150【ラフィーエルside】VSカイトシェイド①
ダンジョン・バトルの火蓋が切られる瞬間、私はユキカゼちゃんとカザハナちゃんと一緒に、早速カイトシェイドさんのダンジョンへ足を向けた。
もちろん、見た目はごく普通の冒険者さんに見えるような恰好をしている。
ラビリンでダンジョンに潜るためには、きちんとこの街で冒険者登録をしなければいけないので、私たちは全員登録済みなのだ!
ユキカゼちゃんが女騎士のユキ、カザハナちゃんが魔法使いのハナ、私は回復術師のラフィというれっきとした冒険者である。
ふふふ~、これなら、魔王だとはバレないもんね!
「えーと、確かこの辺り……なっ!? なんですか、これはッ!!」
きょろきょろと該当ダンジョンを探していたユキカゼちゃんが驚きの声を上げた。
「ユキカゼちゃん、どうしたの? ……あ」
「……明瞭明晰。……分かりやすくて良い」
そのダンジョンは、入る前から異質だった。
「……こ、こんなアピール方法も有るんだね~……」
そのダンジョンの入口には、デカデカと『新しい魔法を覚えられるアイテムがザクザク出る! 成長増進・低難易度ダンジョン【期間限定!来月5日まで】<推奨レベル・D級以上>』と書かれていたのだ。
これのおかげで、この新ダンジョンに目を止めている『スコッパー』さんの姿がチラホラと見える。
それだけでもすごいのに、生粋のスコッパーではない、一般の冒険者らしき人達まで興味をひかれているみたいだ。
「何だ!? この変なダンジョン!?」「へ~……ここ、入ってみようぜ?」「でも、こんなトコロ『格付け』には載ってなかったよ」「まだ出来たばっかりなんじゃないかな?」「【期間限定】だって!」「新しい魔法を覚えられるって本当なら凄くない!?」「もう、俺達C級だから、全然行けるぜ?」
そんな会話が、いくつかのパーティーから聞こえて来る。
ウチのダンジョンにはまだ全然冒険者さんが来てくれない状態なのに、カイトシェイドさんのダンジョンはすでに注目を集めていた。
さすが、カイトシェイドさん……これ、早速、ウチでもマネしよう……!
私は、そう心に誓うと、解放されているダンジョンに入り込む。
中はオーソドックスな洞窟タイプみたいだ。
そうだよね……このラビリンの地形だと、このタイプが一番ダンジョン・ポイントが少なくても作れるもんね。
ダンジョンの名前にもなっている『新しい魔法を覚えられる』アイテムをドロップさせる方向にポイントを使っているんだろう。
それ以外の無駄は極力省いた造りは、シンプル・イズ・ベスト。
「……敵襲感知。……ラフィ様、下がって」
「あら? スケルトンですわ。これなら、私の一撃で……えいっ!」
ブンッ! ばきょんっ!
ユキカゼちゃんの振り回した刀に頭蓋骨を砕かれ、崩れ落ちるスケルトン。
推奨レベルがD級と低めな設定なだけあって、本当に一撃で敵を倒せてしまった。
と、同時に『テッテレー♪』という音が脳内に響き、一瞬あっけにとられた瞬間、ぽん! と明るい音を立てて、崩れ落ちたスケルトンの上に1枚のスクロール……そして、人数分の白い石が置かれた投票箱が現れた。
この石の数は私との取り決め通り、冒険者一人につき一日1個だ。
「な、なんですの!? これ……!」
「あーっ!! これ……! こうやって出すんだ、カイトシェイドさん……!」
この白い石と投票箱こそが私との闘いのキモ!!
見れば、そこには魔法文字だけではなく、この辺りの共通文字で『このダンジョンが面白いと思ったら白い石を箱の中に入れてください。投票いただけますと、当ダンジョン運営の励みとなり、ドロップアイテムが強化される可能性があります!』と書かれていた。
そっかぁ……私、投票箱は一番奥の部屋に設置してたよ~……
「……興味本位。……投票してみたく、なる」
カザハナちゃんも流石に投票こそしないものの、この方法はかなり面白いと思ったらしい。
そうだよね~、ドロップアイテムと一緒に出てきたら、ついつい注目して読んじゃうよね。
……うん! これも、マネしよう……!!
「くっ……流石、敵は魔王ね! やり口が汚いですわっ!!」
ユキカゼちゃんは怒ってるけど、ついつい入れてみたくなる煽り文句だよ、これ。……上手いなぁ。
私、何のメッセージもつけてないや……
か、改善せねば!
「……【才能開花】? ……ドロップアイテム、入手」
カザハナちゃんが、投票箱と一緒に出ていたアイテムを拾って私に見せてくれた。
どうやら、その人の潜在能力の内の一つを表面化することができるタイプの使い捨て型魔道具みたいだ。
潜在能力解放だから、どんなものが出るか分からないけど、確かにこれも面白い。
『ザクザク出る』の謳い文句どおり、2,3体に1個は入手できる計算なのかな?
もちろん、ドロップアイテムが出る時は一緒に投票箱が出る。ホント、抜かりないなぁ……!
多分、私たちは投票してないから何度も出るけど、1回投票しちゃったら出なくなるんだろう、とは推察できる。
でも、こんなに拾えるアイテムが多いと、冒険者側としては楽しいけど、ダンジョン・ポイントの消費量的にちょっとキツイ気がする……と、思ったら、パーティーメンバー全員分のスクロールを入手してからは、ドロップ率が落ちた。
……なるほど、こうやってダンジョン・ポイントを節約するのね。
ただ、それだと人数分集まっちゃったら、冒険者さんは帰っちゃうんじゃないかな?
いや、まぁ、粘れば出るけど……
そう思いながら数十体めのスケルトンを倒した時だった。
『テッテレー♪ レベルが上がりマシた! ユキは賢さが上がりマシた! ハナは魔力が上がりマシた! ラフィは魅力が上がりマシた!』
「ほえぇっ!?」
「えっ!? 【天の声】!?」
いや、この声には聞き覚えがある。
多分、カイトシェイドさんの副官の少女だ。
「……成長実感。……うれしい」
普段は割と無表情なカザハナちゃんが、ほんの少し口角を上向きにして目じりを下げている。
そうか! こうやって、冒険者さんに成長したことをわざわざ【念話】でアピールすることで、やる気を引き出しているんだ……!
確かに、ランクが上がったり、生存のステージが変わったりしない限り、なかなか【天の声】なんて聞こえないもんね。
これも『ダンジョン・デザイナー』でマネできるのかなぁ?
流石に難しいかな……?
このアナウンスができるってことは、カイトシェイドさんは冒険者さんの成長が視えるってことだもんね?
……ううう……これは、私には無理かも……
で、でもでもっ、他のギミックは『ダンジョン・デザイナー』で十分対応できるはず!!
「そろそろ戻ろう! ユキちゃん、ハナちゃん!」
「ラフィーエ……じゃなくて、ラフィ様、どうしたんですか? せめてボスエリアの調査は?」
「うん、それはまた後で来ようよ! それより……早く序盤を修正しないと、このままじゃ、どんどんカイトシェイドさんに離されちゃう!」
「……現状把握。……私もその意見に同意する」
「わ、わかりましたわ!」
大丈夫、勝負はまだ1か月あるんだから、これからだって、巻き返せる……!
私はそう己に言い聞かせて、自分のダンジョンへと戻ると、急いで改造に取り掛かった。
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