~仕えの人達そして、領主との面会~
予想通りメルリに小言を言われたが、ミューレンに遮られ、不満そうな表情だったが寮の部屋へと向かった。
長い廊下を皆で移動する事に、変な空気を感じたが、他の新入生等も同じ様な感じだった為、これが当たり前なのだろうと納得するしかない。
移動中、メルリが聖堂長、ミューレンが修道院長だからなのか、それとも二人が領主の娘と知っているからなのか、職員や他の新入生の保護者達は頭を下げ道を譲る。どっちにしても、明日からは二人は常に側に居ないとなると、周りからの風当たりが強くなりそうだ。
「ライトの部屋はこちらです。迷う事はありませんね。真っ直ぐ進んだだけですから」
確かに、小ホールを出てから何処も曲がってない。自分が今晩から生活する寮で、迷子になったのでは話しにならない。
中へ入ると、正直自宅より立派で広い。ほぼお金持ちしか居ない所なだけに、それに見合う作りになっている。
リビング、キッチン、浴室、トイレと寝室が三部屋…。広すぎるでしょ。下町との格差も大きすぎる。
「そして、ここに居る者達が、ライトの付き人となる人達がです」
メルリの一言で、リビングにて待機していた者が一斉に並ぶ。
「は、はぁ…ずいぶんいらっしゃいますね…」
先日色々言われた記憶があるが、こんなに必要なのかと思う。
軽く自己紹介をされたが、一気に全員を覚えられる自信がない。一応、俺なりにまとめた。
保護者代理、メルリ、ミューレン
自室専属教師、フォスター
護衛、エドガー、オルデン、シュティッヒ
秘書、ベルサリオ
家事手伝い、セルジュ、アイリス
料理人、マキシス
総勢十人となった。
「あれ?レンフィールは?」
「私も保護者代理ですよ?」
いつもの愛らしい笑顔で、保護者代理を宣言した。
「ライトに関わり合えないのは、私達がズルいと言い始めましたので、レンフィールも保護者代理として登録しました」
軽くため息混じりで、メルリは話すが当の本人には悪気はない。
修道院からお世話になって、大体どんな人物なのかわかっているつもりだから、考えただけでも笑えてくる。
一通り全員に目を向けると、黒髪の男性から声を掛けられた。年頃は二十歳になるかならないかで、すごく落ち着いた雰囲気を出している。これがベルサリオだ。
「ライト様、メルリ様達とマキシスと護衛騎士以外は、こちらでお世話になります。寝室が三部屋ありますので、フォスター様とアイリス、セルジュと私ベルサリオが使用させていただきます」
「あっ、はい」
ベルサリオは、帳面を開き更に続ける。
「入学式と入寮式が、本日の重要な予定となっており終了しましたので、このあと領主様との面会となっております。多少なりともお荷物があるでしょうから、片付けはセルジュとアイリスにお任せ下さい」
何もわからない状況には変わらないので、ベルサリオにある程度部屋の中の事は丸投げしたしまった方がいいのかもしれない。それに立場上、俺は彼らに従って行動する事になるだろう。
「ベルサリオ、いっぺんに事を説明しても、ライトが理解できなければ意味がありません。少しずつで構わないので、お話しください。それと、一人一人、信頼関係を構築してください」
ズラズラと話すベルサリオをミューレンが止めてくれた。
「失礼致しました。以後気を付けます」
「それと皆さん、ライトは下町である東区出身ですが、私達が保護者代理となっている以上は、彼を無下に扱う事は断じて許しません。例え、信頼のおける私の側近だったとしても」
メルリの言葉には凄く重みがあった。それゆえ、仕え達の表情が強張り緊張感が漂う。
年末、メルリは言った。「忠実な側近」と。彼等にとって彼女の存在は絶対的な事に違いない。
「一通り顔合わせはよろしいかしら?お父様を待たせてありますので、学習院長の所に行きます。面会終了後、私達は聖堂及び修道院に戻りますので、護衛はオルデンとシュティッヒにお願いしましょうか?エドガーは、今後の護衛当番を明確にして、二人に伝えてください。ベルサリオは同行、残りはライトが戻るまでに、各自の仕事をこなすように」
『かしこまりました。』
一同は、メルリにより指示を出され、散り散りに持ち場へ赴く。一人一人と会話をするのは、このあとの面会後か…。それにしても、領主と面会だなんて…気が重い。
護衛の二人とベルサリオを同行させ、学習院長であるロックヴォルフの所へ向かう。向かうと言っても、俺はただ皆に付いて行くだけ。三階まで階段を上がり、少し進むと学習院長室と表記された扉があった。
