145 ダンジョン・バトルのススメ
「へー? 苗、だけでいいのか? 普通、魔王なら生産者やウチに生えてる樹ごと欲しいって言い出すと思うんだが?」
「いや、いらないです、いらないです!! わたしは苗だけで十分ですっ!!」
ぶんぶん、と首と手を横に振るラフィーエルさん。
「えー? 僕の姉さんをコイツから奪ってよ~」
そのラフィーエルさんの謙虚な態度に、ほっぺを膨らませて文句を垂れるミーカイル。
おい、俺の事を指差してコイツとか言うな。
「え~、嫌だよ~……だって、万が一、私が勝利しちゃったら、今度はみぃちゃん、私のことフルボッコにしてお姉さん連れ帰るつもりでしょ」
ラフィーエルさんがうんざりしたような口調で続けると「当然じゃん? 何をいまさら」という顔で首をかしげるミーカイル。
その態度に、一旦肩を落とすと、
「酷いんですよ、カイトシェイドさん! 聞いてください~! そもそも、私がこんな姿をしてるのも、みぃちゃんの趣味なんですよ!? 確かに、1回勝負に負けたのは私の責任でもあるんですけど……でも『お姉さんに似した格好をして欲しい』って……このメガネも、伊達ですし、髪の色だってわざわざ変更しているんですよ……!」
と、訴える。
え? そうなの?
この男……友人に姉のコスプレさせてるの?
うわぁ……病の根が深いなー……
「何だよ? カイトシェイド、言いたいことがあったら言えば?」
「…………」
「何とか言ってよ!? その肥溜めに生息するウジ虫を見るような顔、止めてよね!?」
「無茶苦茶だと思いませんか~!? 私、ルシーファさんにお会いしたことないのに~……」
「ホント、ソウデスネー……」
ちなみに、似ているか、と言われると、成長したルシーファとラフィーエルさんは、あまり、似ていない。
特にどこが、とは言わんが、一時的に成長させたルシーファは、もっと平面的で凹凸が控えめ。
ないわけではないんだけどな?
……よく言えばルシーファの方が儚げ。言い換えれば、線が細いっつーか、不健康そう。
逆にラフィーエルさんは大人の魅力たっぷりだし、もちもちしてて柔らかそうだ。
……スタイルだけならルシーファというより、若い頃のサーキュの方に似ている。
「でも『苗』だけで良いなら、別に『ダンジョン・バトル』をしなくても。お譲りしますよ?」
あんなもの、木の枝からでも、もっさもさ増やせるし。
「いえ、でも、そこは『ダンジョン・バトル』をお願いしたいんです! ただし、勝敗を決定するのは、コアの破壊ではなく『第三者である冒険者の評価』……というのはどうでしょう?」
「ほう?」
「実は、私……つい最近『ダンジョン・デザイナー』っていうスキルを覚えたんですけど……まだ上手くダンジョンが創れなくて……」
ダンジョン・デザイナー!
このスキルは『ダンジョン・クリエイト』とほぼ同じような能力で、使いこなせば侮れない。
ただ、ダンジョン内での使い勝手の良さは『ダンジョン・クリエイト』の方が一枚も二枚もうわて。
『ダンジョン・デザイナー』は『分身体』の作成も出来ないし、クリエイトに比べて制約が多い。
しかし、だからと言って『ダンジョン・デザイナー』は『ダンジョン・クリエイト』の下位互換である、と結論付けるのは見識が浅すぎる。
『ダンジョン・デザイナー』にも大きなメリットがあるのだ。
それは、その能力の持ち主が、ダンジョン・エリアの外に出たとしても、一切弱体化しない点だ。
これは、魔王の持つ『一つのスキル』として考えた時、かなり大きい。
「前の魔王会議の時に、カイトシェイドさんの副官の少女が『みぃちゃんのダンジョンをしっかり下見しておけば、ダンジョン・クリエイト持ちのカイトシェイドさんなら、絶対、負けない』って内容の話をしているのを聞いてしまって……」
少し恥ずかしそうに耳の後ろをかきながら答えるラフィーエルさん。
「だから、このルールでバトルさせてもらえれば、カイトシェイドさんのダンジョン創りのコツを見せてもらえるじゃないですか!」
なるほど、そういった狙い……か。
むしろ、彼女にとって、世界樹の苗はオマケなのかもしれない。
「それに、私のダンジョンの立地上……みぃちゃんみたいな殲滅型ダンジョンを作成するのには向いていないんです……殲滅なんてしちゃったら、ただでさえ少ない冒険者さんが来てくれなくなっちゃいますし……」
テーブルの上にのの字を書きながらどんどん俯いてゆくラフィーエルさん。
どうやら彼女、基本的には不運な苦労人気質で間違いなさそうだ。
この性格でなんで魔王やってんの? と不思議だったのだが、聞けば、北は、先代魔王の後継者争いが熾烈で、有力候補同士の潰しあいが加速しすぎた結果、魔王レベルの魔力を持つ魔族のほとんどが戦死。
……結局、回復魔法と付与魔法が得意で魔力量だけは豊富なラフィーエルさんにお鉢が回ってきてしまったらしい。
「お願いできませんか? 私に出来る事なら、きっちりお礼はいたします!」
ぷるぷると弾むご立派な山脈の前でぎゅっと両手を組み、必死に懇願の眼差しを浮かべるラフィーエルさん。
「そうですね……では、戦い方の内容について、ちょっと煮詰めましょうか?」
……そういうことになった。
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