137【サタナスside】そのころのただのデーモン
(くそっ、くそっ、くそっ……)
サタナスは一人、人間のふりをしながら酒場でくだを巻いていた。
すでに、見た目は浮浪者……まではいかないが、明らかに困窮し、落ちぶれた様子の人間に見える。
魔王・アークデーモンと、それでも高位魔族だった頃は、時空袋に最高級の防具を入れていたし、そもそも人間の姿に変身する必要性が無かった。
だが、ただのデーモンまで成り下がってしまったことで、時空袋を開閉するだけの魔力すらまともに捻出できなくなってしまっている。
そもそも、サタナスが持っていたアイテム自体が魔王が扱うようなハイスペックのものである。
普通よりも消費魔力量が高い代わりに、大容量で、保存されているものの時間も止められる高性能な代物だから、仕方がないとも言える。
だが、現状では完全に無用の長物だ。
袋の開け閉めをするだけで、魔力がゴッソリと持っていかれては、使いようがない。
結果として、彼はここに来るまでに倒した冒険者の古着を着用することを余儀なくされていた。
「なぁなぁ、ハポネスのダンジョンって知ってるか?」
その時、聞きたくもない名前が耳に飛び込んできた。
「ええ、もちろん! 噂では、そのダンジョンって『生きたダンジョン』で、お宝がスゲー出るって話ですぜ! 先輩のパーティーもそのダンジョンに向かうんスか?」
「ああ、その予定だぜ! お前たちも、今の護衛任務を満期まで勤めたら挑戦してみろよ! しかも、神殿の神託だと魔王の代替わりが発生したらしくてさ」
「魔王の代替わり!?」
「そういう時はダンジョンの活動が活発になるんだと! 危険も増えるけどそれ以上に期待できるぜ、お宝が!」
「マジっすか!?」
ギリィ……っ!
思わず、歯をキツく噛みしめてしまった。
(くそっ……魔王ラフィーエルの奴め……余の話を信用していれば、ハポネスなど一瞬でひねりつぶしてやるものを……)
実は、サタナスはミーカイルの元から逃亡した後、別の魔王に接触していたのだ。
サタナスは、北の魔王・ラフィーエルの元を訪ねた時のことが、脳裏によみがえった。
『……根拠不明。お前は信頼に値しない』
冷たい目線で、サタナスにそう言い放ったのはラフィーエルではない。
ラフィーエルの一介の部下に過ぎない雪女の少女だ。おかっぱ頭に切りそろえられた髪が風雪に揺れている。
『……伝言受理。完了済み。魔王・ミーカイル様の配下、トラオウ様よりお前を捕らえるよう依頼が出ている。トラオウ様は信頼に値する』
『違う! トラオウは騙そうとしておるのだ!! 余の話を聞いてくれ!!』
『……精神操作の魔力感知。お前は私に攻撃を仕掛けている。敵対的反応と判断する』
『……っ!』
結局、その雪女の少女からは、散々氷を浴びせかけられ、這う這うの体でラフィーエル陣営を後にせざるを得なかったのだ。
あんな、ギリギリ高位魔族の端に引っかかっているような頭の悪いガキに、追い払われ、胃袋がひっくり返るような屈辱を感じていた。
「なぁ、そのハポネスとミカイリムの迷宮街が交易を始めるらしいぜ?」
なお、ミカイリムとは、ミーカイルの本拠地としている迷宮街の名だ。
「おおお!? 街道が整備されれば、行くのが楽になるっすね」
その言葉を聞いて、サタナスの脳裏に閃くものがあった。
交易……つまり、あのダンジョンの外をうろつくカイトシェイド派の団体がいる、ということになる。
ダンジョンから出てきた雑魚を喰らい、力を蓄えて行けば、やがて力は戻るはずだし、カイトシェイドへの嫌がらせにもなる。
(ふむ……地道な努力こそ、覇道への近道か……)
サタナスはニタリ、と笑みを浮かべた。
だが、彼は気づけていない。
カイトシェイドへの攻撃が、どんどんみみっちくショボいモノへと変化している事を。
そして、街道、とはいえカイトシェイド達が計画しているのは『海路』である……という事を。
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