護衛のオルデンとシュティッヒは扉の前で待機、俺達は無言のまま部屋へと入る。
「失礼致します。お父様、ライトを連れて参りました」
メルリの言葉に先程、中央ホールにて見かけた男性のあった。扉を開けて入室しているのだから、気が付かない訳はないのだが…、今気付いたようにわざとらしく振り向く。
「おぉ、君がライトか。メルリやミューレンから話は聞いているぞ」
友好的な感じで握手を求めてくる。面と向かって話をするのは、初めてとなるが、第一印象は悪くない。この領主であるシャレンが、あの惨劇を引き起こす引き金になるとは到底思えない。それほど、切羽詰まった状況になったのだろう。
「初めまして、ライトと申します。右も左もわからないままですが、聖堂長と修道院長のおかげで、こうして入学することができました」
「歳の割に、話せる奴か?いやいや結構。このアウンティナルーは今領地全体的に、魔力が足りなくてな…。原因としては、個々の力が衰えているとでも言って置こうか?」
衰えている原因は何か?根本的な所を見直す必要があるのではないか?俺は ただ黙って聞いていたが、そのように考えているのが顔に出ていたらしい。
「君がアウンティナルーにとって、良い方向に影響してくれればと私は思うのだが…。何か考え事か?」
「いえ、私一人ではなんともならない事ですので…。少しでもこのアウンティナルーの為になる様、学習院にて精進致します」
最大限の笑顔で答え、その場を切り抜けた。直接話す前に、一度メルリとミューレンに相談してみるか。
本来、このままだと、あの夢の様な現実が訪れる。俺が…ライトが学習院に通う事になり、その事実が変わるのか?今更になって不安になってきた。いずれ卒業し、シャレンの側近となり、尚且つ聖堂専属の楽師として勤めたとしても、そればかりは拭いきれないだろう。
「では、今日はこのくらいで。ライト、後は戻っていいですよ?」
「明日以降、私がフューリーをお届けしますね」
このままメルリ達は、学習院長室に残りまだ話す事があるようだ。レンフィールが、フューリーを届けてくれる事に喜びがわいたが、先程考えた不安は消えたりする訳ではない。
ベルサリオに促され、俺は学習院長室を出る。
出入りで、オルデンとシュティッヒが立ち、護衛にあたってくれていた。それすらも忘れていた。
「ライト様終わりですか?」
「少々顔色が悪い様にも見えますが…?」
彼らは退室してきた俺に気付き、声を掛けてくれた。そんなに考え込んでいたとは思わないが、二人には何か重い空気を、感じさせてしまった。
「大丈夫です。お部屋に戻りましょう。皆さんとお話しがしたいです」
「お言葉ですが、お話し…とは?」
「先程、部屋で皆さんと初めて会ったのに、挨拶だけで終わってしまったし、いくら聖堂長からの指示とは言え、下町出身である僕の世話係の任務になった訳で…」
メルリの命令だったとしても、下町出身の俺の世話は、彼等には苦痛かも知れないし、コミュニケーションをとって、彼等の事も知っておかなくてはならない。
自室に戻ったところで、オルデンとシュティッヒは部屋の扉の左右に別れて立つ。護衛対象者が家や自室に居るときは、扉の前で警戒するらしい。
「おかえりなさいませライト様」
部屋へ入るとセルジュとアイリスが、堅苦しく迎えてくれた。前々から気になっていたが、敬語をで話されるとこっちが息苦しくなる。
アイリスに案内されリビングの椅子に座ったところで、一段落する。
「お疲れですね」
「慣れない事ばっかりで…」
声を掛けてくれたのは、アイリスだった。小柄な体型に腰まである赤毛のロングヘアを一本に結んでいる。
「下町とは違う生活になるでしょうから、慣れるまでの辛抱ですよ?」
「そうですね。アイリスも学習院出てるんですか?」
「はい、学習院卒業しなければ、従者として寮に立ち入る事もできませんから」
と、言う事はここに居る全員が卒業生ってことで…いわゆる先輩だ。ベルサリオだけじゃなく、他の人達でも学習院についてわからない事は相談できそうだ。
「アイリス、セルジュ、マキシスに頼んでお茶でも準備してください。その間に明日以降の予定等をライト様にお話しします」
ベルサリオの一言に、セルジュとアイリスはキッチンへと向かう。それを確認すると、ベルサリオは一枚の紙をテーブルに置いた。内容は、一日の流れが書かれている。まぁ、夕涼みの刻までは基本的に講義、それ以降は自由時間。
