135 漁村を抱き込もう!
カウティさん曰く、人間はあまりに変化しない環境で生活すると、変化そのものを恐れるようになるのだとか。
この漁村、毎年、秋ごろには台風などで海に出られない日が続くものの、例え冬であっても海そのものが凍りつく程の寒さは無く……そこそこ真面目に働けば、家族で食っていく事はできるらしい。
採れる海の幸は、腐りやすいものが多いため、わざわざ半日もかけてハポネスまで足を延ばす者も少なく、街の生活も知らないし、贅沢も知らない。
だから、それに向かって手を伸ばしもしないし、知ろうともしない……という訳か。
逆に、その手の事に興味がある若い奴らは漁村から出て行ってしまうケースが相次いでいるそうな。
ココに残っているのは、ある意味、究極にエコな人々ってことか。
「それでしたら、説得は簡単です。お任せください」
俺は、にっこりと笑みを浮かべる。
要は、あれだ! コイツ等にギラギラな欲望の味をちょっとだけ思い出させてやれば良い訳だ。
あのアブラタンクほど、欲望まみれになられちゃったら困るけど、もう少し明るい未来の展望をイメージさせ、「変化」を楽しむ「好奇心」が輝きを放てるように煽ってあげればいいんだろ?
そんな訳で、急遽召喚したのはネーヴェリク、シスター・ウサミン、サーキュの3体である。
まずは、ネーヴェリクに急遽若返り用の風呂を作って貰い、すっかり枯れている村長たちのメンタルと体をリフレッシュ!
体の不調が無くなるだけで、かなり心も前向きになるもんな!
そして、シスター・ウサミンにこの辺りの漁村では珍しい、美味しくて珍しいメニューを作って貰って、皆に振る舞う。
味覚から好奇心を思い出して貰う作戦だ。
実際、シスター・ウサミンの作ってくれるココル・プディングの甘い味付けに使う植物がこのあたりでは取れないから、漁村ではかなり珍しいらしく、かなりの興味関心を引いていた。
さらに、最後にサーキュのヤツがかる~く、若かりし頃の欲望を煽る。
多少老化したとはいえ、腐ってもサキュバスだ。
この手の大衆を煽る能力はピカイチ。
まぁ、70代とか60代から見たら、保存状態さえ良ければ、アラサーもアラフォーもまだまだ可愛い大人の女だもんな。
逆にネーヴェリクやシスター・ウサミンみたいな10代後半の少女だと、孫レベルだろうし。
上品に体のラインを隠したサーキュがお酌にまわると、じーさま方の鼻の下が見事に伸び切っていた。
「いやぁ、こんな別嬪さんにお酌してもらえるなんて……しっかし、うめぇ酒だな、コリャ……」
「うふふ。このお酒も、遠方から取り寄せたものですの。確か、一本で金100枚とか……」
「そ、そんなに!?」
「あら? でも、流通が変われば、お値段も一気に安くなりますわ。このお酒がこんなに高いのは、危険な陸路で、幾人もの冒険者を護衛に雇った商隊が何日もかけてハポネスまで持って来るから、このお値段になってしまうんですのよ? でも、例えば、この村が港になれば、船で一気に何百本という量を持って来れますもの、お値段だってもっとお手頃になりますわ」
「おお、それで、港だべか~……」
このじーさんたち、男の俺やカウティさんが同じことを言っても聞き入れなかったくせに、サーキュが微笑みながらお酌してやれば、このザマである。
「ええ、積み荷の管理等でこの村に仕事が増えることは有っても、減ることはありませんし、むしろ、こんなに新鮮で美味しいお魚やコンブー草は高値で売れますわよ。私がお店を出すなら、使いたいくらいですわ」
「ほー……お店だべか~、こんな別嬪さんがいるお店が増えたら、ウチの息子もこっちに戻ってくるかもしれねぇなぁ!」
「あら、うふふふふ」
……よしよし。良い傾向、良い傾向。
「サーキュ、お前さ、前より今の方が落ち着いてて綺麗なんじゃねーの?」
ギロッ……!
褒めたつもりだったのだが、じーさま達からは見えないように俺を振り返ると、凄い目で睨まれてしまった。
解せぬ……
だが、たったこれだけの説得だが、純朴な田舎のじーさま方には、それなりに刺激的だったらしく「都会」になることも悪くないな感と、ちょっとした好奇心をそそれたらしく、翌日には港の建設反対派は一気に激減していたのだった。
よしよし。草の根ラインでは、港工事のための根回しは上手くいっている。
これで、他のギルド長や領主の説得が、はかどるはずだ。
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