だし。
「ボーギル様……どうして、あそこまで怒っていらっしゃるんでショウか……? 魔力量はあんなに増えたのに……」
そこは確かに。
……まぁ、要らない能力が増えたとしても、あくまでも、それは本人の意思で制御できる能力だ。
さすがに、無差別テロのごとく『ボーギルの傍に近寄ったら問答無用で即妊娠』みたいな事にはならないらしい。
であれば、使わなければ問題が無いはずだ。
……それを補って余りあるほどの魔力増加量である。
『育成型』の魔王と言えども、部下が亜神ともなれば流石に恩恵があるらしい。
その恩恵で、俺まで魔力量が増えたのはありがたい。
「ネーヴェリク、それはボーギルには、カイトシェイド以外に、結婚したい人が別に居るからですよ」
「えっ!? そうなの!?」「そうなんデスか?」
その爆弾発言に、思わず俺とネーヴェリクが同時にルシーファを見つめた。
いや、だって、ボーギルのヤツ、ずーーーーっと自分の独身を半ば自虐ネタみたいに嘆いていたじゃん?!
居るのか? 結婚したいような恋人?!
「……カイトシェイドも気づいていなかったんですか?」
ルシーファが呆れたようにメガネをかけ直した。
「だ、誰だよ? それ……」
「それは……プライバシーの問題なので、直接本人に聞いてください。わたしの口から伝えてしまって良いのか、わかりませんから……」
「ヒント! ヒントだけでも!!」
「……女性です」
「よっしゃ、これで半分に絞れたぜ! ……と、言うとでも思ったか? それだけじゃ分からねーよ! 俺の知ってるヤツか?」
「当たり前ですっ!! ボーギルといつも一緒に居る女性なんて数える程しか居ないじゃないですか!」
えー?
俺はルシーファと違ってボーギルと一緒に暮らしている訳じゃねーから、いつも一緒に居る女性なんて、カシコちゃんしか知らないぞ?
「……もしかして、カシコ様でショウか?」
ネーヴェリクの言葉に、ルシーファのヤツは、ふいっと視線を反らした。
「ネーヴェリク、そこは本人に確認してください」
えっ!? うそ!? 本当にカシコちゃんで良いの??
うわー……そ、そうだったのか……いや、まぁ、あの二人、息ピッタリではあるけど……!
そ~かぁ、ボーギルのヤツ、カシコちゃんが好きだったのか~……!
そういう風に言われて考えると、確かに。
いつも一緒に居るし……お似合いと言えば、お似合いだよな。
「よし!! そういう事なら、俺のアホ親父が珍妙な呪いをかけたお詫びに、俺が責任を持って、カシコとのウェディング・プランナーをしようじゃないか!!」
「名案デス! カイトシェイド様……! ネーヴェリクも協力しマス!」
「待ってくださいッ!! それは大惨事の予感しかしませんッ!!!」
思わずルシーファが顔色を変える。
「何言ってんだよ? ルシーファだって、ボーギルとカシコには幸せになって貰いたいだろ?」
「そ、それはそうですけど……!」
「それに、ウチのアホ親父がボーギルを俺の嫁に推すのはヤツが独身だからだぜ!? せっかく好きなヤツが居るなら、そっちと結婚してしまえば、こんなアホな事に巻き込まれずに済むだろ?」
「そ、そうなんでしょうか……?」
「それに、ほら、言うだろ? 『三人寄れば文殊の知恵』って!」
「『水』に『氷』と『白湯』を足したところで、結局、水ですよ!? 寄る知恵が『無』では無意味なんです!」
「でも、カイトシェイド様もルシーファ様も、少しは恋愛のお知恵がございマスよね?」
「……か、カイトシェイドよりは……まぁ……有ると思いますけど……」
待てコラ。何で「俺よりは……」なんだよ。お前の方がまともな恋愛経験無いじゃねーか!
俺だって『心の機微』は、多少わかるつもりだ。
「でしたら、大丈夫デス! アクア・クラーゲだって、身体の95~97%は水分でできているんデスよ? 三人で3%くらいなら、きっとなんとかなりマス!」
「そ、それは……」
「第一、カイトシェイド様は洞察力に優れていてお優しい方デスし、ルシーファ様も『智将』と謳われ、冷静な分析力には定評のある方デス! 確かに、ネーヴェリク達の知識……特に、恋愛方面に関しては、多少、難が有りマスが、きっと、力を併せればどんな困難であっても打ち勝てるはずデス!」
ネーヴェリクの優しい微笑みに励まされ、俺達のウェディング計画の幕が開けたのだった。
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