133 世界樹を増やそう!
「魔導クローンの作り方、ですか?」
「おう、記憶にあるか? ルシーファ」
「ええ……まぁ、覚えてはいますけど……でもどうしたんですか? 急に?」
「実は……」
俺はグールさん達と水龍族さんが難民申請をしている現状を伝えた。
で、ルシーファに聞きたいのはタデクー達の食糧問題の方だ。
……流石に、ずーっと『腐肉サボテン』じゃ気の毒だもんな……
「なるほど、そういうことですか。作り方は覚えていますが、創るのは難しいと思いますよ? まず、何より魔王樹の樹液がたくさん必要ですし……」
「魔王樹の樹液がたくさん?」
「ええ、それが培養液になるので。どこまで育てるのかにもよりますが、大人まで成長させるなら、カイトシェイド自身がすっぽり全身頭まで漬かるくらいの樹液は必須ですね」
うーん、それはキツイ。
そもそも、魔王樹はダンジョン内の魔力を吸い取って種を発生させる性質があるので、まずダンジョンの階層を70階層程度まで成長させる必要がある。
そうすると、『魔力溜まり』が発生するので、さらにそこから運よく魔王樹の種を取らないといけない。
一朝一夕にできることではない。
ハポネスは植物資源に強い傾向があるようだから、もう少し浅い階層でも『魔力溜まり』が発生すれば、種が採れる可能性はあるが、流石に現状では難しいだろう。
「魔王樹の樹液は他のモノでも代用できないか?」
「……そうですね……世界樹の葉を煮出した汁でも大丈夫だとは思いますけど……そっちを探す方が難易度が高くありませんか?」
「世界樹の葉? それなら俺、持ってるし……」
「持っている!? そんなもの、どうやって手に入れたんですっ!?」
どうって……ガキの頃にばーちゃんから貰ったんだよ。杖として。
しかし、それを話すと余計困惑の度合いを深めるルシーファ。
「え? ええ??……世界樹って、普通……かなり高位の天使か精霊が近くにいないと枯れてしまうはずなのに……?」
「へー? じゃあ、お前が育ててみるか? 多分、俺の杖から、取り木で増やせると思うんだよな」
「取り木で増やせる!? 取り木って、あの樹の皮をくるりと少し剥いで、そこに水を吸わせた綿を巻いてしばらく置くと、根が出て来るから、根が出たらそこでカットして植えるっていう……あの取り木ですか?」
「ああ、そうそう、確かそんな感じ」
流石、趣味・ガーデニング。良く知ってるな。
確か、ばーちゃんが取り木でうんぬん、と言ってたけど、詳細なやり方はあんまり覚えていないから、ルシーファが知っててくれて助かった。
「そ、そんなに簡単に殖やせる植物でしたっけ!?」
「世界樹って、切り離された杖の状態でも普通ににょきにょき葉っぱが伸びてるし、大粒ゴキーブリよりしぶといぜ? ……魔王城に居た時だって、お前、体調悪いって時に薬として煮だしてやっただろ? それに、どんなに雑に扱っても絶対枯れないスゲー丈夫な木だぜ?」
魔王城の下水をかき混ぜても、マグマ詰まりを叩き壊しても平気だったからな、あの杖。
しかも、毟っても毟っても葉っぱが伸び続ける生命力なんだから、皮剥いだって平気だろ。
だが、何故かルシーファのヤツが頭を抱えている。
「いや、でも……サーキュの話が本当なら、わたしの記憶よりもカイトシェイドの経験の方が正しいんですよね……世界樹って、物凄く繊細な聖なる植物だと思ってたのは……操作された記憶なのでしょうか……? でも、そうすると……わたしが覚えているというものも信用が置けない訳だから……」
あー……なんか、一人で勝手にドツボにハマり出したな、コイツ。
「てい!」
ぴしっ!!
「痛っ!!」
勝手に自分の鬱スイッチを押したアホ天使のスイッチを切り替えるべく、加減してデコピンを入れる。
「そこ、そんなに気にするなよ。いいじゃねぇか、普通、転生したら前世の記憶なんて引き継がないし、多少でも残ってるだけ十分ありがたいし、転生してからは弄られて無いんだから、サタナス性健忘症が治ったと思っとけよ」
ルシーファの奴は一瞬反論しようと口を開いたものの「あ……」とか「う、」とか呟くだけで、まともな反論は出ない。
デコピンが余程痛かったのか、突然、無言で涙腺が決壊しはじめたので、俺も思わずぎょっとして、わしわしとチビ天使の頭を撫でてしまった。
いや、だって、突然ポロポロポロポロ無言で泣き出したらビビるだろ!?
お前の体液、何かの素材になりそうだから採っとけよ、とか注意しづらい雰囲気じゃん!?
何か言えよ!? おい!
しばらくすると、メガネを外してぐしぐし涙を拭い取り、
「……それもそうですね!」
と、何故かスッキリとした笑顔で答えた。
「まぁ、失敗したらそれはそれだし。とりあえず、やってみてくれよ『世界樹の植樹』と『魔導クローン』作り」
「わかりました、お預かりしますね。ああ、ボーギルとカシコには、わたしの方から魔族が増えることを伝えておきます」
「おう、頼むわ」
俺は、ルシーファに世界樹の杖を預けると、意識の方をもう一人の『分身体』へと移動させたのだった。
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