「一日の流れは、記載されている予定となっております。但し、講義の行事等で、若干ズレが生じる事も御座いますので、あくまでも予定です」
「わかりました。夕涼みの刻以降は、自由時間となっていますが、食事や入浴以外の時はどのようになるんですか?」
「自主学習や、それこそライト様のご用事の時間にあてて構いません。学習時間に関しては、フォスター様とご相談して決定して頂いて結構です。その際は、どのように割り振りしたのか、私にお知らせください」
ある程度、時間の融通は効くのであれば、フューリーに触る機会も増える事だろう。レンフィールが来てくれれば、一緒に演奏することも出来る。そう言うことであれば、今日はそのタイムテーブルを決めつつ、セルジュとアイリスとコミュニケーションをとることにしよう。
そんな簡単なやり取りをしているうちに、セルジュとアイリスが戻ってきた。
「失礼します、お茶をお持ちしました」
見た目とは裏腹に、セルジュは丁寧な手付きでテーブルにカップを置く。それにアイリスが、静かにお茶を注いでいく。
「丁度良かった、セルジュ、アイリス、席に付いて下さい」
俺の言葉に二人は戸惑いを見せる。何も困ることを言ったつもりはないのだけれど。
見かねたベルサリオが、説明してくれる。従者は基本的に主の前に座る事は禁止されているらしい。主の前に立つ者は、その者よりも立場が上か、または移動中の警護騎士だけのようだ。
「ですが、これはライト様からのご指示。二人とも席に付きなさい」
全く、上の階級の人達のルールや、生活には息が詰まりそうだ。まして、後ろ楯が、領主の娘であるメルリ達だ。皆が、神経質になるのは、解らないでもない。
「あまり、緊張しないで欲しいです。元々、僕は下町出身なので、個人的に見れば皆様の方が上階級なんですから…。それに、先程は軽く自己紹介だけだったので、時間が空いた今、皆様と交流したいだけです」
「申し訳ありません、お気持ちを汲み取れず…」
意図を説明してもなかな考え方が固い。それほどまでに上下関係が厳しいのか。セルジュは少々ショボンと肩を落としている。そんなに気にする事ではないと思うが。
「私から言うのはおこがましいですが、ライト様。ライト様が下町出身でも、メルリ様達が保護者代理となっている以上は、領主一族と同じ立場にあることを忘れてはいけませんよ?」
アイリスの言葉にベルサリオも頷く。確かに、領主一族と同じって所には未だに自覚はないが、彼女達が保護者代理として俺を預かってくれるのを条件に、自宅に警護を付けたり、こうして従者を準備してくれたのだ。
「わかりました、忘れない様にします」
その後、割りと噛み砕いた雰囲気で、各使用人とコミュニケーションをとることが出来た。…と、思う。
セルジュは、十四歳の学習院卒業したての少年。まだ会ったことはないが、メルリの母親とセルジュの母親が幼なじみで、その関係でメルリ達の側近として、卒業後、配属されたそうだ。濃紺の髪が、幼さの残る顔を一層引き立てている。思い込みが少し強い様だが、負けず嫌いな所も潜めているらしい。
同じ世話役としてのアイリスは、セルジュほど領主一族と密な関係ではないが、学習院での成績が良く、ミューレンに直接オファーされたようだ。それ以来、二人に恩義を感じ忠誠を誓う様になったそうだ。ベルサリオの話だと中流階級とは言え、裕福ではない家庭だそうだが、誠実な対応やそつない仕事で、メルリやミューレンから高い評価を受けているらしい。
「二人とも、聖堂長達には一目置かれているんですね。まぁ、僕もなんだかんだ言って、お世話になっていますけど」
「メルリ様、ミューレン様からのご指示であれば、死力を尽くす次第です。ね、セルジュ?」
「そうですね、私は母のおかげと言う部分はありますが、領主一族には評価して頂いて居るようですから、そんな方々を裏切る様な真似は決してできませんし」
マキシスと話す事もあり、二人には席を外し仕事に戻ってもらう。代わりに彼を呼ぶようにと、指示を出し現れるのを待つ。しかし、マキシスは夕方の支度中とのことで、「手が放せない」と断られた様だ。仕方ない、マキシスと警護騎士とはまた別な時に時間を取ろう。
「お話しは終わりました?」
様子を伺っていたようにフォスターが、寝室から出てきた。すっかり忘れてた。見える範囲に姿が見えなかったから、何処か行っているのかと思っていた。




