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ぶどうの実る山  作者: 青沢桂
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青い糸のかすれることを願う

町の中で人は食べて飲み、自分の望みを、魔鏡に映る影を追いかけて、その人生の終わりまでの時を消尽していく。

 町に、男がいた。

 男はただ死を願った。

 こんな不完全で、つまらない世界は要らないと思った。

 金だけは手に入りそうだ。人の世が、ただ俗っぽく、金が一応回っている、そういうつまらない、寂しい世であるというのなら、「私自身もそのように生きようではないか」と思った。

 昔から、物語をつづる者は、女のふりをしたり、男のふりをした。トランスセクシュアルであるのが普通であるらしい。心の性別が女であるなら、女、心の性別が男であるのなら、男。そのようにした。そして源氏名を、女の名前にしたり、男の名前にしたり。文体が女なら、女の名前。文体が男なら、男の名前。

 鉄の貨幣が百枚ほど手に入れば、と、その男、葵は願った。しかし町で金を手に入れることは、すぐには叶わない。きっと葵が金を願う願い方が足りないのだろう。でも、きっとこの寂しい世では、毎日食べて、毎日遊んで、というだけの金しか、手に入らないのかもしれない。青い糸は切れるべくして切れる。赤い糸は一応つながる。でも赤い糸などという平凡なものに価値などあるだろうか。青い糸をつなげることも、無理ではないのかもしれない。でも人は町に埋もれて生きる。この町羅蛇らだには、もともと遠い国・ハンガリーのような手付かずの自然などない。溢れんばかりの緑の葉や、スープにしても食べつくせない野草の群落もない。そして、琥珀色の心を持った少女、そんな少女との青い糸も、望むべくもなかった。あの少女樟くすは、どこかへ行ってしまったに違いない。

 人の願いは叶う。しかし、その願い方が間違っていると、うまくいかない。願いはこの世、つまり世俗と同様のものでなければならない。人の世は空しい。ただ、幻だけがある。魔鏡がある。そして町の、もはや山や林とは違った、あまり流れない空気、そしてもはや輝かない星、中世のような鮮烈さのない肉の味。中世のような野生種の青菜、野生種の果実はもうない。南アメリカから、ヨーロッパ人が梅毒とともに持ち帰った煙草を吸ったり、「葵一人のために」「人々、つまり呪力を持ち得ない社会が、ではなく、自然界が用意した(!)」少女・樟、その偶然の出会いを忘れてただ切れた青い糸が消えていくに任せた。この時代には恋は社会の荒さの中に消えてしまう。自然と都市は一応似ていた。

次回へ続きます。

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