159 精霊に会おう!
とりあえず、俺は魔王による念話『魔王通信』で、全役職枠に対して、全員同時発信で『さっきのでき事と、3人が樹木の中へ消えた事と、世界樹の詳しい話を知らないか』と質問してみた。
だが、エルフの賢者であるカシコちゃんも、人間世界の常識に詳しいベータもあまり詳しく知らないらしい。
まぁ、まだ人間だった頃から考えても若手のアルファやオメガ、魔族としては生まれて間もないドエムン、高位魔族になって間もないゴブローさんは仕方がないとして、歳だけはバケツ十杯食っている元・四天王のマドラもサーキュも知らないのがなー……
何でお前ら自分の身体を磨く事には熱心なクセに、知識を蓄える方向には無関心なんだよ。
以前にカシコちゃんがルシーファの事を『智将』って呼ばれてたという話を笑っていたが、ウチの元・魔王軍で知能労働ができる人材が少なすぎるんだよなー。
まぁ、元のトップがアレじゃ仕方がなかったのかもしれないけど……
育てよう……ウチでは、知識面に興味関心を持ってくれそうな魔族を……育てよう……!
……と、俺が密かに決意を固めていた瞬間だった。
唐突に世界が変わった。
「ん?!」
しかも変わったのは世界だけではない。
どういう魔法なのか分からないが、その衣装も持ち物も一気に変わっている。
俺が所持していたはずのダンジョン・コアも無ければ、じいちゃんの遺品を入れていた時空袋も無い。
何かの植物の繊維から作ったような緑色のスーツ姿だ。
周囲の様子もまるで違う。
足元はコケむした山の上だろうか、ふかふかとくるぶしあたりまで沈み込むふんわりとした植物が生い茂り、周囲はうっすらと霧が蒸している。
霧の向こうに立っていたのは樹の皮の内側のような壁。
まるで植物系ダンジョンの中に唐突に放り込まれたような印象だ。
唯一、真正面にだけ、通路になっているのか、オレンジ色の暖かな光が小さく輝いている。
時空操作? だとしたら、相手はかなりの手練れである。
俺のダンジョン内で、コアや装備品だけを元のダンジョンに置いたまま、ダンジョンマスターである俺自身を取り込み、あまつさえ、この状態になるまで一切気づかせなかったのだから油断はならない。
その操作力だけ考えると、魔王どころか、神クラスだ。
「……随分と、荒っぽい呼び出し方だな」
まぁ、せめてもの救いは、相手はこっちを速攻殺すつもりは無さそうだ、という点か。
「【光源】!」
俺の指先にふわりと小さな光が灯る。
……ふむ? どうやら、ここは俺の『ダンジョン・エリア内』のまま、であるらしい。
俺が魔法を使えるという事は、別のダンジョンに強制瞬間移動をさせられた訳ではないようだ。
だが、ダンジョン内瞬間移動を発動させようとすると『ブブー』という不愉快な音が鳴り、魔力が四散してしまう。同様に、念話等の連絡系統も使えないようだ。
一部の魔法はかき消される仕様か……面倒な。
俺は、ふわふわのコケを踏みしめながらオレンジの光が差す方向へと進んだ。
すこし進むと、広場のような場所に出た。
「カイトシェイド様っ!」
「おう、旦那!」
「あ、カイトシェイド……」
「へ!? お前ら大丈夫だったのか!?」
そこで、消えたはずの3人と実にあっさり合流できた。
……のだが……
「って……何で、そんな恰好してんの?」
ネーヴェリクは良いとしよう。
胸元の開けた緑色のドレスっぽい服がかなり似合う。
頭の上にピヨピヨとカイワレのような木の芽が奇麗に並んでいるが、これも見方によっては緑のティアラに見えなくもない。
輝く銀色の髪、空色の澄んだ瞳、白い肌……うん。普通に似合っていて、かわいい。
……メイド服以外もたまには良いな……
ルシーファのヤツも……普通にかわいい。
ネーヴェリクによく似た印象の服装だし、いつものチビ天使ではなく、あの中央神殿でマチョリダやアブラタンクを言いくるめた時のような10代後半の姿に成長している。
元々、瞳の色が濃い緑だから、緑ベースの服はあっていると思う。
だが、ボーギル……テメェはだめだ……
なんで、おっさんが女のドレスみたいな恰好させられてんの!?
隠せ、隠せ! その脇の下の無駄な剛毛!!
ネーヴェリクとルシーファに似合う服がお前に似合う訳無いだろ?
俺と同じスーツ系じゃいけなかった訳??
「それは俺が一番聞きたいぜっ!!」
ボーギルのヤツが当然の叫びを上げた。
その時、薄っすらと光を放ち、俺達の前に現れたのは、見覚えの無い男。
柔らかなオレンジ色の光を放つ髪に、夕日のような瞳。
うっすらと半透明なのは、恐らくコイツが精霊の一種だからだろう。
精霊に年齢を問う事など無駄なことだが、見た目は20代から30代程度の青年に見える。
そいつは俺を見ると、慈愛に満ちた、と表現してもおかしくない幸せそうな笑みを浮かべて、こうのたまった。
「かーくん、大きくなったね! ……パパだよ~!」
と。
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